上 下
14 / 15
第一章

第一四話 人が嫌がることってしちゃいけないと思うんですよ〜

しおりを挟む
 あれから『竜姫の要塞都市ネグロニア・ドラグネス』の様子を見て、ラタンが座り込んだまま動かなくなった。竜姫の話では既に『魔導の楽園都市ロマタイト・パラダイト』では『大賢皇』の努力により、奴隷扱いされていた小さき魔王達は人権を確保し、信国の『豊穣の神殿都市カルルデン・アグリシア』では初めから、ダンジョンの一部を食料ドロップエリアとすることで友好関係を築いていた。本当なら悪人を殺したとはいえ、継承の魔王が大量虐殺して少なくない数の罪の無い民衆を巻き込み大怪我を追わせなければ、魔王討伐の話に関与することもなかったらしい。
 実質的に小さき魔王達を奴隷として扱っているのは商国の『重壁の商業都市クラウグス・ウォールズ』のみとなっている。それさえも王国と信国の説得が続いているため、いずれはなくなると語っていた。そこまで一気に話した竜姫は最後に締め括った。

「我らを虐げる者達は最早、風前の灯だ! 生きよ! 生きよ! 散って逝った同胞達の分までお前達が幸せになるのだ! もう二度とお前達を不幸にはさせない! 我……」

 大歓声が室内に響き、最高の瞬間を迎える! 破顔はがんしていた小さき魔王達の顔から涙が溢れ出す。今まで堪え続けていた、全ての想いを乗せて泣く。もう、自分達は自由なのだと! 竜姫の寵愛を受けた彼らを脅かす者はもういないのだ……

「……我、竜姫エルドレイア・ネグロニア・ドラグネス・オルバーナ・ディロイ・ププルッチェ・シーントワイラ・オルチェ・パルパルトントン・プワワワルン・デネブスブタ・ドゥースの我が真なる名の元に!」

「「「ぅぉおおぉぉぅっ……!」」」

 小さき魔王達の声がどんどん尻すぼみになっていく。……ざわざわというの声が広がっていく。ヒソヒソと声がする!

「おい……竜姫様の名前ってあんなに長かったのか?」
「い、いや、知らねぇ。初めて聞いただよ……」
「うそ~、うそ~、うそ~」
「知らなかった、エルドレイア・ネグロニア・ドラグネス・オル……なに?」

 男女それぞれが近くにいる者に、名前について思い思いの言葉を投げかける。竜姫はそれに頷き手を下げると再び、小さき魔王達に声をかける。

「我が真の名はエルドレイア・ネグロニア・ドラグネス・オルバーナ……」
「「「「「「「いやいや! もういいよ!」」」」」」」

 皆の心が一つになった瞬間だった。ここで映像の投影を終わらせた志穂がぎこちなくラタンと私を振り向く。声をかけれないらしく、目だけでどうするか訴えてくる。ユニークスキルで会話することさえ忘れてしまうほどに困惑していた。私もどうすればいいか分からず、放心するラタンに近づき声をかける。

「ラ、ラタン? ほ、ほら、プーダだよー? ふわふわだよー?」

 気絶してて邪魔だったからずっと、服の胸元に入れていたプーダを取り出すとひっくり返してふわふわした鬣とお腹をラタンのほっぺたに押しつける。ピクリとも反応しないので、少し強めに押しつけるとそのまま反対側に倒れてしまった。

「あわわ! ラタンちゃんしっかり! よく分かんなきけど小さい魔王ちゃん達、助かったんでしょう? 喜ばなきゃ! ね?」
「そうだよラタン! これでもう、ラタンがあの子達のために犠牲になる必要は無いんだよ? 今後はなんとか、安全を確保して引きこもる方法を探そう? アスと継承のダンジョンがあれば食料の心配ももうしなくて良いんだよ? 引き篭もろう? ね?」
「そう、だな? そうなのだな? 我はもう頑張らなくても良いのか? 好きに生きて良いの……か?」
「そう、これからは志穂ちゃん達と楽しく過ごそうよ! 悲しんでる時間なんてなくなっちゃうよ?」
「ラタンには私達やギギファラさんやアス、プーダもいるでしょう? 皆で仲良く暮らそう? そうしよう?」
「う、むぅ……少し考えさせてくれ、部屋で休んでくる……ぞ……」

 ラタンは一緒に倒れ込んでリュックの上で伸びているプーダをそれごと持ち上げ抱きしめると俯いたまま、転移で自分の部屋に帰って行った。

「えっと、叶、私達はこれからどうすればいいかな?」
「分かんなきけど、ギギファラさんが帰ってきたら聞いてみよっか?」
「うん」

 それから私達はやる事がなくなってしまい。宝箱を椅子代わりにして、段差に背を預けて、この二日の出来事を二人して話し合った。

「ええ? あの電話のあとにすぐにこっちに来てたの?」
「そうそう」
「あとはあれ、女神様ってちっさかった?」
「うん、ちみっこだったよい」
「あれ、私のユニークスキルで小さくしたんだよ」
「え? 女神様大きかったの?」
「うん、デカかったんだよ20歳前後くらいだった」
「oh……天然ではなかったか……」
「私は養殖ものでもいけるくちだからセーフだよ。フフフッ」
「カナエ君は雑食だなぁ~、まああれなら私もいけるかも知れない。どうやって縮めたんだい?」

 なんか志穂にしてはグイグイくるなぁと、不思議に思いながらも答えると。

「縮んでくれた女神様にバレないように、変異召喚ってユニークスキルを使って店にあった『プチット魔法少女プチプチプッチ』のフィギュアを手元に取り出して、抱きついた隙きに複合錬金ってユニークスキルで使ったらできたぽい? まあ上手くいくかは半々だったけど」
「上手くいって良かったじゃぬぁいかぁ、それってギギファラさんにもできたりしない? もし縮めれたら、私のドストライクぽいんだけどな~」

 なるほど~、グイグイくるのは自身の欲望のためだったとは恐れ入る。ギギファラさんには、たまに悪戯されてるから私も常々仕返しの機会を伺っていたのだ。これはチャンスかも知れないので志穂の案に同意してみた。

「できるかも知れないよ? 今なら前より自分のユニークスキルについて、色々分かってきたからね。 なにかギギファラさんを縮めるおすすめのフィギュアある?」
「もちのもちさ~、この怪物幼女クトゥグニァルフのフィギュアでどうだろうか?」

 取り出されたそれは、目を瞑った少女の額に第三の目があり、影から眼のついた触手が生え、褐色の肌と際どい衣装に滑り込むように巻き付いてるフィギュアだった。
 
「ふむ、成功しようと失敗しようと、このフィギュアなくなっちゃうけど良いかな?」
「よいやいやい。そいつは布教用さ!」
「こいつフィギュアまで観賞用、保存用、布教用、揃えているのか? ゴ、ゴクリッ私はとんでもない奴を友に選んじまったようだぜぃ……」
「クククッ、だてに家の手伝いで、お小遣いを時給として貰ってはいないからね。並の中学生とは違うのだよ、並の中学生とは!」

 などと遊びつつ、フィギュアを受け取り変異召喚を使ってみると光り輝きながら私の手のひらにパンツが降りてくる。

「なに? カナエ君は真正の変態に目覚めたかい、私達の友情もここまでかな?」
「違うから女神様の呪いだから! なんか、何度か使って分かったけど、無機物はパンツになって、生物は縮むぽい? 生き物には一度しか使って成功したことないから分かんないけど」
「それって、蛇のぬいぐるみぽいのだよねさっきの」
「そうそう、あの蛇って頭と鬣だけで二階建ての一軒家より大きかったからね」
「でけぇやい……それで直接、ギギファラさんを縮めれば良くない?」
「やってみたけど、弾かれたの!」

 志穂が驚愕し、聞いてくる。

「それって弾けるものなの? 私、今の見てても対処できる気がしなかったんだけど」
「よく分かんないけど、能力説明して目の前で見られたら対処できるらしい。余り、強そうな人とかに手の内を見せないようにした方が良いかも知れない……」
「了解~理解した。志穂ちゃん賢くなったよ」
「ともあれこれをこうして見る」

 私はパンツをアイテムボックスにしまい込む。すると説明が表示される。

『怪物幼女クトゥグニァルフのレプリカから作られたパンツ。生き物に合成すると姿形を近づける事ができる。かも知れない?』

「生き物に合成ってなにさ?」

 横から見てた志穂はすかさず突っ込んできた。やれやれ、突っ込みのレベルが高い友人を持つと辛いぜと首を振る。

「私のユニスキ『複合錬金』が合成扱いぽいんだよね~よく分かんないけど」
「ユニスキって面倒くさがりか!」
「そっち? まあなんにせよ、これをギギファラさんに複合錬金すれば縮ませることができる〝かも〟知れない」
「かも?」

 確証が持てないのには理由がある。女神様のとき、離れたところから複合錬金しようとしたらできなかったのだ。

「多分、生き物に複合錬金使うには触らないといけないぽいんだよね~。ギギファラさんに触れるかな~、殺気に凄い敏感というか、そもそも心を見られてるから筒抜けになってるぽいんだよね~、不意をついて触れる気がしない……」
「じゃあ、ちからずくでくっつけちゃおう。二人がかりでユニスキ連発すればいけるかも知れないよい」

 私が天井を仰いで落ち込んでいると悪魔の囁きを親友がほざく!

「心を読むのに距離が関係してるかも知れないし、離れたところに罠を仕掛けて潰そう!」
「貴様、天才か……」
「しししっ~、カナエ君ほどではないよ~い」

 手はずが決まった。早速、二人がかりで宝物庫の入口に罠を張り巡らせる。一つにかかると連動して一つ目を発動させた人物に罠の雨が降りかかるのだ!

「時間をかければ罠レベル1でもここまでできるものだね。二人がかりで三時間もかかけたかいがあるよい!」

(フハハハハハッ! くぁんぺきだぅあぁぁあっ、ギギファラ~、今日が貴様の命日だぁははははは、今までも屈辱全て晴らしてやるぞ~! 千倍返しだあ!)

「お二人とも、準備ができましたよ。とても良いダンジョンです。お二人のレベルをラタン様と互角まで引き上げれる、最高のダンジョンを作製できましたよ」

 ビ~ンッ、と紐に足を引っかけたギギファラさんの頭上から無数の宝箱がなだれ込み、志穂のユニスキで地面に空の上を写しだし、天空に投げ出された演出を加える。ギギファラさんは一瞬だけビクッと震えると、地面を転がるように前転しながら逃げる。するとそこに大きな落とし穴が開き、ギギファラさんは穴の中に消えた、上からアスの力で宝物庫に実りまくっていたトマトみたいな果実が降り注ぐ。ベタベタになったであろうギギファラさんに謝りながら近づき手を伸ばす。悟られ失敗するなら全身で抱きついてでも複合錬金してみせる!

「すいませんでしたああああああぁぁぁぁぁっギギファラすわぁぁぁぁぁん! 志穂と強くなる訓練のために作った罠の数々が、ギギファラすわぁぁぁぁぁんに当たるなんて梅雨ほどもおもいませんでしたあああぁぁぁ! ささ! 私めの手に捕まってくださぅぁい!」

 罠にかかったギギファラさんに、わざとらしくも大袈裟に謝り勢いで誤魔化す。

(遠距離から罠にかかったということはやはり、心を読むためには近距離でないといけないはず! だが突然の罠とベチャベチャになった果実に埋もれて冷静な思考はできないに、違いない! 貰ったぞおおおぉぉぉっ!)

 反対側で志穂が、もし飛びだりてきたときは飛びつくつもりで身構えている。もう一度言おう、この勝負貰ったぞおおおぉぉぉぅっ!

「では、お二人ともダンジョンで思う存分に鍛えてきてくださいね? もし死んでしまったら骨だけは拾って上げますよ?」

 青筋を浮かべたギギファラさんが一切の汚れも傷もなく、私の背を押したあと志穂に何か投げつける。瞬きすらしない一瞬で志穂の後に転移すると、その背中も押して私にも何かを投げつける。それが口に入り飲み込むと二人揃って落ちる。そして理解して、思い出す。

「あ、転移できるじゃん……」
「叶のあほぉぉぉっ~!」

 そして私達の姿は穴の中に消えた。不幸中の幸いはベチャベチャになった果実に当たってベタベタになる前に、ギギファラさんの転移でどことも知れない場所に送られたことだろうか。

「ここどこですかね、叶さん?」
「ジャングルじゃん?」

 そこには、視界いっぱいに広がる熱帯雨林があった。前テレビで見たアマゾンにも見える。植物が地球上に存在しないほど禍々しく、大きくなければ地球に戻ってきたと思ったかも知れない。日は傾きかけていて、このままではジャングルで一夜を過ごすことになってしまう。震える志穂の腰に紙が挟まっていたのを見つけたので抜き取り読み上げてみると。

『お二人にはそのダンジョンを一ヶ月以内に攻略して頂きます。先ほどお飲みになられたものは、アスフィアに作って貰った木の実です。一ヶ月経つと中から大量のダニが溢れ出し、血を吸い付くし、膨れ上がって内側から人間を破裂させる……特製の木の実です。罠を作ってまで訓練していた、お二人に優しすぎるハンデですね? 因みに、そこは魔王としての権限を全て使えないくしてある特別なダンジョンですので、頑張ってくださいね。ギギファラさん応援してますよ?』

「「oh……」」
「激怒じゃないですかい、叶の旦那~」

 ギギギギッとこちらを涙目で振り向く志穂が青い顔をしている。多分、私も同じ顔をしている。

「あのとき、志穂の囁きに耳を貸さなければこんなことにはならなかったのに……」

 私がオーバーリアクションで顔を覆う。

「ああ! 責任転嫁! 同意したからね? 叶さっき、同意してたからね?」
『グオるるるるぉぉぉっ』

 森の中から大型の肉食獣に似た鳴き声が響く。

「うわぁぁぁっ、私聞いたことあるよい。昔動物園で餌投げたとき、本気で取り合って喧嘩してた熊がこんな声だったよいよいよい」
「私は虎の檻に手を伸ばしたときこんな感じだった……」
「「どうしよう……」」

 二人で涙目になって途方に暮れる。もうすぐ日も暮れる。
しおりを挟む

処理中です...