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第二章【入会されますか?】
第13話―「出会い掲示板をなめていた」
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騎士であるキシリッシュは当然休みが少ない。半休であれば一週間に2回は回ってくるが、1日休みというのは2~3週に一度くらいだ。
だから彼女は掲示板前で「待機」する事はほとんど無い。
サイゾーのアドバイスを受けて、掲示板に書き込みをしてきた。サイゾーのアドバイス通り、2日間だけの掲示をお願いした。
最初は一週間の掲載をお願いしたのだが、彼に強く止められたからだ。彼女は彼が自分の出会いを邪魔しているのかと一瞬疑ったが、とにかくこの2日分で様子をみて欲しいと懇願されたのだ。
サイゾーは1日でも十分だと言っていたが、この時間に手続きをしたら、夜の間しか掲示されないから、2日間にしてもらった。
そして次の日、仕事から実家に帰宅する。兵宿舎より遠いのが難点だが、一度実家に帰る癖がつくと、メイドが何でもやってくれる家は楽だった。
「お嬢様……その……お手紙が届いているのですが……」
彼女の鎧を外すのを手伝いながらメイドの一人が口ごもった。いつも明瞭な彼女にしては珍しい言い口だった。
「どうした? 言ってみろ」
「その……お手紙が大量に届いております」
大量という単語に妙にアクセントが乗っていた。
「そうか……わかった」
彼女はラフな私服に着替えると自室に移動する。どうやら一通も返信がこないという事にはならなかったらしい。
彼女が出した書き込みは男性からはタイトルしか見えない。タイトルと簡易プロフィールから、掲示板を読むか吟味し、さらにそこから返信メールを出すという二段構えのハードルがある。
いったいどれだけの男がそこまでして女騎士なんぞに返事を出すものか……とやや自嘲気味に苦笑する。
そして自室の机の上を見て、彼女は硬直した。
マホガニーで作られた巨大で重厚な机の上に山と積まれた封筒。彼女がてっぺんの一通を摘まむと、それまでギリギリでバランスを取っていた封筒が雪崩を起こした。
「な……なんだこれは……」
彼女は出会い掲示板の本質をまったく理解していなかった。
■
「……リッシュ、どうしたのだその目は?」
次の日は昼からの出勤日だったので、父と母と一緒に朝食を取るキシリッシュだったが、父親であるグレイビット・ソードは挨拶も忘れて開口一番愛娘に尋ねた。
「いえ……少し……書類仕事をしていたもので」
「そうなのか……? お前の位ではまだ書類仕事は余りないだろう。私は嫌になるほど多いが……」
「ええと、その……私用の手紙です」
「ああ、なるほどな。よくわからないが仕事に影響が無いようにな」
「はい。気をつけます」
キシリッシュ本人とて、まさか朝までかかるとは思ってなかったのだ。大量の返信メールに一通一通目を通して、丁寧に返信を書いていった。
何通かは気になるメールもあったが、今回は全てお断りする事にした。それはそうだ、気になる手紙だけでも二桁を超えるのだ。もし全員に会う約束をしたらそれだけで、半年先まで休日が埋まってしまう。
ならばいっそ全員をお断りするのが筋というものだろう。
なお、彼女が掲示板に載せた内容はこうだ。
======================
タイトル「女騎士で良いと言ってくれる男性」
ニックネーム「キシリッシュ・ソード」
20代中・5月・人間・女・9区
======================
まず黒板に掲示される内容はここまでだ。男性はこれだけをみて掲示板を閲覧するかを考える。男性はこの後に続く内容全文が晒されるので、随分と不公平なシステムと思わないでも無いが、サイゾーの口車でキシリッシュは一応納得していた。
そして本文。
======================
私は女性の身であるが王宮騎士の位を任命され
ている。
王国を守る騎士に誇りを持っている。
仕事に一切の不満は無い。
ただ私生活において、異性と知り合う機会が一
切無い。
おそらく私が騎士である事が原因だろう。
またお世辞にも自分自身の形容に自信がある方
では無い。
さらに残念なことに、休みが不定期で少ない。
半休は時々あるのだが……。
それらを理解した上で、私と友達になってくれ
る方を探している。
余り書きたくは無いのだが、どうやら私を商売
女と間違えたり、尻の軽い女と勘違いする者が多
発している。
残念だが私はその様な要求には応えられない。
以上の条件を納得してくれる男性のみ、返信を
いただきたい。
我が侭だと理解しているが、勘違いしたままお
目にかかっても、お互い時間の無駄になるだけだ
ろう。
それでは、紳士からの返信を期待する。
キシリッシュ・ソード
======================
男性はラブポイントを減らしてこれを読み、さらにラブポイントを減らしてこれに返信メールをださなければならない。
キシリッシュは厳しい内容から、きっと返信は2~3通くれば良い方だと思っていたのだ。
「で……出会い掲示板をなめていた……」
どうにかこうにか全員分の返信を書き終わるのと、彼女を起こしにメイドがやって来たのが同時だった。
結局その日のキシリッシュは一日中精細を欠く事になった。
だから彼女は掲示板前で「待機」する事はほとんど無い。
サイゾーのアドバイスを受けて、掲示板に書き込みをしてきた。サイゾーのアドバイス通り、2日間だけの掲示をお願いした。
最初は一週間の掲載をお願いしたのだが、彼に強く止められたからだ。彼女は彼が自分の出会いを邪魔しているのかと一瞬疑ったが、とにかくこの2日分で様子をみて欲しいと懇願されたのだ。
サイゾーは1日でも十分だと言っていたが、この時間に手続きをしたら、夜の間しか掲示されないから、2日間にしてもらった。
そして次の日、仕事から実家に帰宅する。兵宿舎より遠いのが難点だが、一度実家に帰る癖がつくと、メイドが何でもやってくれる家は楽だった。
「お嬢様……その……お手紙が届いているのですが……」
彼女の鎧を外すのを手伝いながらメイドの一人が口ごもった。いつも明瞭な彼女にしては珍しい言い口だった。
「どうした? 言ってみろ」
「その……お手紙が大量に届いております」
大量という単語に妙にアクセントが乗っていた。
「そうか……わかった」
彼女はラフな私服に着替えると自室に移動する。どうやら一通も返信がこないという事にはならなかったらしい。
彼女が出した書き込みは男性からはタイトルしか見えない。タイトルと簡易プロフィールから、掲示板を読むか吟味し、さらにそこから返信メールを出すという二段構えのハードルがある。
いったいどれだけの男がそこまでして女騎士なんぞに返事を出すものか……とやや自嘲気味に苦笑する。
そして自室の机の上を見て、彼女は硬直した。
マホガニーで作られた巨大で重厚な机の上に山と積まれた封筒。彼女がてっぺんの一通を摘まむと、それまでギリギリでバランスを取っていた封筒が雪崩を起こした。
「な……なんだこれは……」
彼女は出会い掲示板の本質をまったく理解していなかった。
■
「……リッシュ、どうしたのだその目は?」
次の日は昼からの出勤日だったので、父と母と一緒に朝食を取るキシリッシュだったが、父親であるグレイビット・ソードは挨拶も忘れて開口一番愛娘に尋ねた。
「いえ……少し……書類仕事をしていたもので」
「そうなのか……? お前の位ではまだ書類仕事は余りないだろう。私は嫌になるほど多いが……」
「ええと、その……私用の手紙です」
「ああ、なるほどな。よくわからないが仕事に影響が無いようにな」
「はい。気をつけます」
キシリッシュ本人とて、まさか朝までかかるとは思ってなかったのだ。大量の返信メールに一通一通目を通して、丁寧に返信を書いていった。
何通かは気になるメールもあったが、今回は全てお断りする事にした。それはそうだ、気になる手紙だけでも二桁を超えるのだ。もし全員に会う約束をしたらそれだけで、半年先まで休日が埋まってしまう。
ならばいっそ全員をお断りするのが筋というものだろう。
なお、彼女が掲示板に載せた内容はこうだ。
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タイトル「女騎士で良いと言ってくれる男性」
ニックネーム「キシリッシュ・ソード」
20代中・5月・人間・女・9区
======================
まず黒板に掲示される内容はここまでだ。男性はこれだけをみて掲示板を閲覧するかを考える。男性はこの後に続く内容全文が晒されるので、随分と不公平なシステムと思わないでも無いが、サイゾーの口車でキシリッシュは一応納得していた。
そして本文。
======================
私は女性の身であるが王宮騎士の位を任命され
ている。
王国を守る騎士に誇りを持っている。
仕事に一切の不満は無い。
ただ私生活において、異性と知り合う機会が一
切無い。
おそらく私が騎士である事が原因だろう。
またお世辞にも自分自身の形容に自信がある方
では無い。
さらに残念なことに、休みが不定期で少ない。
半休は時々あるのだが……。
それらを理解した上で、私と友達になってくれ
る方を探している。
余り書きたくは無いのだが、どうやら私を商売
女と間違えたり、尻の軽い女と勘違いする者が多
発している。
残念だが私はその様な要求には応えられない。
以上の条件を納得してくれる男性のみ、返信を
いただきたい。
我が侭だと理解しているが、勘違いしたままお
目にかかっても、お互い時間の無駄になるだけだ
ろう。
それでは、紳士からの返信を期待する。
キシリッシュ・ソード
======================
男性はラブポイントを減らしてこれを読み、さらにラブポイントを減らしてこれに返信メールをださなければならない。
キシリッシュは厳しい内容から、きっと返信は2~3通くれば良い方だと思っていたのだ。
「で……出会い掲示板をなめていた……」
どうにかこうにか全員分の返信を書き終わるのと、彼女を起こしにメイドがやって来たのが同時だった。
結局その日のキシリッシュは一日中精細を欠く事になった。
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