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第四章【転移者サイゾー】
第21話―デート
しおりを挟む「え?! お休み?!」
ガルドラゴン王国王都74地区にある巨大酒場、「海が恋しいアホウドリ亭」で素っ頓狂な声を上げたのは、流れるような金髪が特徴の女エルフだった。
ディーナ・ファンネルはB級冒険者で、現在は出会い掲示板ファインド・ラブの護衛としてアホウドリ亭に常駐していた。
「サイゾーが? 今日?」
「お、おう……。驚く事じゃないだろ?」
「驚くわよ! ちょっと待ってて! すぐ戻るから!」
「え? あっおい!」
サイゾーの返事を待たずにディーナが酒場を飛び出していった。
「なんなんだよいったい……」
安酒をあおりながら、今日は何をするかと考えていると、10分もしないうちにディーナが戻って来た。なぜか彼女の冒険者仲間であるボーラ・ベビルカを連れて。
ボーラはディーナの元パーティーメンバーで色黒の女戦士である。ハリウッド映画に出てきそうな見事な筋肉をしていた。
「きょ……今日の護衛はボーラに変わってもらったから!」
「お……おう」
ボーラもB級冒険者なので、警備員としては十二分すぎるのでサイゾーからしたら文句などないのだが、意図がわからなかった。
実際ボーラも苦笑して、無理矢理連れてこられたのが見て取れる。
「ま、まぁボーラなら安心だ。頼むよ」
とてもB級を雇える金額ではないが、受けた仕事を適当にやる人間でないのはよく知っていたので、それ以上は何も言わなかった。
するとボーラがサイゾーの横に立って、ぼそりと言った。
「恥をかかすんじゃないよ?」
「え? それってどういう意味……」
サイゾーが聞き返すも、ボーラに軽くあしらわれて返事をしてもらえなかった。
「なんなんだよいったい……」
ぶつぶつと呟きながら席に座ると、ディーナが彼の横に座った。
「ね、ねえサイゾー。貴方今日暇なんでしょ?」
「ん? まぁそうだな。洗濯はいつもどおり宿に頼んじまったから、たまには部屋の掃除でも……」
「それじゃあ私と出かけましょうよ!」
「……え?」
サイゾーは思わぬ言葉にマジマジとディーナを見つめてしまう。そういえば彼女には昔から気を遣ってもらってよく誘われていたなと思い返した。
「うん……そうだな、いつも断ってたしな。だが良いのか?」
「私が誘ってるのに良いも悪いもないでしょ?」
「それもそうだな……だがあまり金のかかる事は……」
「相変わらず守銭奴なのね……」
「今は生活費以外は商会から受け取ってないしな」
「え?! なんで?!」
今度はディーナが驚いた。
「なんでも何も、商会の資金がギリギリだからな、従業員の給料と諸経費でいっぱいいっぱいだ」
これで万年筆の代金が定期的に入ってきてなかったら、とっくの昔に破産していたなと、サイゾーは腕を組んだ。
「え? おかしくない? 普通そういう時って、真っ先に従業員の給料が減るわよね?」
「いやいや、それこそおかしいだろ、あいつらしっかり仕事してるんだから給料減らすとかあり得ねぇよ」
「本当に変わり者ね、サイゾーは」
そう言ってクスリと笑った。馬鹿にされたと思い、サイゾーはふて腐れて立ち肘する。
「ふん。何とでも言え。あいつらは俺の財産だからな」
「そう」
妙に嬉しそうにディーナは席を立つと、サイゾーの腕を掴んで無理矢理立たせた。
「お、おい」
「さあ行きましょうよ」
「まだ酒が残って……」
ご機嫌でサイゾーを外に連れ出そうと腕を組みかけたところで、二人の進路を塞ぐように入り口から銀色の鎧を纏った女性が入ってきた。
薄暗い店内でなお光を放つような銀髪に、まるで合わせてあつらえたような銀色の甲冑を纏っていた。だがサイゾーは違和感を抱く。
「よおキシリッシュ。久しぶりだな」
サイゾーはキシリッシュに片手を上げる動作で、ナチュラルにディーナなから手を離す。途端にディーナは不機嫌になった。
「サイゾー? どこか行くのか?」
「ん? ああ……そうみたいだな」
チラリとディーナに目をやると、なぜか睨まれた。
「仕事か。相変わらず慌ただしいな」
「いや、今日は休みなんだ。これから……どこかに出掛けるらしい」
キシリッシュは片目だけ細めた。
「なんだそれは。ハッキリせんな」
「まだ決まってないんだよ。それでキシリッシュは掲示板か?」
最近は酒だけ飲みに来ることもあるキシリッシュだったので、ついいつもの癖で尋ねてしまう。
「いや、雑談というか、サイゾーに報告があってきたんだが」
「そうなのか? とりあえず座れよ」
そう言ってサイゾーは再び席に着くと、ディーナのまなじりが吊り上がった。
「うむ。失礼する……ああ店主! 全員にいつものを!」
銀髪騎士が良く通る声で酒場のカウンターに声を上げると、奥からモリアーノが「あいよー」と返答した。
「いいのか?」
「ああ、私事だが少々嬉しいことがあったからな」
「それはその鎧の変更と関係しているのか?」
「ふっ。さすがにめざといな。その通りだ」
ナチュラルに会話を始める二人を凍えるような視線で睨みながらディーナもサイゾーの隣に腰を下ろした。
(どうしてこいつはこんなに鈍いのよ!)
あまりにも自分になびかないサイゾーに、どこかムキになっているディーナであった。
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