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第一章
二
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ドアを開けたのは、兄とそれほど歳の変わらなそうな、燕尾服を着た男性だった。
男性は、つり上がった目を弓なりに細めると、恭しく頭を下げる。
「お待ちしておりました、ノルティーン辺境伯令嬢。さあ、どうぞ中にお入りください」
「……ありがとう、ございます」
(……なんだろう、妙な威圧感があるような……)
物腰は低く声色はにこやかなのに、男性からは言い知れぬ圧のようなもの感じた。
少々戸惑いながらも城内へと足を踏み入れれば、外とはまた違う、ひんやりとした冷気がシーラを包み込んだ。
扉の閉まる静かな音を聞きながら、シーラはエントランスホールを軽く見渡す。
少々陰気な雰囲気だった外に比べ、城内は乱れも汚れもなく美しかった。
床の黒大理石は鏡のようにシャンデリアの光を反射し、ところどころに施された金装飾が華やかな雰囲気を醸し出している。壁や天井、二階へ続く階段も黒く、絢爛というよりは荘厳という言葉のほうが似合う雰囲気だ。
「東部公爵城は一般に“黒曜城”と呼ばれていますが、築城の際、黒曜石は一切使用されなかったのだそうですよ」
「……!」
はっと後ろを向けば、燕尾服の男性が口元に笑みを浮かべ、軽く頭を下げた。
「自己紹介が遅くなりました。東部公爵家にて旦那様の補佐をしております、ギーと申します。卑しい生まれですので姓はございません。どうぞ、ギーとお呼びください。敬称も敬語も不要でございます」
「あ……ええと、丁寧にありがとう。わたしはシーラ・ユニス・ノルティーンよ。これからよろしくね、ギー」
先ほどの圧は勘違いだろうか、と安堵したのも束の間、顔を上げたギーの目は少しも笑っていなかった。それにぎくりと肩を震わせたものの、ギーは変わらずにこやかに続けた。
「こちらこそ、よろしくお願い申し上げます、奥様――っと、これは少々気が早いですかね。ははは!」
「はは……」
(……嫌われている、という感じではないのかな)
目は笑っておらず、変わらず妙な威圧感はあるが、ギー自身から敵意のようなものは感じない。それに安堵しつつ曖昧な笑みを返していると、ふと彼が笑みを消した。
反射的に背筋が伸びたものの、ギーはただ静かに深く腰を折った。
それとほぼ同時に、床を蹴る軽やかな靴音がホールに響く。
言葉はなくても、ギーの行動の理由がすぐに理解できた。
激しく脈打つ心臓を押さえながら、シーラはゆっくりと後ろを振り返る。
(――!)
そこには、ずっと恋焦がれていた“彼”がいた。
階段を上った先、二階の回廊で、彼はこちらを見下ろしている。
艶やかな黒い髪に輝く金の瞳。怜悧な雰囲気を纏ったその人が、そこにはいた。
(……ジル)
最後に会ったときに比べると、顔つきは大人びたように思う。涼しげな目元が、妖艶な色香を漂わせていた。
黒いシャツを一枚着ているだけなのに品があり、凛と立つ姿は芸術品のようだ。
「――ぁ」
「部屋へ案内しろ、ギー」
「かしこまりました」
冷たく言い放ったジルヴィウスに、シーラは開けた口を閉じる。
求婚の手紙を見たときから、なんとなく覚悟はしていた。しかし、実際ジルヴィウスに冷たい態度を取られると、何とも言えない気持ちになった。
(……「妻に」って……ジルが望んでくれたんだよね……?)
抱いた疑問は、口に出すことができない。
トランクの持ち手を握る手には、自然と力が入った。
そんなシーラの心境など関係ないかのように、ギーは明るく声を掛ける。
「それではノルティーン辺境伯令嬢、応接室に――」
「執務室だ」
鋭く振りかかった声に、ギーは動きを止める。一拍置いて、ギーは笑みを張り付けたまま、ジルヴィウスを見上げた。
「……今、執務室とおっしゃいましたか?」
「……」
ギーの問いにジルヴィウスは何も答えない。ただ目を細めシーラを一瞥すると、踵を返し奥へと姿を消した。
頬を引き攣らせたギーは、それでも口元に笑みを湛え、シーラに向き直る。
「……ははは。では、旦那様の執務室へとご案内させていただきますね」
(……ジルに振り回されているのね)
ほのかに怒りを滲ませるギーに同情する。少しばかりギーに対し親しみを抱いたシーラは、肩の力を抜くと「よろしくね」と彼の後をついて行った。
階段を上り、両側に窓が並ぶ正面の通路を進んで行くと、開けた正方形の空間へと出る。
「こちらの通路をこのまま真っ直ぐ進んでいただくと、これから奥さ……ご令嬢がお過ごしになる本館へと辿り着きます。右の通路を進むと、メインホールや遊技場、ギャラリーなどがある南館に。左の通路は、客室や礼拝堂、劇場などがある北館に続いております。執務室や応接室も北館にございますので、今はそちらにご案内させていだきますね」
「ええ、ありがとう」
笑みを向けながら頷けば、ギーもぎこちなく笑みを返してくれた。
(もしかして、笑うのが苦手なだけ……なのかな)
ゆったりとした歩調で進み、シーラが目を向けるものがあれば適宜説明してくれるギーに、そんな考えが浮かんだ。
そう考えると、妙な圧も、もしかしたら緊張していただけなのかもしれないと思えた。
また「奥様」と呼びそうになっていたし、歓迎されていないわけではないのだと気分が上向く。しかしそれも一瞬で、すぐに先ほどのジルヴィウスの姿が思い出され、浮いた気持ちは再び地に落ちた。
(東部公爵家に仕えている人たちに受け入れてもらえるのは嬉しいけど、ジルに歓迎されないんじゃ……ん?)
シーラは、自分の考えに違和感を抱き、辺りに視線を向ける。
前を向いているはずなのに、目敏くシーラの視線の動きを察知したギーが、素早く声を掛ける。
「何かお探しですか?」
「ううん……いや、探してるのはそうなんだけど……その、ギー以外に使用人っていないの?」
恐ろしいほど静まり返った城内に、シーラは抱いた疑問を口にする。
言ってしまってから、聞いてもよかったのだろうか、と発言を後悔した。
城外の不気味な様子を思い出し、思わず身震いしたシーラだったが、ギーは特に気にした様子もなく「そうですね……」と続けた。
「いると言えばいますが……」
「あ、言えないならいいの! 無理に聞きたいわけじゃないから」
「いえ、無理というわけでもないのですが……まぁ、そうですね……使用人に関しては旦那様の裁量ですので、私のほうからは控えさせていただければと存じます。後ほど旦那様からご説明があるでしょうから」
「そう……わかったわ」
どうやら聞いてはいけないことではなかったらしい、とシーラは安堵の息を漏らす。
大人しくギーの後をついて行きながら、それにしても、と内心首を傾げた。
(ギーは執事とは違うのかな? ジルの補佐って言ってたけど……)
使用人がジルの管轄ということに疑問を抱いたものの、それもジルに聞けばいいかと、今度はよそ見することなく前へと進んだ。
男性は、つり上がった目を弓なりに細めると、恭しく頭を下げる。
「お待ちしておりました、ノルティーン辺境伯令嬢。さあ、どうぞ中にお入りください」
「……ありがとう、ございます」
(……なんだろう、妙な威圧感があるような……)
物腰は低く声色はにこやかなのに、男性からは言い知れぬ圧のようなもの感じた。
少々戸惑いながらも城内へと足を踏み入れれば、外とはまた違う、ひんやりとした冷気がシーラを包み込んだ。
扉の閉まる静かな音を聞きながら、シーラはエントランスホールを軽く見渡す。
少々陰気な雰囲気だった外に比べ、城内は乱れも汚れもなく美しかった。
床の黒大理石は鏡のようにシャンデリアの光を反射し、ところどころに施された金装飾が華やかな雰囲気を醸し出している。壁や天井、二階へ続く階段も黒く、絢爛というよりは荘厳という言葉のほうが似合う雰囲気だ。
「東部公爵城は一般に“黒曜城”と呼ばれていますが、築城の際、黒曜石は一切使用されなかったのだそうですよ」
「……!」
はっと後ろを向けば、燕尾服の男性が口元に笑みを浮かべ、軽く頭を下げた。
「自己紹介が遅くなりました。東部公爵家にて旦那様の補佐をしております、ギーと申します。卑しい生まれですので姓はございません。どうぞ、ギーとお呼びください。敬称も敬語も不要でございます」
「あ……ええと、丁寧にありがとう。わたしはシーラ・ユニス・ノルティーンよ。これからよろしくね、ギー」
先ほどの圧は勘違いだろうか、と安堵したのも束の間、顔を上げたギーの目は少しも笑っていなかった。それにぎくりと肩を震わせたものの、ギーは変わらずにこやかに続けた。
「こちらこそ、よろしくお願い申し上げます、奥様――っと、これは少々気が早いですかね。ははは!」
「はは……」
(……嫌われている、という感じではないのかな)
目は笑っておらず、変わらず妙な威圧感はあるが、ギー自身から敵意のようなものは感じない。それに安堵しつつ曖昧な笑みを返していると、ふと彼が笑みを消した。
反射的に背筋が伸びたものの、ギーはただ静かに深く腰を折った。
それとほぼ同時に、床を蹴る軽やかな靴音がホールに響く。
言葉はなくても、ギーの行動の理由がすぐに理解できた。
激しく脈打つ心臓を押さえながら、シーラはゆっくりと後ろを振り返る。
(――!)
そこには、ずっと恋焦がれていた“彼”がいた。
階段を上った先、二階の回廊で、彼はこちらを見下ろしている。
艶やかな黒い髪に輝く金の瞳。怜悧な雰囲気を纏ったその人が、そこにはいた。
(……ジル)
最後に会ったときに比べると、顔つきは大人びたように思う。涼しげな目元が、妖艶な色香を漂わせていた。
黒いシャツを一枚着ているだけなのに品があり、凛と立つ姿は芸術品のようだ。
「――ぁ」
「部屋へ案内しろ、ギー」
「かしこまりました」
冷たく言い放ったジルヴィウスに、シーラは開けた口を閉じる。
求婚の手紙を見たときから、なんとなく覚悟はしていた。しかし、実際ジルヴィウスに冷たい態度を取られると、何とも言えない気持ちになった。
(……「妻に」って……ジルが望んでくれたんだよね……?)
抱いた疑問は、口に出すことができない。
トランクの持ち手を握る手には、自然と力が入った。
そんなシーラの心境など関係ないかのように、ギーは明るく声を掛ける。
「それではノルティーン辺境伯令嬢、応接室に――」
「執務室だ」
鋭く振りかかった声に、ギーは動きを止める。一拍置いて、ギーは笑みを張り付けたまま、ジルヴィウスを見上げた。
「……今、執務室とおっしゃいましたか?」
「……」
ギーの問いにジルヴィウスは何も答えない。ただ目を細めシーラを一瞥すると、踵を返し奥へと姿を消した。
頬を引き攣らせたギーは、それでも口元に笑みを湛え、シーラに向き直る。
「……ははは。では、旦那様の執務室へとご案内させていただきますね」
(……ジルに振り回されているのね)
ほのかに怒りを滲ませるギーに同情する。少しばかりギーに対し親しみを抱いたシーラは、肩の力を抜くと「よろしくね」と彼の後をついて行った。
階段を上り、両側に窓が並ぶ正面の通路を進んで行くと、開けた正方形の空間へと出る。
「こちらの通路をこのまま真っ直ぐ進んでいただくと、これから奥さ……ご令嬢がお過ごしになる本館へと辿り着きます。右の通路を進むと、メインホールや遊技場、ギャラリーなどがある南館に。左の通路は、客室や礼拝堂、劇場などがある北館に続いております。執務室や応接室も北館にございますので、今はそちらにご案内させていだきますね」
「ええ、ありがとう」
笑みを向けながら頷けば、ギーもぎこちなく笑みを返してくれた。
(もしかして、笑うのが苦手なだけ……なのかな)
ゆったりとした歩調で進み、シーラが目を向けるものがあれば適宜説明してくれるギーに、そんな考えが浮かんだ。
そう考えると、妙な圧も、もしかしたら緊張していただけなのかもしれないと思えた。
また「奥様」と呼びそうになっていたし、歓迎されていないわけではないのだと気分が上向く。しかしそれも一瞬で、すぐに先ほどのジルヴィウスの姿が思い出され、浮いた気持ちは再び地に落ちた。
(東部公爵家に仕えている人たちに受け入れてもらえるのは嬉しいけど、ジルに歓迎されないんじゃ……ん?)
シーラは、自分の考えに違和感を抱き、辺りに視線を向ける。
前を向いているはずなのに、目敏くシーラの視線の動きを察知したギーが、素早く声を掛ける。
「何かお探しですか?」
「ううん……いや、探してるのはそうなんだけど……その、ギー以外に使用人っていないの?」
恐ろしいほど静まり返った城内に、シーラは抱いた疑問を口にする。
言ってしまってから、聞いてもよかったのだろうか、と発言を後悔した。
城外の不気味な様子を思い出し、思わず身震いしたシーラだったが、ギーは特に気にした様子もなく「そうですね……」と続けた。
「いると言えばいますが……」
「あ、言えないならいいの! 無理に聞きたいわけじゃないから」
「いえ、無理というわけでもないのですが……まぁ、そうですね……使用人に関しては旦那様の裁量ですので、私のほうからは控えさせていただければと存じます。後ほど旦那様からご説明があるでしょうから」
「そう……わかったわ」
どうやら聞いてはいけないことではなかったらしい、とシーラは安堵の息を漏らす。
大人しくギーの後をついて行きながら、それにしても、と内心首を傾げた。
(ギーは執事とは違うのかな? ジルの補佐って言ってたけど……)
使用人がジルの管轄ということに疑問を抱いたものの、それもジルに聞けばいいかと、今度はよそ見することなく前へと進んだ。
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