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第五章【ガルドラゴン王国】

第9話―王都と流行

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 流れる銀髪と、輝く銀鎧。凜々しい顔立ちにはわずかに幼さを残しているが、王国でも期待の新人騎士の一人であるキシリッシュ・ソード24歳は聖人像前に背筋を伸ばして立っていた。

 聖人像は待ち合わせによく使われる74地区で有名な石像だ。今日もたくさんの人間が集まっていたのだが、キシリッシュの周辺にはキシリッシュともう一人の人物以外誰も近寄ろうとはしなかった。誰もが遠巻きに二人の様子を窺っていた。

 どちらかというと鈍感に部類するキシリッシュだったが、さすがにこの視線は痛かった。

 問題の人物が腰に手を当ててぺたんこの胸をふんぞり返えした。

「遅いのじゃ! 来ないのじゃ! ええいどうなっておるのじゃキシリッシュ!」

「まだ返信をもらったばかりですから、一時間は来ない可能性もあると言ったではありませんか」

「わかっておるのじゃ! だが早く来る可能性もあるのじゃろ!?」

「可能性はあるはずですが……」

 白ゴスロリ少女はふんと鼻息を吐いた。

「まあいいのじゃ。とにかく待つのじゃ」

 ゴスロリ服……これはガルドラゴン王国の第三王女が考案して、定期的に行われる王族の発表会でその姿をお披露目すると、王都で流行し始めた服である。なのでファッションに敏感な一部の女性はシャルロット王女のご尊顔を知るものが多かった。

 だから聖人像の前で仁王立ちするその人物がこの国の王女様である事を理解した。知らない人間もすぐに知る人間から注意され、結果的に銀の騎士と王女の周りにぽっかりと空間が空いてしまうと言う状況が出来上がっていた。

 なんで王城から離れた74地区の聖人像前に、たった一人の護衛だけつけてそこにいるのかは誰も理解出来なかったが、周りの人間は幼くも美しい王女を遠巻きに拝見していた。

 だが幼い王女はご立腹のようであった。

「遅い! まだ来んのか! 来ると書いてあったのじゃろ!?」

「は、はい。確かにそのような返信メールをいただきました」

「もう二時間は待っているでは無いか!? もう日が暮れてきおったのじゃ!」

「きっと急用でも出来たのでしょう。姫様、本日はもう帰りましょう」

「ぐぬぬ……そろそろ戻らないと爺の怒りゲージが一段階上がってしまうのじゃ……そしたら外出禁止になってしまうかもしれんのじゃ……致し方ないのじゃ。帰るのじゃ」

 キシリッシュは小さく安堵の息を吐いた。

「はっ! それではまいりましょう」

 すると人混みに紛れて待機していた、うさ耳のメイドが飛び出してきて、コケた。パンツが丸見えであったが、幸い周りにいたのは女性が多かった。数少ない男性にはラッキーイベントであったろう。

 泣きそうな顔で起き上がると、すでに王城に向かって歩き出す二人に慌ててついていった。

 こうして掲示板最大級の問題児が活動を開始したのである。

 ◆

 ディック・ボスフェルト21歳。ニックネーム「ディック」はダメンズ三人組の最後の一人である。

 残りの二人はモイミール・ヤヴーレクとバイエル・ハーパネンだ。どれだけダメか想像が付くというものであろう。

 ただディックは二人のように問題児と言うよりも自分に自信が無く上手くいかないタイプであった。根は正直者で悪い男では無いのだが、女性という生き物は不思議と正直者よりデンジャラスな男に惹かれるものだ。結果的にディックが掲示板で上手く言ったことは無い。

 ディックは二人の付き合いとわずかな希望を込めていつもと掲示板用の文面を書いていた。内容はいつも同じ様なものだった。

 そろそろポイントが怪しいのでまた購入しなくてはいけない。最初は無料だのサービスだので金も掛からずに楽しめると思っていたのだが、気がつけば給料の一割近くを毎月掲示板につぎ込んでいるのだから恐ろしいものだ。

 しかもそれが徐々に徐々にというのだから良く出来ている。もっともダメンズの一人であるモイミールはそれで時々は美味しい目も味わっているようなので、まるっきりのインチキという訳でも無い。

 希望を込めて受付に掲示板の掲載手続きを行った。
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