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第五章【ガルドラゴン王国】
第18話―王都と来訪
しおりを挟むヴァグランツァ・ガルドラゴン・ウォルポール52歳は賢王として民に慕われている。先王の平和主義を引継ぎ、経済に力を入れ、様々な政策は国民の生活を豊かにした。
だから定期の発表会に置いても、国民は最低でも一年に一度は国王のご尊顔を拝見しに行くし、発表会で宣言される新たな政策にも耳を貸す。
毎回行かないのは簡単で、さすがに忙しいという事や、新政策は全て新聞で知る事が出来るようになったという事がある。
もちろん地域ごとにお触れの看板が立てられたりもするので、困る事は無い。
そんな慕われる国王であればこそ、酒場の入口に立った時、客のほとんどは口を半開きにしてその人物を凝視した。
最初は背を向けていて気がつかなかった客達も、周りの反応から異常に気がつき、波が広がるように酒場中が沈黙に包まれた。
ただ一人を除いて。
「――の場合はポイントが掛かるんだが、こっちは……ん?」
掲示板の受付カウンターで新規客に規約を説明していた黒髪の青年、サイゾーが顔を上げた。
「おいおいちゃんと話を聞いてくれ。規約の説明を求めたのはお客様だろ?」
サイゾーが客の視線の先が気になって見ると、貴族然とした立派な男性が立っているのを確認した。
次の瞬間、その男性に一番近くにいた客が慌てて床に身を伏せると、釣られるように酒場中の客が土下座や片膝を付き、頭を伏せたのだ。
「え、何これ?」
サイゾーは何度も瞬きして酒場を見渡すが、信じられない事にエルフのディーナまでが片膝を付いているのだ。半ばパニックに陥っていると、先頭の貴族らしき男性が酒場に一歩踏み込んできた。
「ここにサイゾーという男はいるか?」
ざわりと酒場が揺らぐ。皆が伏せながらもサイゾーに視線を向けた。
「サイゾーは俺だが……」
サイゾーは後ろ頭を搔きながら、カウンターで立ち上がった。
「少し話がしたい」
「話? 入会か?」
「入会というのは出会い掲示板というものか?」
「ああ。って違うのかよ」
「掲示板に関係のある話だが、入会では無い」
「なるほど……」
サイゾーは少し考える。酒場の客達は滝のような汗を流しながら推移を見守った。
「わかった。今は入会の手続き待ちが三人いるからそれが終わるまで待っててくれ」
再び酒場中がざわついた。
「ちょっ! サイゾー!」
いつの間にかサイゾーの側まで移動してきたのはディーナだった。頭を上げずに器用なもんだななどとサイゾーはトンチンカンな事を考えていた。
「あのお方は! ヴァグランツァ・ガルドラゴン・ウォルポール陛下! この国の国王陛下なのよ!」
「あーやっぱり」
サイゾーは再度頭を搔いた。
「気がついてたの!?」
「そりゃあな。後ろにシャルロットも見えたしな」
「いつから!?」
「ディーナが慌ててこっちににじり寄ってきただろ、それ見て確信した」
「だったら……!」
サイゾーはヴァグランツァ国王に視線を戻した。
「国王陛下。この話っていうのは王国法による強制力があるものですかね? それとも任意?」
国王の近衛が失礼な口調に剣に手を掛けるが、国王はそれを片手で制した。
「もちろん任意だ」
「なら、順番待ちで構わないっすよね?」
「……そう、だな」
「父上!? おかしいのじゃ! 妾達は王族なのじゃ! 優先されるのが当たり前なのじゃ!」
シャルロットはそれに腹が立ったので国王まで連れてきたというのに、同じ状況で了承してしまった父親にひっくり返るほど驚いた。
「ふ……」
ヴァグランツァ国王が口から空気を漏らした。
「ふはははは! サイゾー! 貴殿は聞いていた通りの人物のようだ! なおさら話を聞きたくなった! 用事が終わるまで待つ故、その後時間をいただこう」
「そうしてもらえると助かるっすね」
あっけらかんと答えると、再びカウンターに着座する。
「待たせたな。説明の続きだけど――」
「い! いや! 後で! 後でいいから! また後日来るから!」
新規客は待っていた全ての人間が入会を辞退した。サイゾーは天を仰いだ。
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