偽りの星灯火(ほしともしび)

永倉圭夏

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破れ鍋に綴じ蓋な二人

第69話 思い出話

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 五十畑と宮木は二人で技術提携先との打ち合わせにその足で直接出向いていた。九時に始まった打ち合わせは結局十八時過ぎに終了。徒労感に満ち溢れた内容で二人の気持ちも沈みがちだった。重い足を引きずって先方のビルを出たところでの帰社予測は二十時前。規定では二人はこのまま直帰するほかない。それを知ると急にうきうきしはじめた宮木が呑みたがっているのは間違いなく、五十畑としては憂鬱であった。仕事で妙な疲れ方をした夜に酔漢を介抱するなど想像しただけでうんざりする。

 ビルの谷間にぽつんとある狭い乗り合い所で車を待っていると、到着予定時間ちょうどに、滑るようにして自動運行車が到着する。後部座席に二人で座る。疲れた表情で各々自宅までの経路を入力する。

 宮木は呑気にタブレットでSNSでも眺めている様だが、仕事熱心な五十畑は会社にデータを転送するためノートPCを操作していた。

 疲れた。本当に疲れた。身体にも心にも疲労がずっしりと圧し掛かってきている。憩いたかった。何でもいい、誰にでもいい、身も心も休めたかった。
 少し車酔いがして車外に目をやる。信号待ちをしている車の左手に、高いフェンスに囲まれた学校らしい施設が目にとまった。この時間なのに大勢の生徒たちがいるようだ。

 フェンスの向こう側の校庭に目を凝らすと、鉄パイプを組んだ上に白い帆布が被せられたテントがずらりと並び、そこでは夜店に見立てた小さな模擬店がいくつも設営されていた。

 金魚すくい、スーパーボールすくい、水風船釣り、駄菓子屋、あんず飴、輪投げ、チョコバナナ、ポップコーン、手作りストラップ、ホットドック、べっこう飴、たこせん、チュロス、型抜き、琥珀糖といった簡素なものばかりだ。

 テントには暖色系に輝くCLEDの灯火が連り穏やかな風に揺られている。暗がりの増す夕刻、オレンジ色の灯りに照らされたテントの数々は、賑やかで騒々しい秋祭りの夜市そのもののように見える。
 五十畑は車のウィンドウを半分ほど開ける。思った通り少し涼しい夜気とともに子供たちの歓声や大小様々の楽し気な話し声が重なり合う賑やかな騒めきが静かな車内に流れ込んでくる。懐かしい賑わいだ。

「へえ、今はこの時期に学祭やるんだ」

 五十畑の右手にいる宮木も学校に気付き明るい声を上げる。それにつられてふと笑顔が漏れる五十畑。

「懐かしいね。高校の頃を思い出す」

 五十畑はつい反射的に高校の頃の話を振ってしまい少し後悔する。
 一方で宮木の方は特にそんな記憶はないかのように素知らぬ顔で話を続ける。

「中学でもやったよ、学祭。二人でコスプレ喫茶やらされたじゃん」

「ああ、コスプレね。コスプレ…… くすっ、ふっ、ふふっ…… ふふふっ! あはははっ! 宮木の、宮木のチャイナドレス! やめて思い出しちゃうじゃない、あのふて腐れた顔! あはははっ! げほげほ」

 五十畑も宮木のチャイナドレス姿は記憶の中に鮮明に残っていたようだ。が、笑うにしてもほどがある、自分では内心ちょっとは可愛いと思ってたのに、と宮木が思うくらい五十畑は笑い転げた。

「ああ、や、やっぱり中学の頃は思い出さなくていいや。高校の頃で」

「クスクス……」

 あまりにも笑われて少しへこむ宮木。しかしまあ五十畑がこうして笑って喜んでくれたんだから、あの時ふて腐れ顔になった甲斐もあったのかも知れないな、と懐かしく思う。

「高校の時は一年が自由研究発表であれはつまんなかったな。で二年が……」

 宮木はとにかくチャイナドレスから話を逸らしたくて深く考えずに高校時代の学祭の話を振ってしまった。しかし実のところ宮木にとっても高校時代の話、特に学祭の話には触れられたくはなかった。それでも避けたい話題を慎重に回避すれば大丈夫だろう。

「迷路。宮木のクラスはね。私のクラスは、確かチョコバナナだったんじゃないかな。さっきの学校でも模擬店あった。」

 宮木のクラスは迷路の壁として積み上げたストーンボードの箱が崩れそうになって大騒ぎになった。一方五十畑のクラスでは売れ残ったチョコバナナを校外で販売しようとして教師とひと悶着あった。思い出してみればみんな懐かしく楽しい思い出ばかりだった。

「ああ、よく覚えてるなあ。」

 宮木は崩れかけたストーンボードを懸命に支えていた自分を思い出して小さく笑う。五十畑も隣で微笑んでいるに違いない。

「記憶力が高くないといい仕事ができませんから」

「ち」

 五十畑は微笑みながら皮肉は忘れない。

「三年だと受験前だからって何もできなかったっけ」

 何事もなかったように話す五十畑が宮木には意外だった。五十畑の方から高三の学祭の話をするとは宮木には思いもよらなかった。内心驚きながら素知らぬ顔で話を続ける。別にこんな話で面倒ごとになるわけでもないだろう。

 だがこの時からどうしてもあることが頭から離れず宮木の胸をちくちくと刺し始める。

 街の灯りはすっかり灯され、夕刻は終わり夜時間が遅滞なく定刻通りに始まろうとしている。
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