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球技大会-取引
第16話 心はある!
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結局希美代はいつものように委員長の言葉を遮って一気にまくし立てる。そして自信に満ちた笑顔でうんざりした表情の委員長らを睥睨した。
大会運営委員長はようやく新たな反論の機会を得、言葉を選んで希美代に言い聞かせるように説明をしはじめた。
「いや、ですからそういった事を問題としているのではありません。もっと根本的な問題です。いいですか? 矢木澤さんを競技に参加させるという事は、野球の試合で、ピッチングマシーンを投手としてメンバー入りさせるようなものなのですよ。能力や感情の問題ではありません。ピッチングマシーンはいくら高校生クラスの投球しか出来なくても、もしホログラム投映で人間らしく見せても、いくら豊かな感情を持っていても、ピッチングマシーンのままです。人間になる事は絶対に――」
だが結局希美代に割り込まれてしまう。だが、今回の口調はさっきまでとは些か違った。
「なら最初からそういえばいいじゃないの。アンドロイドは機械だから参加させられません、って。大体競技参加者規定要綱に記載がなかったわ」
つま先でかつかつと床を叩き、強い苛立ちを露わにする希美代。委員長の言動にからかわれているような腹立ちを感じていた。
「問題点の1つとして能力について持ち出しただけです。そう言えば引き下がると思ったので。とにかく、人間と機械の間には厳然とした線引きがあります。これはわざわざ要綱に盛り込むまでもない大前提なのです」
委員長の理にかなった言葉を聞けば聞くほどシリルの心には鉛のような錘が圧し掛かってくる。2人共シリルを俎上にあげ、機械だ機械だと言うものだから、自分にいくら心があっても本質的なところでは人間ではない、機械に過ぎないのだ、という認識がシリルを改めて責め苛む。この場から逃げ出したくなって来る。隣に立っている伊緒が気遣わし気な視線を送ってくるが、悲し気な硬い表情で頷くくらいしかできなかった。
圧倒的な劣勢になった希美代に対し、委員長は一気に畳みかけようとした。
「言うなれば、いかに人間と同じように行動し、人間と同じ能力を持ち、人間と同じ外見を持ち、人間と同じように思考し、人間と同じ人格感情のプログラムを持っていたとしても、所詮心すら持たな――」
「あるのっ!」
突然紀美代が大声で叫ぶ。まるで何の予兆もなく雷が落ちたかのようだ。
その余りの剣幕に委員会室全体が一瞬静まり返る。周りの長机で事務作業をしていた生徒たちも驚いて希美代の方を見る。伊緒もシリルも目を丸くして息を呑んだ。なぜ彼女はそこまで確信的にアンドロイドに心があると言えるのだろう。そしてなぜアンドロイドの心についてここまで固執するのだろう。2人にはそれが良く分からなかった。
「アンドロイドにだって心はあるの! あんた達みたいな人にはそれが分らないだけ!」
委員長と取り巻きたちはすっかり紀美代の剣幕に押されてしまった。
「そんな論理的でも科学的でもない事――」
すごい勢いで委員長のデスクに身を乗り出し、大きな音を立てて両手のひらを叩きつける希美代。このまま委員長を噛み殺すことだってできそうだ。
「論理も科学もへったくれもないっ! 本当にあるの! あるんだからっ!」
「ひゃっ!」
恐ろしくなって奇妙な声をあげてしまった委員長。周りにあった書類がばさばさと落下する。その顔に激しい怒りの色すら見せ興奮する彼女に、伊緒やシリルを含めこの部屋の生徒全てがすっかり気圧されている。
「め、滅茶苦茶な事を言わないで下さい。そもそも心の有無なんて今は関係ないでしょう。だいだいその根拠はどこにあるって言うんですか…… えっ、え、えーと、エ、エビデンス(※)があるとでも言うんですか」
「……」
デスクに手を突いたまま、歯噛みをして希美代は委員長を睨む。
伊緒とシリルに緊張が走る。もしここで希美代が心を持つアンドロイドの実例としてシリルを差し出したら。
デスク上に置かれていた希美代の右手がゆっくり机を離れ、腰の辺りで固くこぶしを握る。その手はシリルを指差そうとしていた。
「……ないわ」
悔しさで真っ赤な顔でそう吐き捨てた希美代。テーブルに突いていたもう片方の手もテーブルから離し身を起こす。伊緒とシリルは心の中でほっと胸をなで下ろした。
「もういいです」
希美代は身をひるがえし小走りで委員会室から退出する。
そんな希美代を眼で追っていた伊緒は、ふとある事に気付いた。
「ほんとお嬢さまって我がままだよなあ」
「めんどくせー」
「びびったー」
「やる事いっぱいあるんだしさあ…」
ぶつぶつ文句を垂れ流す委員たちに言う事もする事もない伊緒とシリルは、希美代を追ってそそくさと退室した。
▼用語
※エビデンス:
中英語“evidence(ev‧i‧dence)”を語源とする単語。主張を裏付けるために提示された事実または観察を意味し、「証拠」「証言」「(科学的)根拠」「裏付け」「形跡」「確率的な情報」とと言った言葉として用いられる。
大会運営委員長はようやく新たな反論の機会を得、言葉を選んで希美代に言い聞かせるように説明をしはじめた。
「いや、ですからそういった事を問題としているのではありません。もっと根本的な問題です。いいですか? 矢木澤さんを競技に参加させるという事は、野球の試合で、ピッチングマシーンを投手としてメンバー入りさせるようなものなのですよ。能力や感情の問題ではありません。ピッチングマシーンはいくら高校生クラスの投球しか出来なくても、もしホログラム投映で人間らしく見せても、いくら豊かな感情を持っていても、ピッチングマシーンのままです。人間になる事は絶対に――」
だが結局希美代に割り込まれてしまう。だが、今回の口調はさっきまでとは些か違った。
「なら最初からそういえばいいじゃないの。アンドロイドは機械だから参加させられません、って。大体競技参加者規定要綱に記載がなかったわ」
つま先でかつかつと床を叩き、強い苛立ちを露わにする希美代。委員長の言動にからかわれているような腹立ちを感じていた。
「問題点の1つとして能力について持ち出しただけです。そう言えば引き下がると思ったので。とにかく、人間と機械の間には厳然とした線引きがあります。これはわざわざ要綱に盛り込むまでもない大前提なのです」
委員長の理にかなった言葉を聞けば聞くほどシリルの心には鉛のような錘が圧し掛かってくる。2人共シリルを俎上にあげ、機械だ機械だと言うものだから、自分にいくら心があっても本質的なところでは人間ではない、機械に過ぎないのだ、という認識がシリルを改めて責め苛む。この場から逃げ出したくなって来る。隣に立っている伊緒が気遣わし気な視線を送ってくるが、悲し気な硬い表情で頷くくらいしかできなかった。
圧倒的な劣勢になった希美代に対し、委員長は一気に畳みかけようとした。
「言うなれば、いかに人間と同じように行動し、人間と同じ能力を持ち、人間と同じ外見を持ち、人間と同じように思考し、人間と同じ人格感情のプログラムを持っていたとしても、所詮心すら持たな――」
「あるのっ!」
突然紀美代が大声で叫ぶ。まるで何の予兆もなく雷が落ちたかのようだ。
その余りの剣幕に委員会室全体が一瞬静まり返る。周りの長机で事務作業をしていた生徒たちも驚いて希美代の方を見る。伊緒もシリルも目を丸くして息を呑んだ。なぜ彼女はそこまで確信的にアンドロイドに心があると言えるのだろう。そしてなぜアンドロイドの心についてここまで固執するのだろう。2人にはそれが良く分からなかった。
「アンドロイドにだって心はあるの! あんた達みたいな人にはそれが分らないだけ!」
委員長と取り巻きたちはすっかり紀美代の剣幕に押されてしまった。
「そんな論理的でも科学的でもない事――」
すごい勢いで委員長のデスクに身を乗り出し、大きな音を立てて両手のひらを叩きつける希美代。このまま委員長を噛み殺すことだってできそうだ。
「論理も科学もへったくれもないっ! 本当にあるの! あるんだからっ!」
「ひゃっ!」
恐ろしくなって奇妙な声をあげてしまった委員長。周りにあった書類がばさばさと落下する。その顔に激しい怒りの色すら見せ興奮する彼女に、伊緒やシリルを含めこの部屋の生徒全てがすっかり気圧されている。
「め、滅茶苦茶な事を言わないで下さい。そもそも心の有無なんて今は関係ないでしょう。だいだいその根拠はどこにあるって言うんですか…… えっ、え、えーと、エ、エビデンス(※)があるとでも言うんですか」
「……」
デスクに手を突いたまま、歯噛みをして希美代は委員長を睨む。
伊緒とシリルに緊張が走る。もしここで希美代が心を持つアンドロイドの実例としてシリルを差し出したら。
デスク上に置かれていた希美代の右手がゆっくり机を離れ、腰の辺りで固くこぶしを握る。その手はシリルを指差そうとしていた。
「……ないわ」
悔しさで真っ赤な顔でそう吐き捨てた希美代。テーブルに突いていたもう片方の手もテーブルから離し身を起こす。伊緒とシリルは心の中でほっと胸をなで下ろした。
「もういいです」
希美代は身をひるがえし小走りで委員会室から退出する。
そんな希美代を眼で追っていた伊緒は、ふとある事に気付いた。
「ほんとお嬢さまって我がままだよなあ」
「めんどくせー」
「びびったー」
「やる事いっぱいあるんだしさあ…」
ぶつぶつ文句を垂れ流す委員たちに言う事もする事もない伊緒とシリルは、希美代を追ってそそくさと退室した。
▼用語
※エビデンス:
中英語“evidence(ev‧i‧dence)”を語源とする単語。主張を裏付けるために提示された事実または観察を意味し、「証拠」「証言」「(科学的)根拠」「裏付け」「形跡」「確率的な情報」とと言った言葉として用いられる。
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