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第四章【転移者サイゾー】
第20話―天変地異
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出会い掲示板【ファインド・ラブ】は発足当初はトラブルが続いたが、冒険者ギルドのB級冒険者であるディーナの協力もあり、すぐに軌道に乗っていった。
そして職員たちが十分に育ち、結婚報告掲示板が出来て、郵便事業が動き出してしばらくたった日のことだった、サイゾーが朝の朝礼で職員たちを驚かせるセリフを吐いた。
それは彼らにしてみれば天変地異の宣言と変わらなかっただろう。
「えー、出会い掲示板が発足して大分経つが、みんなのおかげでここまで大きくなれた。仕事にも慣れただろうし、そろそろ俺も休みを取らせてもらおうと考えているのだが、みんなの意見は……」
「「「「今すぐ休んでください!」」」」
サイゾーの言葉は、商会員全員の唱和で中断させられた。サイゾーが呆然と立ち尽くしていると、職員たちはいつもの朝の朝礼を勝手に始めた。なぜかマルティナが仕切っていた。
「「「「一つ! 私たちは王国法を遵守し! お客さまの信頼を得る努力を怠りません!」」」」
「「「「一つ! 私たちは常に笑顔で紳士に! 社会に貢献する努力を怠りません!」」」」
「「「「一つ! 私たちは仕事に対して常に努力し! 商会に利益を上げる努力を怠りません!」」」」
「「「「一つ! 私たちは嘘や誤魔化しをせず! 人間的に成長する努力を怠りません!」」」」
「「「「一つ! 私たちは仕事に誇りを持って! 誠実! 感謝! 奉仕の心を忘れません!」」」」
日本式にびしっと直立で社訓を唱和すると、さっさと自分たちの仕事に散っていく。
「……あれー?」
サイゾーは想像と違うみんなの反応に間抜けな声を上げた。そこにマルティナがやってくる。
「みんな、会長にはずっと休んで欲しかったんですよ」
「そうなのか?」
サイゾーは首を傾げた。
「それはそうですよ。会長が休んでくれないと、なかなか自分たちが休めないじゃないですか」
マルティナはサイゾーの机から必要なバインダーを胸に抱えていく。視線で「良いですよね?」と語っていたので、サイゾーは頷いた。
「今は10日に1日は休めるようにローテ組んでるだろ?」
「それはそうですが……はぁ本当に会長はダメですね。逆の意味で」
深いため息を吐く彼女。
「おおう……自覚はしてるよ」
「欠片もしてませんね」
ぴしゃりと言い切るマルティナに、サイゾーが凹んだ。そこまで自分はダメなのだろうかと。
「それで会長、いつものはどうしますか?」
「いつもの?」
マルティナはサイゾーに身体を押しつけて、彼の耳に口を近づけた。それを見ていたコニータ・マドカンスキーが顔を赤くする。
「会長が夜中にやっている、全てのチェック作業ですよ」
「知ってたのか……」
サイゾーは眉をしかめた。見つからないようにしていたつもりだが、ほぼ全ての会計に目を通しているマルティナまでは誤魔化せなかったらしい。
「信用していただけるなら、私がやっておきます」
どこか図書委員という言葉が似合いそうなマルティナが眼鏡の奥からサイゾーをジッと見つめた。
「……わかった、頼んでいいか?」
「はい」
「じゃあ任せた」
サイゾーが頷くと、マルティナは他人にはほぼわからないレベルで表情を緩めた。
「会長は10日くらい休んでください」
「そんなにいらねーよ……まぁ2日くらいもらうかな」
「……わかりました。留守は任せてください」
何かを言いかけたマルティナだったが、普通に受諾する。
「おう。じゃあ頼む」
サイゾーは片手を上げて酒場の方へ出て行った。
「……私も一緒に休みたいって言ったら……」
ぼそりと呟いた後、マルティナは首を振って仕事に戻っていった。
「コニー君、ぼーっとしてないで受付!」
「ふぁあああい!」
いつも仕事を指示してくれるサイゾーがいなくなって、一人だけオロオロしていたコニータを叱りつけると、マルティナは分厚い顧客リストとにらめっこを始めた。
そして職員たちが十分に育ち、結婚報告掲示板が出来て、郵便事業が動き出してしばらくたった日のことだった、サイゾーが朝の朝礼で職員たちを驚かせるセリフを吐いた。
それは彼らにしてみれば天変地異の宣言と変わらなかっただろう。
「えー、出会い掲示板が発足して大分経つが、みんなのおかげでここまで大きくなれた。仕事にも慣れただろうし、そろそろ俺も休みを取らせてもらおうと考えているのだが、みんなの意見は……」
「「「「今すぐ休んでください!」」」」
サイゾーの言葉は、商会員全員の唱和で中断させられた。サイゾーが呆然と立ち尽くしていると、職員たちはいつもの朝の朝礼を勝手に始めた。なぜかマルティナが仕切っていた。
「「「「一つ! 私たちは王国法を遵守し! お客さまの信頼を得る努力を怠りません!」」」」
「「「「一つ! 私たちは常に笑顔で紳士に! 社会に貢献する努力を怠りません!」」」」
「「「「一つ! 私たちは仕事に対して常に努力し! 商会に利益を上げる努力を怠りません!」」」」
「「「「一つ! 私たちは嘘や誤魔化しをせず! 人間的に成長する努力を怠りません!」」」」
「「「「一つ! 私たちは仕事に誇りを持って! 誠実! 感謝! 奉仕の心を忘れません!」」」」
日本式にびしっと直立で社訓を唱和すると、さっさと自分たちの仕事に散っていく。
「……あれー?」
サイゾーは想像と違うみんなの反応に間抜けな声を上げた。そこにマルティナがやってくる。
「みんな、会長にはずっと休んで欲しかったんですよ」
「そうなのか?」
サイゾーは首を傾げた。
「それはそうですよ。会長が休んでくれないと、なかなか自分たちが休めないじゃないですか」
マルティナはサイゾーの机から必要なバインダーを胸に抱えていく。視線で「良いですよね?」と語っていたので、サイゾーは頷いた。
「今は10日に1日は休めるようにローテ組んでるだろ?」
「それはそうですが……はぁ本当に会長はダメですね。逆の意味で」
深いため息を吐く彼女。
「おおう……自覚はしてるよ」
「欠片もしてませんね」
ぴしゃりと言い切るマルティナに、サイゾーが凹んだ。そこまで自分はダメなのだろうかと。
「それで会長、いつものはどうしますか?」
「いつもの?」
マルティナはサイゾーに身体を押しつけて、彼の耳に口を近づけた。それを見ていたコニータ・マドカンスキーが顔を赤くする。
「会長が夜中にやっている、全てのチェック作業ですよ」
「知ってたのか……」
サイゾーは眉をしかめた。見つからないようにしていたつもりだが、ほぼ全ての会計に目を通しているマルティナまでは誤魔化せなかったらしい。
「信用していただけるなら、私がやっておきます」
どこか図書委員という言葉が似合いそうなマルティナが眼鏡の奥からサイゾーをジッと見つめた。
「……わかった、頼んでいいか?」
「はい」
「じゃあ任せた」
サイゾーが頷くと、マルティナは他人にはほぼわからないレベルで表情を緩めた。
「会長は10日くらい休んでください」
「そんなにいらねーよ……まぁ2日くらいもらうかな」
「……わかりました。留守は任せてください」
何かを言いかけたマルティナだったが、普通に受諾する。
「おう。じゃあ頼む」
サイゾーは片手を上げて酒場の方へ出て行った。
「……私も一緒に休みたいって言ったら……」
ぼそりと呟いた後、マルティナは首を振って仕事に戻っていった。
「コニー君、ぼーっとしてないで受付!」
「ふぁあああい!」
いつも仕事を指示してくれるサイゾーがいなくなって、一人だけオロオロしていたコニータを叱りつけると、マルティナは分厚い顧客リストとにらめっこを始めた。
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