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第五章【ガルドラゴン王国】
第10話―王都と命がけの任務
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ディックの淡い渇望の込められた掲示板はこの様に書かれていた。
======================
タイトル「本当にお暇でしょうがなかったら」
ニックネーム「ディック」
20代前・12月・人間・男・74区
――――――――――――――――――――――
こんにちはディックと言います。
もしかしたらこんばんはかもしれませんね。
自分は74区で職人見習いをしています。
3年経っても見習いです。
最近では親方に見捨てられつつあります。
来なくて良いと言われる日が増えています。
ですので、空いている日が多いです。
ですから、女性の方で、空いている人がいたら、
良かったら、お話してもらえると、凄くありがた
いです。
もちろん下心はありません。女性と話す機会が
無かったので、ゆっくり話してみたいんです。
そんな自分で良かったらメールをください。
必ずお返事します。
よろしくお願いします。
======================
なお、今まで返信があったことはほとんど無い。
にも関わらず文面を変えない辺り、ダメンズの立派な一員であることに本人は気がついていなかった。一体どこの女が首になりそうな見習い職人などと出会いたいと思うと言うのだろうか?
だから久しぶりの返信にディックは心躍らせながらブースに引っ込む。酒場では二人に邪魔されるからだ。狭いブースに引っ込むといそいそとメールを開く。
そして身体を硬直させた。
メールの差出人の名はシャルロット・ガルドラゴン・ウォルポールとなっていた。その名前はガルドラゴン王国の第三王女の名前であった。
最近唐突に掲示板に現れた王女の名を騙る不埒者であった。正直最初は冗談だと思った。王家の名を騙るなど問答無用で打ち首である。下手したら一家郎党皆殺しでもおかしくない。王国法など知らないが、無知なディックであってもそれが許されぬ重罪だと言う事だけは理解していた。
「お……恐ろしい……」
何が恐ろしいか。
騙りである事も恐ろしいが、それ以上に恐ろしいのは万が一にも本物であったらば……。
ディックは身体を震わせて、知っている限り最大限な丁寧語を心がけてお断りのメールを書いた。深いため息をつきながら。
◆
「なぜなのじゃ!?」
ここは女性専用酒場、通称女神亭である。掲示板前の一等地を占領し、地団駄を踏んで文句を叫んでいるのは、紛う事なきこの国の王女であるシャルロットその人であった。
「どーーーーしてどいつもこいつからもお断りのメールしか返ってこないのじゃ!?」
ばんばんと机を叩きながら銀色の女騎士に食って掛かる。
「そういう事もあるかと……」
「ええい! 他の者にはきちんと返信が返ってきてるおるのじゃ! 理不尽なのじゃ!」
ビシリと指を差した先にいた女が、身をビクリと震わせた後、そそくさと酒場から出て行ってしまう。おそらく待ち合わせ場所にでも向かったのだろう。
「落ち着いてください姫様。掲示板に焦りは禁物とサイゾーも言っておりました」
「サイゾー? ああ、あの黒髪の目つきの悪い男じゃの」
「そうです」
「なるほどなのじゃ」
「ご理解いただけて幸いです」
「つまりサイゾーが全て悪いと言うことなのじゃな!」
「一体何をどう取ったらその様な結論になるのですか!?」
「あの男がこのシステムを作ったのじゃろう? ならば悪いのはその男なのじゃ」
「ですからその男の助言に従って……」
「妾は王女なのじゃ。優遇するのが当たり前なのじゃ。行くのじゃキシリッシュ!」
「ああああああ……」
銀の騎士キシリッシュは頭を抱えてその場にかがみ込んだ。なるほど、前任が胃の病で倒れたという噂は本当だったようだ。これは……想像を絶するお役目に付いてしまったと、自らの胃を押さえた。
すると姫のお付きメイドであるウサギの獣人であるメイア・ピョン・スレジンガーがキシリッシュの横に立ち、同情の視線を向けて彼女の肩を叩いた。どうやら命を掛けなければならない任務のようであった。
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タイトル「本当にお暇でしょうがなかったら」
ニックネーム「ディック」
20代前・12月・人間・男・74区
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こんにちはディックと言います。
もしかしたらこんばんはかもしれませんね。
自分は74区で職人見習いをしています。
3年経っても見習いです。
最近では親方に見捨てられつつあります。
来なくて良いと言われる日が増えています。
ですので、空いている日が多いです。
ですから、女性の方で、空いている人がいたら、
良かったら、お話してもらえると、凄くありがた
いです。
もちろん下心はありません。女性と話す機会が
無かったので、ゆっくり話してみたいんです。
そんな自分で良かったらメールをください。
必ずお返事します。
よろしくお願いします。
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なお、今まで返信があったことはほとんど無い。
にも関わらず文面を変えない辺り、ダメンズの立派な一員であることに本人は気がついていなかった。一体どこの女が首になりそうな見習い職人などと出会いたいと思うと言うのだろうか?
だから久しぶりの返信にディックは心躍らせながらブースに引っ込む。酒場では二人に邪魔されるからだ。狭いブースに引っ込むといそいそとメールを開く。
そして身体を硬直させた。
メールの差出人の名はシャルロット・ガルドラゴン・ウォルポールとなっていた。その名前はガルドラゴン王国の第三王女の名前であった。
最近唐突に掲示板に現れた王女の名を騙る不埒者であった。正直最初は冗談だと思った。王家の名を騙るなど問答無用で打ち首である。下手したら一家郎党皆殺しでもおかしくない。王国法など知らないが、無知なディックであってもそれが許されぬ重罪だと言う事だけは理解していた。
「お……恐ろしい……」
何が恐ろしいか。
騙りである事も恐ろしいが、それ以上に恐ろしいのは万が一にも本物であったらば……。
ディックは身体を震わせて、知っている限り最大限な丁寧語を心がけてお断りのメールを書いた。深いため息をつきながら。
◆
「なぜなのじゃ!?」
ここは女性専用酒場、通称女神亭である。掲示板前の一等地を占領し、地団駄を踏んで文句を叫んでいるのは、紛う事なきこの国の王女であるシャルロットその人であった。
「どーーーーしてどいつもこいつからもお断りのメールしか返ってこないのじゃ!?」
ばんばんと机を叩きながら銀色の女騎士に食って掛かる。
「そういう事もあるかと……」
「ええい! 他の者にはきちんと返信が返ってきてるおるのじゃ! 理不尽なのじゃ!」
ビシリと指を差した先にいた女が、身をビクリと震わせた後、そそくさと酒場から出て行ってしまう。おそらく待ち合わせ場所にでも向かったのだろう。
「落ち着いてください姫様。掲示板に焦りは禁物とサイゾーも言っておりました」
「サイゾー? ああ、あの黒髪の目つきの悪い男じゃの」
「そうです」
「なるほどなのじゃ」
「ご理解いただけて幸いです」
「つまりサイゾーが全て悪いと言うことなのじゃな!」
「一体何をどう取ったらその様な結論になるのですか!?」
「あの男がこのシステムを作ったのじゃろう? ならば悪いのはその男なのじゃ」
「ですからその男の助言に従って……」
「妾は王女なのじゃ。優遇するのが当たり前なのじゃ。行くのじゃキシリッシュ!」
「ああああああ……」
銀の騎士キシリッシュは頭を抱えてその場にかがみ込んだ。なるほど、前任が胃の病で倒れたという噂は本当だったようだ。これは……想像を絶するお役目に付いてしまったと、自らの胃を押さえた。
すると姫のお付きメイドであるウサギの獣人であるメイア・ピョン・スレジンガーがキシリッシュの横に立ち、同情の視線を向けて彼女の肩を叩いた。どうやら命を掛けなければならない任務のようであった。
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