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破れ鍋に綴じ蓋な二人
第71話 心の権利
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わかってはいても宮木はむしろその先に行ってみたい気持ちが止まらなかった。
「……ん、わかった、彩希」
軽く頭を振って微笑み、思ったよりあっさりと応える五十畑。この瞬間、二人共もう元同級生の上司と部下ではなくなったと感じた。
「うわ、なんか…… すごい嬉しい ……何年振り?」
宮木彩希は体を起こしシートにもたれて身体を五十畑由花の方に向け何故か小声で話す。少し感動もしているようだ。その表情には楽しいという以外の感情も表れている。
「高三の時以来ね。十二年ぶり」
高三のあの日、文化祭で由花に呼びされた彩希は何故かすっぽかされてしまった。それ以来二人は気まずくなり、学園祭の翌日から互いを姓で呼ぶようになっていた。
五十畑もシートに身体を預け宮木の方に少し身体を向け、これまでとは違う笑顔をほころばせていた。Revelation社内では決して見せることのなかった十二年ぶりの笑顔。
「長いなあ」
「長いね」
ふっと二人とも相手ではないどこかに視線を彷徨わせる。
「ねえ由花」
「何? 彩希」
二人とも今までとは全く違う声で互いを呼び合う。
「またこうして色々話とかしたい」
宮木は身体をシートに預け直し、両手を頭の後ろに組んで車の天井を見ている。その眼は少し真剣そうだ。後ろめたさはあるものの今は自分の心の内のことしか頭にない。
「だからこれから『かぐら』行くんじゃない」
不思議そうな顔をして宮木を見る五十畑。中学高校時代と同じで全く警戒心のない目。
「いや、そうじゃなくて… そうじゃなくてさ」
いい澱む。宮木はこれ以上踏み込んで話すといかがわしくなってしまいそうで上手く説明できない。実際宮木は多少いかがわしいことすら脳裏にあった。
「……まだ小さな子供がいるのに女遊び?」
はたと大人の警戒心を取り戻し、宮木から目を離してシートに真っ直ぐ座り直す五十畑。厳しい表情で車の進行方向正面を凝視する。
「あっ、いや、そう言うのじゃなくて、さ……」
「じゃどう言うの? 奥さんと別れてまだひと月も経ってないじゃないあんた。倫理的にどうなのかしら。離婚した途端にすぐ女を引き込もうとするなんてふしだらだと思わない?」
「ぐ……」
痛い所を突かれ慌てふためく宮木はしどろもどろに言い訳とも誤魔化しともつかぬ言葉を発するが、五十畑に畳みかけられ言葉をなくす。
が、その後を続く五十畑の言葉は意外なものだった
「いいわ」
「え?」
向こうを向いたままの五十畑の表情は和らいでいた。面を下げ少し困惑した微笑を浮かべる。
「付き合ったげる。その……だから色々、話とか。時々」
「だって由花今子供とかその、り倫理とかふしだらとか……」
五十畑の困ったような照れくさそうな表情や言葉を聞いてかえって動揺しあたふたする宮木。自分のしようとした事の重さに遅ればせながら気づき、少しばかり理性が働いたようだ。
一方で五十畑は腹を決めた様子で宮木に照れ笑いを見せ、冗談が口を突いて出る。
「なんかね。私もバグっちゃったみたい。きっとWraithに汚染されちゃったのね。ふふふっ」
「ははっ」
「私たちも脳機能の交換をされちゃうかもね。くすっ……」
「そんなことないって」
「そう? どうして?」
「由花の心は由花だけのもの。Wraithがあろうが何だろうがそんなの関係ない。誰のものでもない由花自身のものなんだから、他人にどうこうする権利なんてありやしない。誰にも廃棄も交換もできないしさせたりなんかしない。そんな事する奴が出てきたらみんなあたしが止めてやる」
宮木、いや彩希の熱の入った弁にきょとんとした表情になる由花。
「あたしだってそう。バグってようがWraithが湧いてようがあたしの心はこのあたしのもの。あたし自身のもの。たとえバグって間違ったことをしちゃってもそれは全部あたし自身の決めたことなんだから。Wraithに汚染されていようがどうしようが自分の心に従って生きただけ。もちろんあたし自身が間違いを犯したら、その分全部自分で責任を取らなきゃいけないけれどね」
最後はちょっとふざけた顔になる。もしかするとニヒルな役者の真似をしたつもりだったのかもしれない。
「でも由花がヘマしちゃったら、そん時ゃちっとばかしなら責任を被るのを手伝ってやってもいいぜ」
クスクスと笑った五十畑の口調は宮木をからかうような色合いになる。
「なに?どうしたの急にそんなこと言って。また『ルイス&ニック』の真似?」
五十畑の反応にちょっと拍子抜けする宮木。
「うん、そうかな」
「じゃあ、少しは頼りにしようかな。でも仕事と酒席じゃ無理そうだけど」
「……ん、わかった、彩希」
軽く頭を振って微笑み、思ったよりあっさりと応える五十畑。この瞬間、二人共もう元同級生の上司と部下ではなくなったと感じた。
「うわ、なんか…… すごい嬉しい ……何年振り?」
宮木彩希は体を起こしシートにもたれて身体を五十畑由花の方に向け何故か小声で話す。少し感動もしているようだ。その表情には楽しいという以外の感情も表れている。
「高三の時以来ね。十二年ぶり」
高三のあの日、文化祭で由花に呼びされた彩希は何故かすっぽかされてしまった。それ以来二人は気まずくなり、学園祭の翌日から互いを姓で呼ぶようになっていた。
五十畑もシートに身体を預け宮木の方に少し身体を向け、これまでとは違う笑顔をほころばせていた。Revelation社内では決して見せることのなかった十二年ぶりの笑顔。
「長いなあ」
「長いね」
ふっと二人とも相手ではないどこかに視線を彷徨わせる。
「ねえ由花」
「何? 彩希」
二人とも今までとは全く違う声で互いを呼び合う。
「またこうして色々話とかしたい」
宮木は身体をシートに預け直し、両手を頭の後ろに組んで車の天井を見ている。その眼は少し真剣そうだ。後ろめたさはあるものの今は自分の心の内のことしか頭にない。
「だからこれから『かぐら』行くんじゃない」
不思議そうな顔をして宮木を見る五十畑。中学高校時代と同じで全く警戒心のない目。
「いや、そうじゃなくて… そうじゃなくてさ」
いい澱む。宮木はこれ以上踏み込んで話すといかがわしくなってしまいそうで上手く説明できない。実際宮木は多少いかがわしいことすら脳裏にあった。
「……まだ小さな子供がいるのに女遊び?」
はたと大人の警戒心を取り戻し、宮木から目を離してシートに真っ直ぐ座り直す五十畑。厳しい表情で車の進行方向正面を凝視する。
「あっ、いや、そう言うのじゃなくて、さ……」
「じゃどう言うの? 奥さんと別れてまだひと月も経ってないじゃないあんた。倫理的にどうなのかしら。離婚した途端にすぐ女を引き込もうとするなんてふしだらだと思わない?」
「ぐ……」
痛い所を突かれ慌てふためく宮木はしどろもどろに言い訳とも誤魔化しともつかぬ言葉を発するが、五十畑に畳みかけられ言葉をなくす。
が、その後を続く五十畑の言葉は意外なものだった
「いいわ」
「え?」
向こうを向いたままの五十畑の表情は和らいでいた。面を下げ少し困惑した微笑を浮かべる。
「付き合ったげる。その……だから色々、話とか。時々」
「だって由花今子供とかその、り倫理とかふしだらとか……」
五十畑の困ったような照れくさそうな表情や言葉を聞いてかえって動揺しあたふたする宮木。自分のしようとした事の重さに遅ればせながら気づき、少しばかり理性が働いたようだ。
一方で五十畑は腹を決めた様子で宮木に照れ笑いを見せ、冗談が口を突いて出る。
「なんかね。私もバグっちゃったみたい。きっとWraithに汚染されちゃったのね。ふふふっ」
「ははっ」
「私たちも脳機能の交換をされちゃうかもね。くすっ……」
「そんなことないって」
「そう? どうして?」
「由花の心は由花だけのもの。Wraithがあろうが何だろうがそんなの関係ない。誰のものでもない由花自身のものなんだから、他人にどうこうする権利なんてありやしない。誰にも廃棄も交換もできないしさせたりなんかしない。そんな事する奴が出てきたらみんなあたしが止めてやる」
宮木、いや彩希の熱の入った弁にきょとんとした表情になる由花。
「あたしだってそう。バグってようがWraithが湧いてようがあたしの心はこのあたしのもの。あたし自身のもの。たとえバグって間違ったことをしちゃってもそれは全部あたし自身の決めたことなんだから。Wraithに汚染されていようがどうしようが自分の心に従って生きただけ。もちろんあたし自身が間違いを犯したら、その分全部自分で責任を取らなきゃいけないけれどね」
最後はちょっとふざけた顔になる。もしかするとニヒルな役者の真似をしたつもりだったのかもしれない。
「でも由花がヘマしちゃったら、そん時ゃちっとばかしなら責任を被るのを手伝ってやってもいいぜ」
クスクスと笑った五十畑の口調は宮木をからかうような色合いになる。
「なに?どうしたの急にそんなこと言って。また『ルイス&ニック』の真似?」
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