ラトビア転生記 ~TSしたミリオタが第2次世界大戦を生きる~

雪楽党

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最終章 終わりの刻

16話

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 最終決戦の幕が切って落とされた。
 最初に砲を放ったのはほかならぬリューイ・ルーカスであった。


「やっぱりこの大隊はおかしいよ!」
 砲撃にさらされたエレーナはそう叫んだ。
 距離は彼我の距離は700メートルほどある。
 にもかかわらず、少しばかり建物から出ていた戦車の砲塔を貫いた。
「隠れて! 反撃しようとしなくていいから!」
 彼女はそう叫ぶと建物の陰から相手を覗いた。
 早くも戦車を1両失った。
「大丈夫、距離を詰めて乱戦になればこっちにも……」
 それはトゥハチェンスキとエレーナが何度も野良犬と戦ううちに編み出した戦法だった。
 連携と遠距離攻撃能力に優れる敵部隊に対しての有効手段はそれが以外になかった。
 乱戦になればT34の機動力や小型さを活かすことができる。
「大丈夫、大丈夫。私たちはできる」
 エレーナは自分に言い聞かせるようにそう言った。


「まったく、懲りもせず乱戦狙いかしら」
 完全に建物の裏に隠れた敵を見て私はそう呟いた。
 敵は時間を稼ぐのが最上目標だ。
 ここで怖気づいて遠目からの射撃を続けていても意味がない。
 かといって距離を詰めると敵の狙い通り、乱戦になる。
「こういう時、どうするべきだと思う?」
 私はそうのんきにリマイナに尋ねた。
「リューイがしてる指揮っていっつも同じじゃないの?」
「あら、心外ね」
 リマイナの言葉に私はそう言って笑った。
 そして、周りを見渡した。
 皆が、私の命令を待っている。
「何が来るのかわかってるのにそんな目を向けないでよ」
 私がそう言うとクラウス大尉が「ご命令を」と尋ねてきた。
「総員、全速前進。踏みつぶせ!」


「総員反撃用意! 1両でも多く喰らって!」
 エレーナは素早くそう命じた。
 彼女の命令に呼応するように配下の戦車が物陰から砲塔を出すと猛烈な砲撃を加えた。


「走りながら牽制射!!」
 私は砲塔から身を乗り出して叫んだ。
「当ててもいいの?」
「当てれるもんならね」
 リマイナの問いに私はそうにやっと笑った。
 その直後、リマイナの放った砲弾が敵の戦車を貫いた。
「どう?」
 得意げなリマイナの表情を見て私は無限の自信が湧いてきた。
 もしかしたリマイナさえいればこの戦闘勝てるのではないだろうか。
「相変わらず化け物ね」
 私はそう言って笑った。


「もう! ほんとに何なの!!」
 その頃エレーナはそう言って砲塔を殴りつけていた。
「なんで走りながら当てれるの?!」
 エレーナは信じられないといったように叫んだ。
「変わりますか?」
 砲手がそう尋ねてきたのをエレーナは「お願いします」と答えると席を入れ替えた。
 彼女の戦車に乗る者たちはみな、孤児院出身の者たちだった。
 その練度は、一般兵を大きく超える。
「右翼と左翼から部隊を進出!!」
 エレーナは車内からそう命じる。
「見てて、トゥハ。私は必ず野良犬を殺す」
 そう呟くと一番近くにいた敵戦車に照準を合わせた。


「ユリアン大尉! クラウス大尉! 両翼から市内に突入!」
 私は鋭く命じた。
 おそらく、敵も同じように機動させるはずだ。
 何もせずに中央突破できるほど敵は弱くない。
 ならばどうするか。
 敵とがっぷり四つで組み合って目の前から張り倒すしかない。
 その直後、最前線にいた味方の戦車が爆ぜた。
「ッ! 負傷者収容!」
 私は素早く反応した。
「両翼の展開は後回しでもいいわ! とにかく負傷者を収容しなさい!」
「了解!」
 私の命令にユリアン大尉が素早く応じる。

「士気が、落ちなければいいのだけれど」


「うんうん、そうするよね」
 スコープから野良犬たちの動向を見守るエレーナは満足げにつぶやいた。
「あと少しで戦争が終わるって時に味方を見捨てられないよね」
 足の止まった敵部隊を見てエレーナは得意げな笑みを浮かべる。
 敵の行動は全て予想がついていた。
「一気に畳みかけて!!」
 エレーナはすぐさまそう命じる。
 直後、野良犬たちに降り注ぐ無数の砲弾。
「勝利を目の前に、油断したね」
 エレーナはそう卑しく笑った。


「リューイ! 一回退こう!!」
 リマイナの言葉に、私は苦虫をかみつぶした。
 今私たちは猛烈な砲撃に晒されている。
 いつ直撃して撃破されるかもわからない。
 そんな中に在って部下たちは必死に仲間を救出しようと勇敢に戦っている。
 いつもなら、損害を無視して突撃できた。
 だが、この勝利を目前にした今。
 そんなことできようはずもない。
 ならば、退くか?
 否。
 ここで引けば敵は態勢を立て直す。
 そうなれば有利な条件で降伏を受け入れるしかなくなる。
 今、ここでソ連の息の根を止めなければ……。
 泥の沼の戦いが待っている。
「……どうしたらいいの」
 二重苦に私はそうこぼした。 
 いつもなら、負傷者の収容はロレンス中佐に丸投げして、私は戦う事だけに集中していればよかった。
 だが、この場に彼はいない。
「大佐ァ!! ここで退けないんですね?!」
 その時、アウグスト少佐がそう声を上げた。
「ここで退けば、モスクワは落ちないものと考えなさい!」
 私はそう応じた。
 それを聞いた、少佐はこう答えた。
「なら、しょうがないな?」
「えぇ」
「大佐がそうおっしゃられるのなら」
 少佐の問いに、ユリアン大尉とクラウス大尉がそう答える。
「諸君。大佐に命を捧げてるんだったな?」
 クラウス大尉は兵達にそう尋ねた。
 それに兵達は無線で「応」と応じた。
「だ、そうです大佐殿。我らは一度大佐に銃口を向けていますんで」
「どういう事かしら」
 クラウス大尉の言葉に私は声音を低くした。
「本来なら軍法会議で死刑ものですので。ここらで戦果を挙げさせて頂きたく」
 その言葉を聞いて私は驚いた。
「怖くないのかしら」
 私の問いにクラウス大尉は小さく笑ってこう答えた。
「大佐と共にレニングラードで戦った時からこの命、大佐に捧げておりますので」
「私もです」
 両大尉の返答に私は何処かおかしくなってしまった。
 そう言えば、昔も私のために命を投げすてた仲間がいたなと思い出す。
 こうなれば、私がくよくよしていたも仕方がない。
 気持ちを切り替える。
「オーダーを。旅団長殿」
 少佐の言葉で決心がついた。

「損害を無視して進みなさい! 履帯を破壊されようと! 砲塔が破壊されようと! 最後の一兵となるまで戦いなさい!」

 結局、私は何人の部下を殺せば気が済むのだろうか。
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