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第三章
二十
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「また遊びに来てね、シーラちゃん」
臆面なく自分を抱き締めてくれる義姉に、シーラは一瞬動揺しかけるも、すぐににこやかに抱き締め返す。
「うん! お義姉様もお体には気を付けてね」
腹部には接触しないよう、少し腰を引きながら、きゅっと抱き締めると、シーラは体を離す。
「いつでも来い。先触れはなくてもいい。ここもお前の居場所だってことを忘れるなよ」
「ありがとう、お兄様。またジルと一緒に来るからね」
力強く抱き締めてくれる兄をシーラも力いっぱい抱き締めると、ジルヴィウスの隣へと戻る。
「じゃあ、お兄様、お義姉様、みんな! またね!」
ジルヴィウスにエスコートされ場所に乗り込んだシーラは、見送りの人々が見えなくなるまで手を振り続けた。
(五日なんてあっという間だったなぁ)
辺境伯邸がどんどん小さくなっていくのを窓に張り付きながら見ていると、隣に移動したジルヴィウスに腰を抱き寄せられる。
「そんなに名残惜しいか?」
「名残惜しい、のかな? あっという間だなとは思ったけど……」
ジルヴィウスを振り返れば、目の前に彼の顔が迫っていた。鼻先が触れ合うほどの距離でしばし見つめ合いながら、シーラはジルヴィウスの首に腕を回すと、ちゅうと唇に吸い付いた。
それと同時に、後ろでカーテンの閉まる音が聞こえる。
以心伝心だ、と思いながらくすくす笑えば、ジルヴィウスはシーラを自らの足の上に座らせた。
「来たければいつでも連れて来てやる」
「うーん、でもお兄様がいるとお兄様にジル取られちゃうからなぁ」
それは寂しい、とジルの顔中に口付ければ、彼は怪訝そうに片眉を上げる。
「本気で言ってるのか? 滞在中、ヨエルやあいつの妻、辺境伯邸の者たちにシーラを奪われていたのは俺のほうだ」
「でも、わたしが他の人といるときは、ジルだって同じ空間にいたじゃない。ジルはお兄様と二人っきりで会うのに……」
むう、と唇を尖らせれば、ジルヴィウスは呆れたように息を吐き、唇に噛みついた。
「自分の兄に嫉妬してどうする」
「わたしのライバルは昔からずっとお兄様だもの」
シーラは、ふん、と拗ねたようにそっぽを向いたものの、すぐに眉を下げるとジルヴィウスに寄りかかった。
滞在中、兄に言われた言葉が心に引っかかっているのだ。
「……ジルも、お義姉様には言わないほうがいいと思う? わたしが魔力消化体質者だって……」
シーラが魔力消化体質者であることを知っているのは誰なのか兄に訊いたとき、そのなかに義姉の名前がなかったのだ。「どうして」と問うシーラに、兄は「知る人間は少ないほうがいいからだ」と答えた。
もし隠しているのが辛かったら、ジルヴィウスとよく相談したうえで言うかどうか決めてほしいと言われ、滞在中には答えが出なかったのだ。
「お前に触れても魔力を失っていることに気付かないくらい魔力が少ないんだ。そんな相手にわざわざ伝える必要はないとは思う」
「でも、お義姉様だって家族なのに……」
「義理の、な。お前の義姉の生家は信頼に値する家だと思うが、周りの人間がそうとは限らない。お前の生家だって、お前のことを知っている者は限られているだろう」
兄の話によると、現在シーラが魔力消化体質者だと知っているのは、兄と執事のノーマン、シーラを幼いころから世話していた侍女、ノルティーン家の専属医、それからシーラに祝福を授けた司祭だけだそうだ。
シーラを取り上げた産婆もシーラの秘密を知る人物だったが、彼女は現在行方不明らしい。数年前、死亡届が出されたそうだが、改めて調査したらそれは偽造だったのだとか。
彼女がどこへ行ったのかわからないが、彼女はそもそも老齢で足が悪く、一人で遠くに行くのは難しい状態だったそうだ。
兄はそれを北部公爵家の仕業じゃないかと考えているようで、この話を聞いたときに改めて頭を下げられた。
(わたしが魔力消化体質者だと知っている人が行方不明だっていうのはすごく怖い。他の人もそうやってひどい目にあったらどうしようって心配になる。でも……知ってるからこそ回避できる危険もあると思う)
「わたしは、やっぱり教えたほうがいいと思う。それで話が漏れても、わたしのことはジルが守ってくれるでしょ?」
ジルヴィウスを見上げ優しく頬を撫でれば、彼はその手を取り、手のひらに口付けた。
「お前を危険な状態に置きたくない。どれほど小さな要素でも、それが起こり得る可能性があるなら俺は許可できない」
「心配性なんだから」
シーラはわざと軽い口調でそう告げると、改めてジルヴィウスに身を預け、目を閉じた。
「これについては、いっぱい話し合おう。わたしもまだ何か本当にいいのかわからないし……もしかしたら今後、わたしが魔力消化体質者だってことが大々的に知られちゃう可能性だってあるし」
「仮定だとしても最悪だな」
隙間なくシーラを抱き締め、額に口付けてくれるジルヴィウスに、シーラは小さく肩を揺らす。
「東部公爵夫人に手を出そうとする人なんていないよ。怖い旦那様がいるのに」
「愚か者はどこにでもいる」
顎を掬われ、ぱっと目を開けると、眼前に眩い金色が広がっていた。
「っん……」
重なった唇に、シーラは反射的に目を閉じる。
触れるだけだった口付けは徐々に深まっていき、ジルヴィウスの手も妖しく蠢く。
(まっ、まさか馬車の中で!?)
それはさすがにどうなのかとジルヴィウスの胸を押し返してみるものの、やはりびくともしない。
「ふっ、ン……ジル……」
拒絶するために呼んだ声は、想像以上に甘ったるいものだった。これでは、まるでもっとしてほしいと乞うているようだ。
「言っておくが、ここではしないぞ」
「どうして……」
ドレスの中に潜った彼の手がくすぐるように太腿を撫で、思わず熱い吐息がこぼれる。
わざとらしく、足の付け根ギリギリを撫でながら、ジルヴィウスは濡れたシーラの唇を舐める。
「西部に着いたら一日中抱いてやると言っただろ?」
(あ……)
確かに言われていた、と思い出しながら、シーラはわずかに頬を染める。恥ずかしさからではなく、期待で顔が熱くなった。
かつて、一日中は不健全だからと夜だけにするよう訴えたのは自分自身だというのに。
いったいいつからこんなふしだらになってしまったのだろう、と思いつつ、高鳴る胸を抑えることはできなかった。
「……本当に一日中?」
「ああ。今日着いたらすぐに籠ってもいいぞ」
「……明日の朝、西部公爵様に会いに行かなくちゃいけないんだからだめだよ」
「面倒だな」
ジルヴィウスは、不愉快そうに舌打ちをする。本当に心底面倒そうな様子のジルヴィウスを眺めながら、シーラは一拍置いて、彼の頬に口付けた。
「一日中じゃなくても……今日もたくさんしようね?」
そっと内緒話をするように彼の耳元で囁きながら、シーラは嫣然と瞳を蕩けさせた。
臆面なく自分を抱き締めてくれる義姉に、シーラは一瞬動揺しかけるも、すぐににこやかに抱き締め返す。
「うん! お義姉様もお体には気を付けてね」
腹部には接触しないよう、少し腰を引きながら、きゅっと抱き締めると、シーラは体を離す。
「いつでも来い。先触れはなくてもいい。ここもお前の居場所だってことを忘れるなよ」
「ありがとう、お兄様。またジルと一緒に来るからね」
力強く抱き締めてくれる兄をシーラも力いっぱい抱き締めると、ジルヴィウスの隣へと戻る。
「じゃあ、お兄様、お義姉様、みんな! またね!」
ジルヴィウスにエスコートされ場所に乗り込んだシーラは、見送りの人々が見えなくなるまで手を振り続けた。
(五日なんてあっという間だったなぁ)
辺境伯邸がどんどん小さくなっていくのを窓に張り付きながら見ていると、隣に移動したジルヴィウスに腰を抱き寄せられる。
「そんなに名残惜しいか?」
「名残惜しい、のかな? あっという間だなとは思ったけど……」
ジルヴィウスを振り返れば、目の前に彼の顔が迫っていた。鼻先が触れ合うほどの距離でしばし見つめ合いながら、シーラはジルヴィウスの首に腕を回すと、ちゅうと唇に吸い付いた。
それと同時に、後ろでカーテンの閉まる音が聞こえる。
以心伝心だ、と思いながらくすくす笑えば、ジルヴィウスはシーラを自らの足の上に座らせた。
「来たければいつでも連れて来てやる」
「うーん、でもお兄様がいるとお兄様にジル取られちゃうからなぁ」
それは寂しい、とジルの顔中に口付ければ、彼は怪訝そうに片眉を上げる。
「本気で言ってるのか? 滞在中、ヨエルやあいつの妻、辺境伯邸の者たちにシーラを奪われていたのは俺のほうだ」
「でも、わたしが他の人といるときは、ジルだって同じ空間にいたじゃない。ジルはお兄様と二人っきりで会うのに……」
むう、と唇を尖らせれば、ジルヴィウスは呆れたように息を吐き、唇に噛みついた。
「自分の兄に嫉妬してどうする」
「わたしのライバルは昔からずっとお兄様だもの」
シーラは、ふん、と拗ねたようにそっぽを向いたものの、すぐに眉を下げるとジルヴィウスに寄りかかった。
滞在中、兄に言われた言葉が心に引っかかっているのだ。
「……ジルも、お義姉様には言わないほうがいいと思う? わたしが魔力消化体質者だって……」
シーラが魔力消化体質者であることを知っているのは誰なのか兄に訊いたとき、そのなかに義姉の名前がなかったのだ。「どうして」と問うシーラに、兄は「知る人間は少ないほうがいいからだ」と答えた。
もし隠しているのが辛かったら、ジルヴィウスとよく相談したうえで言うかどうか決めてほしいと言われ、滞在中には答えが出なかったのだ。
「お前に触れても魔力を失っていることに気付かないくらい魔力が少ないんだ。そんな相手にわざわざ伝える必要はないとは思う」
「でも、お義姉様だって家族なのに……」
「義理の、な。お前の義姉の生家は信頼に値する家だと思うが、周りの人間がそうとは限らない。お前の生家だって、お前のことを知っている者は限られているだろう」
兄の話によると、現在シーラが魔力消化体質者だと知っているのは、兄と執事のノーマン、シーラを幼いころから世話していた侍女、ノルティーン家の専属医、それからシーラに祝福を授けた司祭だけだそうだ。
シーラを取り上げた産婆もシーラの秘密を知る人物だったが、彼女は現在行方不明らしい。数年前、死亡届が出されたそうだが、改めて調査したらそれは偽造だったのだとか。
彼女がどこへ行ったのかわからないが、彼女はそもそも老齢で足が悪く、一人で遠くに行くのは難しい状態だったそうだ。
兄はそれを北部公爵家の仕業じゃないかと考えているようで、この話を聞いたときに改めて頭を下げられた。
(わたしが魔力消化体質者だと知っている人が行方不明だっていうのはすごく怖い。他の人もそうやってひどい目にあったらどうしようって心配になる。でも……知ってるからこそ回避できる危険もあると思う)
「わたしは、やっぱり教えたほうがいいと思う。それで話が漏れても、わたしのことはジルが守ってくれるでしょ?」
ジルヴィウスを見上げ優しく頬を撫でれば、彼はその手を取り、手のひらに口付けた。
「お前を危険な状態に置きたくない。どれほど小さな要素でも、それが起こり得る可能性があるなら俺は許可できない」
「心配性なんだから」
シーラはわざと軽い口調でそう告げると、改めてジルヴィウスに身を預け、目を閉じた。
「これについては、いっぱい話し合おう。わたしもまだ何か本当にいいのかわからないし……もしかしたら今後、わたしが魔力消化体質者だってことが大々的に知られちゃう可能性だってあるし」
「仮定だとしても最悪だな」
隙間なくシーラを抱き締め、額に口付けてくれるジルヴィウスに、シーラは小さく肩を揺らす。
「東部公爵夫人に手を出そうとする人なんていないよ。怖い旦那様がいるのに」
「愚か者はどこにでもいる」
顎を掬われ、ぱっと目を開けると、眼前に眩い金色が広がっていた。
「っん……」
重なった唇に、シーラは反射的に目を閉じる。
触れるだけだった口付けは徐々に深まっていき、ジルヴィウスの手も妖しく蠢く。
(まっ、まさか馬車の中で!?)
それはさすがにどうなのかとジルヴィウスの胸を押し返してみるものの、やはりびくともしない。
「ふっ、ン……ジル……」
拒絶するために呼んだ声は、想像以上に甘ったるいものだった。これでは、まるでもっとしてほしいと乞うているようだ。
「言っておくが、ここではしないぞ」
「どうして……」
ドレスの中に潜った彼の手がくすぐるように太腿を撫で、思わず熱い吐息がこぼれる。
わざとらしく、足の付け根ギリギリを撫でながら、ジルヴィウスは濡れたシーラの唇を舐める。
「西部に着いたら一日中抱いてやると言っただろ?」
(あ……)
確かに言われていた、と思い出しながら、シーラはわずかに頬を染める。恥ずかしさからではなく、期待で顔が熱くなった。
かつて、一日中は不健全だからと夜だけにするよう訴えたのは自分自身だというのに。
いったいいつからこんなふしだらになってしまったのだろう、と思いつつ、高鳴る胸を抑えることはできなかった。
「……本当に一日中?」
「ああ。今日着いたらすぐに籠ってもいいぞ」
「……明日の朝、西部公爵様に会いに行かなくちゃいけないんだからだめだよ」
「面倒だな」
ジルヴィウスは、不愉快そうに舌打ちをする。本当に心底面倒そうな様子のジルヴィウスを眺めながら、シーラは一拍置いて、彼の頬に口付けた。
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