76 / 102
第四章【転移者サイゾー】
第21話―デート
しおりを挟む「え?! お休み?!」
ガルドラゴン王国王都74地区にある巨大酒場、「海が恋しいアホウドリ亭」で素っ頓狂な声を上げたのは、流れるような金髪が特徴の女エルフだった。
ディーナ・ファンネルはB級冒険者で、現在は出会い掲示板ファインド・ラブの護衛としてアホウドリ亭に常駐していた。
「サイゾーが? 今日?」
「お、おう……。驚く事じゃないだろ?」
「驚くわよ! ちょっと待ってて! すぐ戻るから!」
「え? あっおい!」
サイゾーの返事を待たずにディーナが酒場を飛び出していった。
「なんなんだよいったい……」
安酒をあおりながら、今日は何をするかと考えていると、10分もしないうちにディーナが戻って来た。なぜか彼女の冒険者仲間であるボーラ・ベビルカを連れて。
ボーラはディーナの元パーティーメンバーで色黒の女戦士である。ハリウッド映画に出てきそうな見事な筋肉をしていた。
「きょ……今日の護衛はボーラに変わってもらったから!」
「お……おう」
ボーラもB級冒険者なので、警備員としては十二分すぎるのでサイゾーからしたら文句などないのだが、意図がわからなかった。
実際ボーラも苦笑して、無理矢理連れてこられたのが見て取れる。
「ま、まぁボーラなら安心だ。頼むよ」
とてもB級を雇える金額ではないが、受けた仕事を適当にやる人間でないのはよく知っていたので、それ以上は何も言わなかった。
するとボーラがサイゾーの横に立って、ぼそりと言った。
「恥をかかすんじゃないよ?」
「え? それってどういう意味……」
サイゾーが聞き返すも、ボーラに軽くあしらわれて返事をしてもらえなかった。
「なんなんだよいったい……」
ぶつぶつと呟きながら席に座ると、ディーナが彼の横に座った。
「ね、ねえサイゾー。貴方今日暇なんでしょ?」
「ん? まぁそうだな。洗濯はいつもどおり宿に頼んじまったから、たまには部屋の掃除でも……」
「それじゃあ私と出かけましょうよ!」
「……え?」
サイゾーは思わぬ言葉にマジマジとディーナを見つめてしまう。そういえば彼女には昔から気を遣ってもらってよく誘われていたなと思い返した。
「うん……そうだな、いつも断ってたしな。だが良いのか?」
「私が誘ってるのに良いも悪いもないでしょ?」
「それもそうだな……だがあまり金のかかる事は……」
「相変わらず守銭奴なのね……」
「今は生活費以外は商会から受け取ってないしな」
「え?! なんで?!」
今度はディーナが驚いた。
「なんでも何も、商会の資金がギリギリだからな、従業員の給料と諸経費でいっぱいいっぱいだ」
これで万年筆の代金が定期的に入ってきてなかったら、とっくの昔に破産していたなと、サイゾーは腕を組んだ。
「え? おかしくない? 普通そういう時って、真っ先に従業員の給料が減るわよね?」
「いやいや、それこそおかしいだろ、あいつらしっかり仕事してるんだから給料減らすとかあり得ねぇよ」
「本当に変わり者ね、サイゾーは」
そう言ってクスリと笑った。馬鹿にされたと思い、サイゾーはふて腐れて立ち肘する。
「ふん。何とでも言え。あいつらは俺の財産だからな」
「そう」
妙に嬉しそうにディーナは席を立つと、サイゾーの腕を掴んで無理矢理立たせた。
「お、おい」
「さあ行きましょうよ」
「まだ酒が残って……」
ご機嫌でサイゾーを外に連れ出そうと腕を組みかけたところで、二人の進路を塞ぐように入り口から銀色の鎧を纏った女性が入ってきた。
薄暗い店内でなお光を放つような銀髪に、まるで合わせてあつらえたような銀色の甲冑を纏っていた。だがサイゾーは違和感を抱く。
「よおキシリッシュ。久しぶりだな」
サイゾーはキシリッシュに片手を上げる動作で、ナチュラルにディーナなから手を離す。途端にディーナは不機嫌になった。
「サイゾー? どこか行くのか?」
「ん? ああ……そうみたいだな」
チラリとディーナに目をやると、なぜか睨まれた。
「仕事か。相変わらず慌ただしいな」
「いや、今日は休みなんだ。これから……どこかに出掛けるらしい」
キシリッシュは片目だけ細めた。
「なんだそれは。ハッキリせんな」
「まだ決まってないんだよ。それでキシリッシュは掲示板か?」
最近は酒だけ飲みに来ることもあるキシリッシュだったので、ついいつもの癖で尋ねてしまう。
「いや、雑談というか、サイゾーに報告があってきたんだが」
「そうなのか? とりあえず座れよ」
そう言ってサイゾーは再び席に着くと、ディーナのまなじりが吊り上がった。
「うむ。失礼する……ああ店主! 全員にいつものを!」
銀髪騎士が良く通る声で酒場のカウンターに声を上げると、奥からモリアーノが「あいよー」と返答した。
「いいのか?」
「ああ、私事だが少々嬉しいことがあったからな」
「それはその鎧の変更と関係しているのか?」
「ふっ。さすがにめざといな。その通りだ」
ナチュラルに会話を始める二人を凍えるような視線で睨みながらディーナもサイゾーの隣に腰を下ろした。
(どうしてこいつはこんなに鈍いのよ!)
あまりにも自分になびかないサイゾーに、どこかムキになっているディーナであった。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
ホームレスは転生したら7歳児!?気弱でコミュ障だった僕が、気づいたら異種族の王になっていました
たぬきち
ファンタジー
1部が12/6に完結して、2部に入ります。
「俺だけ不幸なこんな世界…認めない…認めないぞ!!」
どこにでもいる、さえないおじさん。特技なし。彼女いない。仕事ない。お金ない。外見も悪い。頭もよくない。とにかくなんにもない。そんな主人公、アレン・ロザークが死の間際に涙ながらに訴えたのが人生のやりなおしー。
彼は30年という短い生涯を閉じると、記憶を引き継いだままその意識は幼少期へ飛ばされた。
幼少期に戻ったアレンは前世の記憶と、飼い猫と喋れるオリジナルスキルを頼りに、不都合な未来、出来事を改変していく。
記憶にない事象、改変後に新たに発生したトラブルと戦いながら、2度目の人生での仲間らとアレンは新たな人生を歩んでいく。
新しい世界では『魔宝殿』と呼ばれるダンジョンがあり、前世の世界ではいなかった魔獣、魔族、亜人などが存在し、ただの日雇い店員だった前世とは違い、ダンジョンへ仲間たちと挑んでいきます。
この物語は、記憶を引き継ぎ幼少期にタイムリープした主人公アレンが、自分の人生を都合のいい方へ改変しながら、最低最悪な未来を避け、全く新しい人生を手に入れていきます。
主人公最強系の魔法やスキルはありません。あくまでも前世の記憶と経験を頼りにアレンにとって都合のいい人生を手に入れる物語です。
※ ネタバレのため、2部が完結したらまた少し書きます。タイトルも2部の始まりに合わせて変えました。
貧乏で凡人な転生令嬢ですが、王宮で成り上がってみせます!
小針ゆき子
ファンタジー
フィオレンツァは前世で日本人だった記憶を持つ伯爵令嬢。しかしこれといった知識もチートもなく、名ばかり伯爵家で貧乏な実家の行く末を案じる毎日。そんな時、国王の三人の王子のうち第一王子と第二王子の妃を決めるために選ばれた貴族令嬢が王宮に半年間の教育を受ける話を聞く。最初は自分には関係のない話だと思うが、その教育係の女性が遠縁で、しかも後継者を探していると知る。
これは高給の職を得るチャンス!フィオレンツァは領地を離れ、王宮付き教育係の後継者候補として王宮に行くことになる。
真面目で機転の利くフィオレンツァは妃候補の令嬢たちからも一目置かれる存在になり、王宮付き教師としての道を順調に歩んでいくかと思われたが…。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる