ルシアナのマイペースな結婚生活

ゆき真白

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第二章

シュネーヴェ王国国王との謁見(一)

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 石造りの城は外から見ると少々武骨な印象を受けたが、城内にはところどころ繊細な装飾が施されており、中は華やかだった。

(それに暖かいわ。城中に保温魔法がかけられているのかしら)

 懐かしい暖かさにほっと息をつきながら、少々早歩きなレオンハルトに後れを取らないよう、はしたなくならない程度に大股で彼についていく。
 時折、通路ですれ違う官吏や騎士が好奇な目の他、気遣わしげな視線を向けたが、特に声をかけることもなく見送られる。立場上、声をかけられないということも理由だろうが、彼らの窺うような視線から、殺気を隠し切れない目の前の人物も理由の一つだろう。

 しばらくその状態のまま通路を進み続けたレオンハルトだったが、二人の衛兵が前に立つ、両開きの大きな扉が見えると、瞬時に漏れていた殺気を消し去った。

(……流石だわ)

 衛兵はレオンハルトの姿を確認すると、素早く敬礼する。レオンハルトが小さく頷くと、二人は扉を開けた。開かれた謁見の間は、青緑を基調とした煌びやかな内装になっており、その奥の玉座にはすでに人が座っている。

 ルシアナは大きく息を吸うと背筋を伸ばし、今度は無理にレオンハルトを追うことなく、一歩一歩しっかりと前へ進んでいく。
 玉座へと延びるカーペットの左側には、国の重鎮らしき人物が数名と、玉座に座る男性と同じ金の髪とターコイズグリーンの瞳を持つ男性が立っていた。玉座に座る中年男性の右後ろには頬に傷のある壮年の騎士が、左後ろには星のブローチを付けた紺色のローブを纏う人物が控えている。

(……魔法術師を直接見たのは初めてだわ)

 品定めをするような視線を向ける周りの人々とは違い、ローブを纏う人物は観察するようにルシアナを見ていた。

(きっと探っているのね)

 ルシアナは魔法術師を同席させた意図に気付きつつも、何も知らない無邪気な子どものように顔を綻ばせ、カーテシーをする。
 斜め前に立つレオンハルトも頭を下げると、静かに口を開いた。

「トゥルエノ王国第五王女、ルシアナ・ベリト・トゥルエノ王女をお連れいたしました」
「ご苦労であったレオンハルト」

 穏やかな口調でレオンハルトに返答した玉座に座る人物――シュネーヴェ王国国王ライムンド・ティト・ウレタ・ヴォルケンシュタインは、その口調のままルシアナにも声をかける。

「王女も遠路遥々よくぞ参られた」
「北方の偉大な統治者であられるシュネーヴェ王国国王陛下にお目にかかれましたこと、大変嬉しく存じます。ルシアナ・ベリト・トゥルエノでございます」
「はは、そう固くならずともよい。我々は家族になるのだ。顔を上げて、我が姪となる者の顔を私に見せてくれないか」

 ルシアナはゆっくり姿勢を戻すと、口元に笑みを浮かべたまま玉座に座る人物をしっかりと見つめる。
 ライムンドは、北方を制し新たな国をつくり上げた偉大な王ではあるが、その姿は決して屈強というものではなく、見た限りはスマートな体系の普通の男性だ。品はあるが、威厳というものはあまり感じられない。

(けれど隙がないわ。お義兄様に似ているのかしら)

 カルロスは、その頭脳と才知で相手を追い詰め、武力ではなく知力で勝利を手にする、トゥルエノ王国きっての名将だ。そんな義兄を彷彿とさせる目の前の人物は、さらに義兄のような人好きのするような笑みを浮かべた。

「息子のように思っているレオンハルトに、王女のような愛らしい妻ができること、心より嬉しく思う」

 ライムンドはレオンハルトとルシアナを交互に見ると、目尻のシワを深めて笑う。

「そうして並ぶと似合いの二人ではないか。なあ、レオンハルト」
「すべては陛下のおかげでございます」
「ははは! お前に良縁を持って来られたならよかった。もちろん、王女にとってもそうであることを願うが」

 ライムンドから視線を向けられ、ルシアナはにこりと笑みを返す。

「シルバキエ公爵閣下の武勇はトゥルエノにも届いておりました。シュネーヴェ王国の英雄とも呼べる方とのこのような機会をいただけましたこと、国王陛下には心より感謝を申し上げます」

 そう言って頭を下げれば、カーペットの側に立つ人々から、感心とも、納得ともとれる息が漏れ聞こえる。

「はは、そうか。そう言ってもらえたのなら、何よりも幸いだ」

 心底嬉しそうに笑い声を上げたライムンドは、一度深呼吸をすると、再びレオンハルトを見遣る。

「王女も聞き及んでいるだろうが、レオンハルトは私をだ」

 ルシアナの言葉をそっくりそのままなぞった発言に、ルシアナは内心笑みを漏らす。

(この先の言葉は……考えなくてもわかるわ。シュネーヴェ王国の人々がわたくしに求めるものなど一つだけだもの)

 表面的には穏やかな微笑を浮かべたまま、ルシアナは続く言葉を待つ。

「レオンハルト自身が剣の達人であるのはもちろんこと……精霊剣の使い手でもある」

 明るかった声色が一気に落ち着いたトーンへと変わる。

「王族全員が精霊剣の使い手というトゥルエノ王国の王女を前にこう言うのは気恥ずかしいが、我が国で精霊剣を扱えるのはレオンハルトのみでな。妻としてだけでなく、同じ精霊剣の使い手として、我が甥を支えてほしく思う」
「はい。わたくしにできることであれば、喜んで閣下のお力になりますわ」

 顔を綻ばせながらそう返せば、ライムンドはわずかに目を細めた。
 これまで名前で呼んでいたのを、この場面では「我が甥」と表現したライムンドの思惑に気付いていないわけではない。
 しかし、ルシアナは何も気付いていないかのように、ただただ純真な笑みを湛えた。
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