異世界で「出会い掲示板」はじめました。

佐々木さざめき

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第四章【転移者サイゾー】

第19話―掲示板

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 その後サイゾーはさらに人を雇いつつ、下準備を進めていった。喫茶店や酒場などにポストを設置させて回る。そして、ギルド職員だった頃から目をつけて、何度も足を運び、内密に話を進めていたある場所へと足を運んだ。

「ふうん、随分とデカい掲示板だな」

 中年小太りの男性が、壁一面を覆う木製の掲示板を見て、顎に手を当てる。

「そりゃあ目立ってナンボだからな」

 サイゾー・ミズタニは苦笑した。やはりこの世界の住人には理解されにくいものらしい。

「それじゃあ、おやっさん。向こうのカウンターを借りるぜ」

「ああ、精々頑張れよ」

 興味がなさそうに軽く手を振って、おやっさんはその大きな腹を揺らしながらメインカウンターへ戻っていく。

 彼はモリアーノ・ビゴット。宿屋兼酒場『海が恋しいアホウドリ亭』の店主だ。サイゾーは親愛を込めておやっさんと呼んでいた。

 彼の経営するこの宿屋は、二階が宿泊施設、一階がまるまる大きな酒場となっている。

 元は商会の施設だったこの建物には、商談用のカウンターやスペースが存在していたが、今日まで活用されていなかった。宿屋には必要の無い設備だったからだ。

 だが、サイゾーにとっては違った。

 渋るモリアーノのおやっさんを口説き落とし、彼がこれから始める商売の本拠地として借り受けたのだ。

「うん、やっぱりいい。あれぐらい大きくないとな」

 サイゾーは専用窓口となった商用カウンターに座ると、そこから掲示板を眺めて頷いた。

 巨大な掲示板の半分は黒板で、もう半分はピンの刺しやすい木材で作られている。

 チョークの代わりになる石を探すのに少々手こずったが、それもなんとか見つかった。

 絵画を飾る額縁の様に、豪奢な枠で象られた掲示板。そのてっぺんには、見事な金文字でこう彫り込まれていた。

 出会い掲示板【ファインド・ラブ】

 異世界出会い掲示板である。

 サイゾーは満足して掲示板を見つめていた。

「ふうん? これがサイゾーの新しい商売なの?」

「え?」

 聞き覚えのある声にサイゾーが振り向くと、B級冒険者の女エルフ。ディーナ・ファンネルが腕を組んで立っていた。

「ディーナ? なんでこんな所にいるんだ?」

 サイゾーはこのアホウドリ亭に何でも足を運んでいるが、今までディーナがこの店で飲んでいるのを見たことが無かった。どうしてここにいるのか本気でわからなかった。

「なんでって、貴方、ギルドと警備契約交わしたでしょ? 私がその仕事を受けたのよ」

「はぁ?! B級を雇える様な金額払ってねぇぞ?! 何かの間違いだろ!」

 サイゾーは冒険者の相場を骨の髄まで染みこむほどによく理解していた。サイゾーがギルドと契約した額ではE級かF級を派遣してもらえる程度しか払っていない。もしかしたら暇なD級が受けるかも知れないが、一日二日の仕事では無いのだ。D級以上が受けるとは思えないし、またギルドがそれを受理するとも思えなかった。

「良いのよ、ウチのパーティー解散しちゃったから、しばらく暇なのよね」

「はああぁ?!」

 再びサイゾーは素っ頓狂な声を上げた。だがその気持ちはわからなくもない。74地区で最も腕の良いパーティーの一つが電撃解散するのだ。驚かない方がどうかしている。

「ボーラはモイエックに振られて荒れてるし、あれじゃあしばらく再結成も出来ないわよ」

「マジかよ……短剣を咥えた鷹が解散か……こりゃあしばらくギルドはきついだろうな」

 全員がB級冒険者のパーティーという、短剣を咥えた鷹は冒険者ギルド74地区支部のエースであり、その穴は大きい。

「まぁモイエックは実家に帰るみたいだけど、私たちはこの地区に残ることにしたから、そこまで戦力の低下にはならないでしょ」

「そうか……、それにしても警備任務なんてB級のやる仕事じゃなかろうに……」

「解散を機にしばらく休養したいのよ。この仕事ならたいして忙しくならないでしょ?」

 ディーナが軽い気持ちで尋ねると、サイゾーはそっと視線を逸らした。

「ちょっと……」

「いや、たぶん大丈夫だ。……たぶん」

「……なんだか嫌な予感がするわね」

「まぁ基本的に冒険者は抑止力だからな。ディーナがいればそうそう問題なんて起きないだろう」

「そう願うわ」

 もちろんこの二人の希望は神に届くことはなかった。
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