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第二章
王都までの道中(一)
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「それにしても驚きましたわ。閣下が出迎えてくださるなんて」
目の前に座るレオンハルトにそう笑いかければ、彼は小さく「いえ」と漏らした。
「大変失礼いたしました。事前に私が向かうことをお知らせしておくべきでした」
「いいえ、どうか謝らないでくださいませ。お忙しい閣下にご足労いただきましたこと、大変嬉しく思っておりますわ」
目尻を下げながらそう言えば、彼はわずかに視線を下げ、お礼を口にした。
(確かに物静かな方だわ。それとも、居心地が悪いだけかしら)
国境を越え、レオンハルト率いるラズルド騎士団と合流したルシアナ一行は、ラズルド騎士団に先導され、王都へ向かうことになった。レオンハルトもラズルド騎士団と共に行動するつもりだったようだが、カルロスに一緒に馬車に乗るよう提案され、ルシアナとレオンハルト、そしてカルロスとロイダの四人で、ルシアナの馬車に乗ることになった。
(それにしても、四人乗ってもまったく狭く感じないのね。むしろベルと二人で使うには広すぎた気がするわ)
思わず笑みをこぼすと、レオンハルトの隣、ルシアナの斜め前に座るカルロスが、明るく声を掛けた。
「どうかされましたか、ルシアナ様」
「ふふ、いえ。こうしてたくさんの方と馬車に乗るのは初めてなので嬉しくて」
「ははは、言い出したのは私ですが、私もルシアナ様の馬車に同乗できてとても嬉しいです」
「あら、ふふふ」
カルロスと穏やかな笑みを交わしながら、ルシアナはレオンハルトを窺う。
彼は視線を下げたまま、表情もまったく変わらない。
(シルバキエ公爵はお義兄様のことをご存じないはずだけれど、特に気にしている様子はないわ。わたくしたちの結婚は政略結婚と呼ばれるものだし、やっぱり気にならないのかしら)
ルシアナは考えるように、わずかに首を捻る。
(そのときが来るまで、お姉様から言われた通り振る舞うつもりだけれど、お姉様方が危惧されているようなことが本当に起こるのかしら……。いいえ、お姉様方を疑うつもりはないけれど、閣下に誤解されるようなことは避けたいわ。もちろん、そのあたりは気を付けて振る舞うつもりだけれど)
「……いかがなさいましたか、王女殿下」
じっと見続けていたためか、レオンハルトは視線を上げルシアナを見た。
「ああ、いえ。実は以前、姉から閣下のお話を伺ったことがありまして。わたくしにとって物語の登場人物のようだった方と、こうして対峙していることが少々不思議で、はしたなく見つめてしまいました。申し訳ございません」
眉尻を下げてそう言えば、レオンハルトは少々戸惑ったように「いえ」と呟いた。
「私などでよければ……どうぞ思う存分眺めてください」
予想外の返答に、ルシアナは目を丸くする。
(冗談……というわけではなさそうだわ)
真っ直ぐ自分を見つめるレオンハルトに、彼が真面目に答えてくれたことを察する。
ルシアナは数度瞬きを繰り返したあと、思わず、ふっと笑みを漏らした。
「まあ、そのようなことをおっしゃっては、王都に着くころにはお顔に穴が空いているかもしれませんよ」
おかしそうに笑うルシアナに、レオンハルトは面食らったように目を見開く。
「……王女殿下」
諫めるように声を掛けたロイダだが、彼女の口の端もわずかに震えている。カルロスも笑うのを堪えているのか、膝の上に置かれた手が強く握りしめられていた。
「ふふ、すみません」
ルシアナは深呼吸をして笑いをおさめると、いまだ当惑しているレオンハルトに柔らかな笑みを向ける。
「閣下のお言葉に甘えたいところですが、よろしければ、少々お話をしませんか?」
「……話、ですか」
いまだ困惑した様子ではあるものの、彼の瞳に若干警戒の色が混ざる。
(当然と言えば当然だわ。わたくしたちは今日会ったばかりの、他国の人間だもの)
彼が警戒したことに気付かれないよう、ルシアナは無邪気に明るい声を出す。
「わたくし、外に出るのはこれが初めてなのです。このように防寒着を着たのも初めての経験で……知らないことも多いので、是非、お話を聞かせていただけないかと思いまして」
「……私でよければ」
警戒した様子であることは変わらないものの、彼はゆっくりと首肯した。
目の前に座るレオンハルトにそう笑いかければ、彼は小さく「いえ」と漏らした。
「大変失礼いたしました。事前に私が向かうことをお知らせしておくべきでした」
「いいえ、どうか謝らないでくださいませ。お忙しい閣下にご足労いただきましたこと、大変嬉しく思っておりますわ」
目尻を下げながらそう言えば、彼はわずかに視線を下げ、お礼を口にした。
(確かに物静かな方だわ。それとも、居心地が悪いだけかしら)
国境を越え、レオンハルト率いるラズルド騎士団と合流したルシアナ一行は、ラズルド騎士団に先導され、王都へ向かうことになった。レオンハルトもラズルド騎士団と共に行動するつもりだったようだが、カルロスに一緒に馬車に乗るよう提案され、ルシアナとレオンハルト、そしてカルロスとロイダの四人で、ルシアナの馬車に乗ることになった。
(それにしても、四人乗ってもまったく狭く感じないのね。むしろベルと二人で使うには広すぎた気がするわ)
思わず笑みをこぼすと、レオンハルトの隣、ルシアナの斜め前に座るカルロスが、明るく声を掛けた。
「どうかされましたか、ルシアナ様」
「ふふ、いえ。こうしてたくさんの方と馬車に乗るのは初めてなので嬉しくて」
「ははは、言い出したのは私ですが、私もルシアナ様の馬車に同乗できてとても嬉しいです」
「あら、ふふふ」
カルロスと穏やかな笑みを交わしながら、ルシアナはレオンハルトを窺う。
彼は視線を下げたまま、表情もまったく変わらない。
(シルバキエ公爵はお義兄様のことをご存じないはずだけれど、特に気にしている様子はないわ。わたくしたちの結婚は政略結婚と呼ばれるものだし、やっぱり気にならないのかしら)
ルシアナは考えるように、わずかに首を捻る。
(そのときが来るまで、お姉様から言われた通り振る舞うつもりだけれど、お姉様方が危惧されているようなことが本当に起こるのかしら……。いいえ、お姉様方を疑うつもりはないけれど、閣下に誤解されるようなことは避けたいわ。もちろん、そのあたりは気を付けて振る舞うつもりだけれど)
「……いかがなさいましたか、王女殿下」
じっと見続けていたためか、レオンハルトは視線を上げルシアナを見た。
「ああ、いえ。実は以前、姉から閣下のお話を伺ったことがありまして。わたくしにとって物語の登場人物のようだった方と、こうして対峙していることが少々不思議で、はしたなく見つめてしまいました。申し訳ございません」
眉尻を下げてそう言えば、レオンハルトは少々戸惑ったように「いえ」と呟いた。
「私などでよければ……どうぞ思う存分眺めてください」
予想外の返答に、ルシアナは目を丸くする。
(冗談……というわけではなさそうだわ)
真っ直ぐ自分を見つめるレオンハルトに、彼が真面目に答えてくれたことを察する。
ルシアナは数度瞬きを繰り返したあと、思わず、ふっと笑みを漏らした。
「まあ、そのようなことをおっしゃっては、王都に着くころにはお顔に穴が空いているかもしれませんよ」
おかしそうに笑うルシアナに、レオンハルトは面食らったように目を見開く。
「……王女殿下」
諫めるように声を掛けたロイダだが、彼女の口の端もわずかに震えている。カルロスも笑うのを堪えているのか、膝の上に置かれた手が強く握りしめられていた。
「ふふ、すみません」
ルシアナは深呼吸をして笑いをおさめると、いまだ当惑しているレオンハルトに柔らかな笑みを向ける。
「閣下のお言葉に甘えたいところですが、よろしければ、少々お話をしませんか?」
「……話、ですか」
いまだ困惑した様子ではあるものの、彼の瞳に若干警戒の色が混ざる。
(当然と言えば当然だわ。わたくしたちは今日会ったばかりの、他国の人間だもの)
彼が警戒したことに気付かれないよう、ルシアナは無邪気に明るい声を出す。
「わたくし、外に出るのはこれが初めてなのです。このように防寒着を着たのも初めての経験で……知らないことも多いので、是非、お話を聞かせていただけないかと思いまして」
「……私でよければ」
警戒した様子であることは変わらないものの、彼はゆっくりと首肯した。
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