ルシアナのマイペースな結婚生活

ゆき真白

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第二章

王都までの道中(三)

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 ワープゲートの前まで来ると、準備があるからと、レオンハルト、カルロス、ロイダが馬車を降りたため、ルシアナは一人で窓から外の様子を窺っていた。
 シュネーヴェ王国は各領地にワープ用のゲートが用意されており、どこにいても王都に一瞬で行けるようになっている。

(防衛の観点から、トゥルエノでも他の国でも、ワープゲートは限られた場所にしかないけれど……シュネーヴェには国所属の魔法術師が多くいるから、管理しやすいのかしら)

 人や木より何倍も大きく太い二本の白い石柱、その上には同じ白い石を使ったアーチがあり、中心にはシュネーヴェ王国の国章が刻印されている。

(トゥルエノは、祭壇のようにわかりやすくワープゲートを用意しているけれど、シュネーヴェは道の途中にぽんと置いているのね。何かのオブジェみたいだわ)

 一瞬ゲート自体が光ったかと思うと、先の道を見通せていた中央部分がまるで幕でもかかったかのように不透明になり、淡く白い光を発し始める。

(ついにシュネーヴェ王国の王都に行くのね。……正直に言えば、もう少し閣下とお話したかったわ。この短い間では、あまり人となりはわからなかったもの)

 ワープゲートに着く直前、すでに王都はお祭り状態であるとレオンハルトに告げられた。正式な祝祭は、結婚式のあと行われる予定だが、王都では国の英雄の結婚ということもあってか、すでに盛り上がりを見せているそうだ。
 ルシアナの到着日時も王都の人々には知れ渡っており、王都のワープゲートから王城までの道中は見物人が多くいるだろうから、一人で馬車に乗っているのがいいだろう、と伝えられた。

(そうなる可能性を見越して、これほどの大所帯になったのよね)

 帯同する人や馬車が多ければそれだけ盛大に見えるだろう、という母・ベアトリスの言葉を思い出し、ルシアナは、ふふっと笑みをこぼす。

「王女殿下」

 聞きなれない声と共にノックがされ、ルシアナは姿勢を正すと扉のほうへ目を向けた。

「どうぞ、閣下」
「失礼します」

 扉を開けたレオンハルトは、軽く一礼するとルシアナを見上げた。

「このまま順にゲートへと入ります。ゲートから王城への道のりはそれほど長くありませんが、万が一がないよう、私は王女殿下の馬車の近くを並走させていただきますので、何かあれば、こちらの布を右側の窓からお出しください」
「まあ。お気遣いありがとうございます」

 ルシアナは、にっこりと笑みを浮かべながら、折りたたまれた無地の白い布を受け取る。

「必要があれば、そうさせていただきますわ」
「はい……」

 頷いたレオンハルトは、そのまま視線を下げ、動きを止める。

 ――……何をしているんだ、この男は。ルシアナが風邪を引いたらどうするんだ。さっさと扉を閉めろ。
(――ベルのおかげで、馬車の中もわたくし自身も暖かいから大丈夫よ。ありがとう)

 そう返しながら、ルシアナは首を傾げた。用が済んだらさっさと立ち去ると思っていたレオンハルトが、その場に留まっていることが不思議でならなかった。

「どうかなさいましたか?」

 顔を覗き込むように上体を倒しながら様子を窺えば、レオンハルトは、はっとしたように顔を上げ、素早く手を伸ばした。その手は、零れ落ちる水でも掬うかのように、さらりと垂れるルシアナの髪を乗せた。

(あら?)

 驚きに目を見開くルシアナに、何故かレオンハルトも同じように目を見開いていた。

「あ……許可もなく触れてしまい申し訳ございません」

 そう言うもののレオンハルトの姿勢は変わらない。

 ――難ありめ。
(――……そうね)

 さすがのルシアナもフォローの言葉が見つからず、つい同意してしまう。

「……体を起こしてもよろしいでしょうか?」
「はい」

 しっかりと首肯したレオンハルトに、ルシアナは変わらず笑みを向けると上体を起こす。それに合わせるように、ルシアナの髪はレオンハルトの手から離れた。その様子にどこか安堵したように短く息を吐いたレオンハルトは、少し手を彷徨わせたあと、自身の胸元へと手を持って行く。

「……これを……いつお渡しすべきか、迷ったのですが」

 そう言って差し出されたのは、綺麗にラッピングされた正方形のものだった。

「わたくしに、ですか?」
「はい」

 澄んだ青空のような瞳に真っ直ぐ見つめられ、ルシアナの心臓の鼓動がわずかに速まる。

「……ありがとうございます」

 先ほど受け取った白い布を膝の上に置き、両手で差し出されたものを受け取る。

(まあ……何かしら……いいえ、何でもいいわ。……嬉しい……)

「……では、また、王城で」

 ぎこちなく口の端を上げ、頭を下げたレオンハルトは、すぐに扉を閉めると立ち去る。
 言葉をかける間もなくいなくなってしまったレオンハルトの後姿を、ルシアナは見えなくなるまで眺め続けた。
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