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第一章

第十五話 叶と志穂のダンジョンサバイバル生活(強制)①

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 周囲を見回すと背後の木々の向こうに大きな湖が見えた。飲水の心配は無さそうだと考えていると腕を引っ張られる。

「攻略って言ってもどうすれば良いんだよぃ。暗くなっちゃうよぃ。叶~、怖いよぃ~」

 志穂が私の腕にしがみついて、ガタガタと震えている。

「あれ? 志穂って暗いのとか、お化け屋敷とか、平気じゃなかったっけ?」
「知ってる場所なら暗くても平気だし、お化け屋敷も作り物って分かってるから平気なんだよぃ~、ここジャングルじゃんよ~、デカい魔物の声するじゃんよぃ~」
「志穂、一つだけ言っておくよ? あの声は魔物ではあるけど、魔獣っていうのに分類される魔物の方の声であって、魔族っていう人に近い姿をした魔物の声じゃないよ」

 自信満々に説明する私を見て震えるのをやめた志穂が聞いてくる。

「安全てこと?」
「うんにゃ、超危ない。話も通じないと思うよ」
「だめじゃん! 死んじゃうじゃん!」
「そう! だから怖がってる場合じゃないよ志穂! 生き残らなきゃ! ギギファラさんも流石に、本気で死ぬようなダンジョン創ってないはずだし、こういう時はまず拠点を作るか見つけて安全を確保したら、どこか高いところに登って周りを確認しよう」
「うぅ、叶が頼もしすぎるよぃ~」
「志穂もさっき、火の魔法スキルを覚えたって言ってたでしょう?いざって時は私が魔獣を縮めるからとどめさしてね。私は呪いで知力『1』になってるから最悪、効かないかも知れないし」

 発動もするし、見た目も志穂の火の魔法と変わらなかったけど、実際に効くかどうかは当ててみないと分からない。

「分かった~」
「じゃああっちの開けた場所から調べていこう」

 遠くに視界が確保できそうな草木が少ない場所が見えたので、その方向へ身体ごと振り向くと志穂が背後から私の背中を鷲掴みにする。

「叶の背中にもついてたよぃ」

 背中に貼りついてた紙を剥がし、まだ少し震えている手で渡された。読んでみる……鷲掴みにされてたので、皺だらけで読みづらい。

『一番、背の高い木を目指して右回りに中心へ進んでいくと、安全に回れます。油断せずに行動してくださいね? エリアボスと呼ばれる魔物を倒せば、帰還用の魔法陣が開きますよ。基本的には群れを纏めている魔獣や一番強そうな魔獣がエリアボスです。探してみてください』

「ボスを倒せば帰れるぽいね。大きな大木ね?」

 周りに木がいっぱいで上を見上げても空すらまともに見えない。開けた場所か湖どっちに行けばいいか……私は木の枝を二本拾って志穂の頭に叩きつける。

「わっぷっ! 何するんだよぃ」
「投げた木の枝を追尾して映像復元よろしくぅ」
「先に口で言えやい!」

 苦情を聞かずに半笑いで、一本目を投げるモーションを繰り返す。仕方なく目を閉じて集中した志穂が相槌を打ち、片手でやる気なくサムズアップする。私も頷き開けた方へ、全力で木の枝を投擲する。上昇してるステータスの力もあって、木の枝は時速600キロ以上で飛んでいった。

「グワるるるるぅ」

 ベキッバキッボキッ、嫌な音が響く。映し出された光景を見ると、私の腕ほど太かった木の枝が粉々に噛み砕かれる。一見するとサーベルタイガーのような姿をしている化け物がいた。良く見ると身体が植物の蔦でできており、昆虫のような八つ目と口を持つ化け物が左右を見回しているが何もいなかったことに気がつき、木々の間で草むらに伏せると、落ちていた大きな骨を拾い上げ齧り始めた。ご機嫌で唸り声を上げている。

「oh……近づいたら死んでたじゃん、食べられてたじゃん、亡きものにする気満々じゃん……叶ざぁぁぁぁん」
「ガチ泣きしないの。帰ったらギギファラさんに文句を言って責任を取らせるから」

 ガチ泣きしだした志穂を黙らせ、次は湖の方へ投げるモーションをする。涙を拭いながら「わがった~」言うので木の枝を全力で投げる。次は安全に飛んでいき映し出された光景を見ると、湖の端にある崖の上に大きな大木が見えた。高さが東京タワーくらいある。湖も思ってたより大きかった。多分、あの大木の下にボスがいるはず。

(……冷や汗が流れた。さっきのより、強いのかなボスって?)

念のために右側のジャングルにも木の枝を投げる。遠くへ飛んで木に弾かれ、しばらく待ってみてもなんの反応もなかった。

「やっぱりあの魔獣がいる方向とは逆に右回りすれば良さそうだね。行くよ志穂」
「ぶぁ~い」

 一度、警戒しながら湖の方へ行って、アスが飲み散らかして邪魔だったのでしまっていた最上級回復薬の瓶をアイテムボックスから取り出し、水を補給して志穂と分ける。泣きながら水をしまう志穂の手を引っ張り、進みながらさっきの開けた場所の映像を思い出す。木が不自然にねじ折れていた。

(あれってあの魔獣が木を食いちぎって作った〝縄張り〟なんだろうなと一人納得する)

 一時間半ほど歩くと、魔獣に遭遇することもなくジャングルを抜けれた。途中で食べれそうな果物を採ることもできた。草原になっている場所に警戒しながらでると、遠くの方にジャングルが見えた。

「一定間隔で草原と森が続いてるのかな?」

 高いところに登って確かめようにも、大木のある崖以外は同じ高さをした森の木々ぐらいしか登れそうな場所はない。呟き周囲を見回し、空を見上げた瞬間、閃く。空に木の枝を投げれば良かったのにと、今まで気がつかなかった自分に呆れる。草むらをかき分けるのに使っていた木の枝を志穂の手からぶんどると、空に向かって投げる。

「なにしてるの、叶?」

 私の奇行に志穂が顔を上げて聞いてきたので、顔を赤らめながら降ってきた枝をキャッチして差し出す。

「高いところに登る意味なかった」

 ジャングルの中は木の枝や葉っぱで空が見えなかったので高いところに登るしかないと思ってたけど、湖で水を汲んだときにでも空に向かって木の枝を投げていれば、上から確認できたのだ。私も結構、気が動転してたらしい。珍しく恥ずかしそうにしている私を見つめて、きょとんとした志穂は唐突に笑い出す。

「プッ、プァハハハハハ、笑わせないでよ、叶~」
「気がつかなかったの~、志穂だって泣いてばっかりで役立たずだった癖に~」
「ごめんごめん、はぁ~、はい」

 木の枝を空に投げた映像が周りに写し出される。ジャングルは円状に時計を模したように〝広いジャングル〟と〝狭い草原〟交互に拡がっていて、中心へ行くほど細くなっている。湖は東西南北に存在していた。私達が今いるのは九時の方向だった。三時の方向から螺旋状の坂が、反時計状に崖の上へ向かって続いているぽい。大木の下には大きな生き物が見えた。

「目的が決まったね」
「叶が笑わせてくれたおかげで元気がでたよい! 志穂ちゃん復活!」

 元気を取り戻した志穂の笑顔に安堵する。それともう一つ、草原の所々に岩場が存在しているのが上から見えた。岩場の中心は草がなく、土の地面が広がっていた。ギギファラさんが余程のクソじゃなければ、安全な拠点はあの岩場のはずだ。というか上から見た限り休めそうな場所が他にない!

(草原で寝ろとかだったら、帰ったから暴動を起こすぞ!)

 心の中で本気で思った。志穂に岩場に行くことを伝えると二つ返事で同意してくれた。あと一時間もすれば完全に夜になりそうだった。

「やっとついたよぃ~、つかれた~」
「ほい、志穂さんや、木の枝投げるよ~? ちゃんと見ててね、そ~れ~」

 岩場の近くに辿り着いた志穂は、気を抜いて今にも座り込みそうだったので木の枝で頭を叩き、岩場へ投げると放物線を描きながら落ちる。写し出された岩場にはなにもいなかった。二人で警戒しながら岩場に入ると大丈夫そうだ。汚れるのも気にせず二人で座り込むと水と果物を取り出して貪る。

「生き返るよぃ~」
「癒やされるぅ~」

 ひたすら食べ続けた私達は最後の果物を呑み込み、現状を整理する。

「あのサーベルタイガーみたいな魔獣がいたときは死ぬかと思ったけど、こっち側には何もいないね?」
「あんなのがいっぱいいたら私は死んじゃうよぃ」

 本気でトラウマになった顔をする志穂に一つだけ確認する。

「どうする? ジャングルで拾った枝とか二十本くらいあるけど焚き火する? 今日ここで寝るよね」
「う、どうしようか、焚き火すると野生の動物とかよって来ないらしいけど魔獣ってどうなの?」
「アスって自分で『植』と『蟲』って言ってたんだよね~、アスに合わせた魔獣がこのダンジョンに放たれてるならどっちの魔獣も明かりに反応して逆に集まって来る気がするぅ」
「やめよ? 火を焚くのやめよ? ほら月明かりでも結構明るいし?」

 空を見上げると月が出ている。いや、月なのだろうかと二人して疑問に思う。

「交互に眠って、見張りしようか?」
「ん~、何度も使って解ったけど、私の完全記憶保管庫って『映像』と『音』だけじゃなく『匂い』も表現できるぽいんだよ。私達の偽物の映像を大きめの木の枝に被せて、私達には岩の映像被せて岩場の影で寝ない? 木が砕ける落としたら起きるよね?」
「確かにあの魔獣が木の枝噛み砕いた音が鳴れば起きるけど、私がぎりぎりまで起きとくよ」

 正直、寝てるときに死にたくない。

「分かった。じゃあ限界がきたら起こして、私も見張りやるから交互に寝よう」
「おーけー」
「じゃあ、お先にごめんね。おやすみ、叶」
「おやすみ、志穂」

 そのあと、志穂が眠る前に木の枝に被せるように写し出された私達の映像を眺めながら、二人で交互に見張りをしながら朝まで寝た。結局なにも出てはこなかった。

「おは~」
「おはよ~叶」
「全ては無駄だったか」
「精神が擦り減っていくねぃ」

 二人で水だけ飲むと、朝ごはんを調達するためにも次のジャングルを目指す。草原を七割ほど進むと、足をなにかに絡み取られて思い切り顔面から芝生のような草に突っ込む。

「うわっぷ!」
「叶! 火炎の杭フレイム・パイル

 足元が靴越しでも熱い。

「ちょっと、なにしてるの! 熱い!」
「今、牙が生えた花みたいのが、叶の足に食いつこうとしてたんだよい!」
「ええ!」

 慌てて足を見ると、焦げた草むらに花びらの束と牙、黒紫色をした水晶が落ちていた。志穂に目で促すと、頷いて拾い上げてアイテムボックスにしまい込む。表示された説明をみる

『魔力吸い花の花弁かべん』……花びらの中に魔力が溜まった花弁。魔力回復薬の材料になる。

『魔力吸い花の牙』……噛みつき、血とかいして魔力を啜る。微弱だが麻痺毒がある。

『魔晶(極小)』……魔力を含んだ水晶。様々な用途がある。

 ドロップアイテムだと分かった。魔獣だったぽい。噛まれてたらやばかったかも知れない。

「思ったよりも弱かったねぃ」
「そうだね。これなら何匹来ても安心だね」
「叶ざぁぁぁぁぁん! それフラグでしょうぉぉぉっ!」
「いやいや、そんなお約束な……うそん?」

 わらわらと、こちらに近づいてくる紅い絨毯が見える。だが良く見ると、蠢く無数の蔦の身体と紅い花弁に黒のまだら模様が浮かぶ魔獣の群れだと分かった。

火炎の杭フレイム・パイル! おお! 私の魔法でも倒せる? 知能『1』の影響って魔法にはないの?」
「叶! 向こうに岩場があるからあっちに逃げながら倒そう!」

 私の魔法でも倒せたことに喜んでいると、志穂に急かされた。なんで岩場の方角分かったんだろうと思ったけど、一度見たのをユニスキの完全記憶保管庫の能力で思い出したのかと勝手に納得する。疲れることもなく、子供と同じくらいのペースで走ってくる魔力吸い花に徐々に追いつかれる。

「「火炎の杭フレイム・パイル! 火炎の杭フレイム・パイル! 火炎の杭フレイム・パイル!」」

 ラタンに魔法は慣れるまで初級から使っていくように言われていたため、二人して火炎の杭フレイム・パイルばかり撃っていたけど、埒が明かないと思ったのか志穂が叫ぶ。

「叶、無理! これ無理、多すぎるよい! 二段目か三段目の使おう!」
「ええ! ラタンに止めとけって言われたじゃん」
「追いつかれるよぃ~、二割しか倒せてないじゃんか~! 爆ぜよ、爆ぜよ、爆ぜよ硝煙! 吹き荒れる灼熱の波よ! 我らが前に──」
「志穂! 駄目だって!」
「全ては白く! 燃え尽きろ!」

  詠唱がいるのは中級以上の魔法だ! 私が止めるのも聞かずに志穂は魔法を唱え終わる。走りながらだったため、ちからずくで止めれなかったのが悔やまれる。

爆煙の絨毯バースト・カーペット!」

 立ち止まった志穂の爆ぜる炎の波に飲まれて数百体いた魔力吸い花が消えさる。

「やったよい!」

 それフラグぽいのだけどと思っていると案の定、三割ほど残った魔力吸い花が爆煙を抜けてくる。前衛しか倒せなかったのかも知れない。

「志穂、もう一回逃げながら倒そう! 志穂?」

 返事がないので志穂を振り返ると力なく地面に倒れ込んでいた。 

「志穂! 爆ぜよ、爆ぜよ、爆ぜよ硝煙!」

 私は咄嗟に志穂の前に飛び出すと同じ魔法を解き放ち、倒れる。できれば全滅してて欲しいと、願う思いも虚しく抜けてきた三十体前後の魔力吸い花が私の全身にまとわりつき、血と魔力を啜る。

「カ……ナエ……」

 志穂が私を呼ぶ声が、酷く遠くに聴こえる。全身から血の気が失せていく、変異召喚で苦し紛れに魔力吸い花を縮めるも数が多すぎる。遠退く意識の中、半分ほど縮めれたと考える中、私の意識は途切れた──





    
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