野獣公爵の執愛

ゆき真白

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第一章

十一

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 全身を締め付けるような圧迫感に、シーラはわずかに息を詰めたものの、何も言わずジルヴィウスの背中に腕を回す。

「……お前は愚かだ」
「うん」
「昔から怖いもの知らずで、他者より弱く、己の身を守る術を何も持たないのに無鉄砲。しなくていい選択をわざわざする考えなしだ」
「うっ、ん……」

 辛辣なジルヴィウスの発言に、シーラは言葉を詰まらせる。

(怖いもの知らずは……ジルへの態度を考えても確かにそう……。他の人より弱くて、自分の身を守ることができないのもその通りだし……無鉄砲と言われたらそうかも……だけど……)

 シーラはジルヴィウスのナイトガウンをぎゅっと掴むと、「でも」と声を上げた。

「い、一応、わたしだっていろいろ考えてるんだよ? 考えたうえで、いいと思うほうを選んでいるっていうか……」
「考えた結果、自らの首を絞めるのか? 酔狂だな。愚かを通り越して狂人の域だ」
「きょっ狂人は言い過ぎじゃない……!?」

 もうっ、とジルヴィウスの首筋に額を擦り付けていると、ジルヴィウスは一度強くシーラを抱き締め、ゆっくりと体を離した。
 骨張った手が優しくシーラの頬を撫で、触れるだけのキスが贈られる。

「俺はお前に選択権を与えた。そして、選んだ。今日この日に、俺の元へ来ることを。俺の元に居続けることを。後悔したとしても、もう覆すことはできない。覚悟の上だな?」
「……うん。大丈夫。ちゃんと考えて、決めたから。というか、ジル自身が離れることを許してないのに、なんでそんな確認――」

 言葉は、ジルヴィウスの口付けに寄って遮られる。角度を変え、何度も触れるだけのキスを繰り返しながら、ジルヴィウスはシーラの脇腹に手を這わせた。

「ぅえっ? んっ、ジルっ……! っふ、待っ――」
「“待って”は聞き飽きた。お前だってそのつもりで待っていたんだろう? 、わざわざ下着まで用意して」
「そっ、そうだけ――っん」

 わざわざ強調するように“俺のため”と言われ、赤面したのも束の間、布地の上から胸を揉んだジルヴィウスが、盛り上がった膨らみに吸い付き赤い痕を付けた。

(あ……それ……)

 シーラは無意識のうちに自分の首筋を撫でていた。
 そこは、昼間ジルヴィウスに吸い付かれたところだ。胸元に付いた痕に比べ、非常に薄い桃色だったため、入浴時に見つけたときは、指でも引っ掻けたのかと思った。

(でも、あれは……)

 胸元に何度も吸い付き、赤い痕を散らしていたジルヴィウスは、ふと視線を上げると、首を押さえるシーラの手を引き剥がした。と、同時に、昼間口付けられた場所を、今度は強く吸う。ぴりっとした痛みに小さく体を震わせれば、ジルヴィウスは労わるように舌を這わせる。

「……ね、ジル」
「なんだ。言っておくが何を言われてもやめるつもりはないぞ」

 太腿を撫で上げ、ショーツの紐に手を掛けるジルヴィウスに、シーラは緩く首を横に振る。

「そうじゃなくて……」

(余計なことは言わないほうがいい、ってわかってるけど……)

 何も気にせず、このまま大人しく流れに身を任せればいいことはわかっている。しかし、頭の片隅にジルヴィウスの噂の数々が浮かび、なかなか集中しきれない。
 どうしよう、と迷っていると、ジルヴィウスが溜息を吐きながら体を起こした。

「なんだ。言いたいことがあるなら言え」
「う、ん……その、怒らない……?」
「……くそ野郎のことか?」

 低くなった声音に、シーラは勢いよく首を横に振る。
 “くそ野郎”と言われて反応するのは元婚約者に申し訳ないと思ったが、ここで下手に名前を出してジルヴィウスの機嫌を損ねるほうが問題だ。だから、シーラは何も言わず、視線だけで“違う”とジルヴィウスに訴えかける。

「……じゃあ、なんだ?」

 剣呑さが薄れたジルヴィウスに、シーラは内心安堵しながら、おずおずと口を開いた。

「えっとね……その……、……その、ジルの……っ噂の、ことなんだけど……!」
「噂……?」

 シーラはこくりと頷くと、視線を下げ、ジルヴィウスのナイトガウンの袖を掴んだ。

「その……毎夜違う女の人と、とか、一度に複数の女の人と、とか……」
「……それは――」
「ううんっ! それ自体はいいの! さっきはあんなこと言っちゃったけど、そういうものなんだろうし、わたしが口出すようなことじゃないから……!」

 ぱっとジルヴィウスへ視線を戻したシーラだったが、金の瞳と視線が絡むとつい怖気づいてしまい、再び視線を下げる。

「ただ……ジルが相手にする人は、みんな妖艶な美人だったって聞いて……豊満な体つきの人ばっかりって……。だから、その……」

 “本当に私でいいの?”という言葉は口に出すことができず、口を噤む。

(め、めんどくさいよね……!? こういうこと言うの、すっごく面倒だよね!? でもっ、でもっ……!)

 頭上から長い溜息が落ち、シーラはびくりと肩を揺らす。
 気まずさからさらに顔を背けるシーラに、ジルヴィウスは顎を掴むと無理やり視線を合わせる。ジルヴィウスの瞳は変わらぬ輝きを湛えたまま、力強くシーラを見つめていた。

「今後も同じことで煩わされるのは面倒だから言っておくが、俺にとってお前以外は何の価値もない。お前が聞いた噂とやらがどんなものかは知らないが、ただの肉の塊のことなどもう気にするな」
「そっ、それはちょっと失礼すぎない……!?」
「ただの処理相手と言ったほうがいいか?」
「そ、それも……ちょっと……」

 あまりにもなジルヴィウスの発言に嫉妬心や毒気が一気に抜かれ、シーラは眉尻を下げる。自分のことを特別に想ってくれていることに喜びがないわけではないが、かつて彼と関係を持った人の中に、ジルヴィウスに恋心を抱いていた人がいるかもしれないと思うと、素直には喜べなかった。
 何とも言えない表情を浮かべるシーラに、ジルヴィウスは面倒そうに息を吐くと、再び体を寄せ、剥き出しのシーラの腹に口付けた。
 肌を掠める吐息に、ぴくりと体が揺れる。

「ジ、ジル……」
「お前がどんな感情を抱こうが、俺にとっては皆等しく無価値だ。気にされるのも面倒だから先に言っておくが、俺がこうして丁寧に愛撫するのもお前だけだ」
「ん、っ」

 腹の窪みの横に痛々しく生々しい痕がつく。
 ジルヴィウスは腹を撫でていた手を背中に回すと、シーラの体を浮かせ、一思いにキャミソールを脱がせた。

(あっ……!)

 シーラは慌てて胸を隠そうとしたものの、すぐさまジルヴィウスに手首を掴まれ、それは叶わなかった。手首はそれぞれシーツに縫い付けられ、ジルヴィウスの眼前に無防備に双丘を晒す形になる。
 ジルヴィウスは、ただ黙ってシーラを見下ろしていた。それがあまりにも恥ずかしくて、シーラはただでさえ赤い顔をさらに真っ赤にする。

「そ、そんなに見ないで……」

 羞恥で潤む視界で真っ直ぐジルヴィウスを見れば、彼は真っ赤な舌で自らの唇を舐め、顔を近付けた。
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