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第一章
対面まで、あと少し
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夜、食事と入浴を済ませベッドに入ったルシアナは、夕方ベルへ言った自分の言葉を思い出していた。
『わたくし、自分の子と同じくらい愛する自信があるわ』
自分で言っておいて、自分の子、という言葉がずっと心に残っていた。
(そうよね、結婚するということは、シルバキエ公爵の跡継ぎを残すということだわ)
そう思っても、まったく実感はわかない。
会ったことがないから実感がわかないのか、やはり結婚というもの自体に実感がわいていないのかは、ルシアナ自身わからない。
(それでも、選択肢を与えられた時点で、わたくしは受け入れることを決めていたわ。いずれはすることだもの)
体を仰向けにすると、目を開ける。
灯りのない部屋は薄暗く、カーテンの隙間から漏れる光でかすかに物の形が判別できる程度だ。
(シルバキエ公爵は夜を体現したような方だとアレックスお姉様はおっしゃっていたわ)
ルシアナは、目を慣らすようにじっと天蓋の裏を見つめながら、姉に聞いた話を思い出していた。
四年前、北部で起きていた長い戦争が終わり、“シュネーヴェ王国”という新たな王国が誕生した。シュネーヴェ王国の初代国王となったライムンド・ティト・ウレタ・ヴォルケンシュタインは、もともと最北にあったルドルティという国の王で、当時は他国だったシュネーヴェの街を気に入り、彼が終戦後そこに王城を構えたことで、「シュネーヴェ」という国は生まれた。
当時の北部は小さな国の集まりで構成されており、ルドルティも小さな国だった。小さな国ではあったが、ルドルティには巨大な鉱山がいくつもあった。その鉱山を狙おうとする他国との間に多少の諍いはあったが、それは別の国同士も同じであり、それぞれ小競り合いはしつつも、協力し合いながら生活していた。
その状況が一変したのは、今は亡きとある国が始めた侵略戦争だった。狙われたのはルドルティではなかったが、その戦争を始めとして、各国の小競り合いは戦争へと発展。北部全土が戦火に包まれた。
この戦争を終結へ、そしてルドルティ改めシュネーヴェ王国の勝利へと導いたのが、レオンハルト・パウル・ヴァステンブルクだ。
戦争が起きた当時、彼は騎士に叙任されたばかりの弱冠十六歳の少年だった。
彼の騎士としての能力は非常に高く、ベテランの騎士を打ち負かすほど剣の扱いに長け、その実力は今や大陸で一、二を争うものだと言われている。
(それでも猛々しいということはなく、静かな雰囲気の方なのよね)
四年前に行われたシュネーヴェ王国の建国式典には、トゥルエノ王国からはアレクサンドラとデイフィリアが参席した。
二人の姉は揃って、レオンハルトを「物静かな人物」と認識していた。口数の少なさや、行動の落ち着きはもちろんのこと、闘気がほとんど感じられなかったことが最大の理由らしい。わざと抑えているというより、あくまでもそれが自然に見えたそうだ。
明るく活発な昼ではなく、静かで落ち着いた夜。
燦々と輝く太陽ではなく、煌々と照らす月。
レオンハルトを表現するならそういうものだ、と二人は言った。
(不思議な方。お話を聞いただけでは、とても想像できないわ)
レオンハルトの容姿なども伝え聞いてはいるが、これまで限られた人物としか接してこなかったルシアナには、あまりピンと来てはいなかった。
(でも、どのような方でも関係ないわ。わたくしはわたくしでしかないもの。果たす義務があったとても、自分らしくやっていくだけだわ)
ルシアナは横を向くと、カーテンから漏れ出る月明かりを見つめる。
白い光は暗闇に寄り添うように、粛然とそこにある。
(それでも……実感がわかなくても、どのような方でも……あの言葉が社交辞令だとしても……)
「……わたくしも、お会いできるのを楽しみにしておりますわ」
ルシアナは、ふっと穏やかな笑みをこぼすと、そのまま深い眠りについた。
『わたくし、自分の子と同じくらい愛する自信があるわ』
自分で言っておいて、自分の子、という言葉がずっと心に残っていた。
(そうよね、結婚するということは、シルバキエ公爵の跡継ぎを残すということだわ)
そう思っても、まったく実感はわかない。
会ったことがないから実感がわかないのか、やはり結婚というもの自体に実感がわいていないのかは、ルシアナ自身わからない。
(それでも、選択肢を与えられた時点で、わたくしは受け入れることを決めていたわ。いずれはすることだもの)
体を仰向けにすると、目を開ける。
灯りのない部屋は薄暗く、カーテンの隙間から漏れる光でかすかに物の形が判別できる程度だ。
(シルバキエ公爵は夜を体現したような方だとアレックスお姉様はおっしゃっていたわ)
ルシアナは、目を慣らすようにじっと天蓋の裏を見つめながら、姉に聞いた話を思い出していた。
四年前、北部で起きていた長い戦争が終わり、“シュネーヴェ王国”という新たな王国が誕生した。シュネーヴェ王国の初代国王となったライムンド・ティト・ウレタ・ヴォルケンシュタインは、もともと最北にあったルドルティという国の王で、当時は他国だったシュネーヴェの街を気に入り、彼が終戦後そこに王城を構えたことで、「シュネーヴェ」という国は生まれた。
当時の北部は小さな国の集まりで構成されており、ルドルティも小さな国だった。小さな国ではあったが、ルドルティには巨大な鉱山がいくつもあった。その鉱山を狙おうとする他国との間に多少の諍いはあったが、それは別の国同士も同じであり、それぞれ小競り合いはしつつも、協力し合いながら生活していた。
その状況が一変したのは、今は亡きとある国が始めた侵略戦争だった。狙われたのはルドルティではなかったが、その戦争を始めとして、各国の小競り合いは戦争へと発展。北部全土が戦火に包まれた。
この戦争を終結へ、そしてルドルティ改めシュネーヴェ王国の勝利へと導いたのが、レオンハルト・パウル・ヴァステンブルクだ。
戦争が起きた当時、彼は騎士に叙任されたばかりの弱冠十六歳の少年だった。
彼の騎士としての能力は非常に高く、ベテランの騎士を打ち負かすほど剣の扱いに長け、その実力は今や大陸で一、二を争うものだと言われている。
(それでも猛々しいということはなく、静かな雰囲気の方なのよね)
四年前に行われたシュネーヴェ王国の建国式典には、トゥルエノ王国からはアレクサンドラとデイフィリアが参席した。
二人の姉は揃って、レオンハルトを「物静かな人物」と認識していた。口数の少なさや、行動の落ち着きはもちろんのこと、闘気がほとんど感じられなかったことが最大の理由らしい。わざと抑えているというより、あくまでもそれが自然に見えたそうだ。
明るく活発な昼ではなく、静かで落ち着いた夜。
燦々と輝く太陽ではなく、煌々と照らす月。
レオンハルトを表現するならそういうものだ、と二人は言った。
(不思議な方。お話を聞いただけでは、とても想像できないわ)
レオンハルトの容姿なども伝え聞いてはいるが、これまで限られた人物としか接してこなかったルシアナには、あまりピンと来てはいなかった。
(でも、どのような方でも関係ないわ。わたくしはわたくしでしかないもの。果たす義務があったとても、自分らしくやっていくだけだわ)
ルシアナは横を向くと、カーテンから漏れ出る月明かりを見つめる。
白い光は暗闇に寄り添うように、粛然とそこにある。
(それでも……実感がわかなくても、どのような方でも……あの言葉が社交辞令だとしても……)
「……わたくしも、お会いできるのを楽しみにしておりますわ」
ルシアナは、ふっと穏やかな笑みをこぼすと、そのまま深い眠りについた。
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