偽りの星灯火(ほしともしび)

永倉圭夏

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エピローグ1.テロル

第三話 本当の顔

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 結局この爆破未遂事件は、マスコミ各社を一日だけ賑わすと、それきりみんな忘れ去ってしまった。「絵」にならないと判断されたのだろう。

 それからまた二週間ほどが経っていた。今回は珍しく五十畑の方から宮木に連絡を取り、こうしてかぐらのいつもの席で二人並んで飲んでいる。ここ一ヶ月の間に、二人の距離がほんの少し近くなったようにも見えるが、板さんはそのことはおくびにも出さずに河豚ふぐの一夜干しを焼いている。

「あああ、ひどいよなあ。こんなんじゃ飲み代にもなりゃしない」

 今回の爆破未遂事件で、会社から渡された賞金は僅かで宮木の落胆ぶりはひどいものだった。その精神的ダメージは日常の勤務にも支障が出かねない程だった。
 その様子を見てついにやけてしまう五十畑。

「そんなもの初めからなかったと思えはいいのよ。欲をかくから損した気になるの。期待し過ぎ」

「ああああ、せめて五万くらい出るかと思ったのになあ。あ、ねえあたしにもそれ、フグの一夜干しちょうだい」

「はいよ」

「でも実際は五千円だったの。ね、五千円。十分の一。現実を見なさい。わたしもそれいいかしら」

「あいよ」

「本社ビルの上半分が吹っ飛んじゃうような爆弾だったのにさあ」

 白木のカウンターに突っ伏して駄々っ子のように身をよじる宮木。

「上層十階でしょ。あなた自分で言ってたじゃない。盛らないの」

「せめて由花上席がおごってくれたらなああ」

「バカ何言ってんの。私だって五千円だったんだからね。甘えないの」

「でも普通上司っておごってくれるものじゃん。ねぇ、たまにはおごって下さいよお由花Cdfぅ」

 突っ伏したまま脚をじたばたして子供のように駄々をこねる宮木。

「いちいちあんたにおごってたらね、いくらお給料高くても破産しちゃうから。自分のお財布で飲みなさい。それに――」

「それに?」

「ああ、なんでもないなんでも」

「言いかけたら、責任もって全部言いなさい、って中学んとき『ティーチャー田川』に言われてたでしょ。ねっ。はい、全部嘔吐●ロして」

「飲食店で嘔吐とか言うなっ!」

 得意の平手で宮木の背中を殴打しようとした五十畑だが、眼鏡越しにじいっと五十畑を見つめる宮木の瞳に何となくその手を下ろす。少しどぎまぎしてしまう。

「……」

 五十畑は珍しく口ごもる。困った。ますます言い出しにくくなった。

「……えっ、いやっ、えっと……」

 無言で五十畑を見つめるままだ。まるで目を開けたまま寝てしまったかのように。

「……」

「やだこっちにらまないでよ……」

「睨んでるんじゃないよ。熱い視線を送ってるの」

「そんな事しなくていいから」

 やっとのことで宮木から視線を逸らし焼酎の水割りを口にする五十畑。少し耳が赤いかも知れない。

「うん…… で?」

 宮木の追及の手、いや目はやまない。じいっと五十畑の滑らかな横顔に突き刺さる様な視線を送っている。

「えっと、だから、その、別に社の上司としておごらないよってだけ」

 五十畑としては可能な限り素っ気なく言い放った。

「えー、なんでー」

「だから、別に、その…… 別に部下と飲みに来てるわけじゃない、から、さ」

「じゃあ誰と飲みに来てるの? 今、由花は」

「ねーっ! ちょっとあんた調子乗り過ぎだからっ! あとなんだか若干いかがわしくない?!」

「あー! ごめんなさいごめんなさい! もうしません! いかがわしいのも自粛します!」

「なんか、心境の変化?」

「何が?」

「いや、由花の方から声かけるっつうか、誘うっつうか?」

「また、そう言って誘うとか、いかがわしい……」

「え、あはは―― ま、飲めればいいんだけどね、あたしは――」

「うん」

「あたしは好きな人と飲めれば」

「ぶっ!」

「ううわ、ほんとに吹いちゃったよ。あ、ちょっとすいませーんおしぼり下さーい。ああもうほらスーツまで」

「げほげほっ、あっ、ちょっとやめてよ! どさくさにどこ触ってんの! あっ! もう! やらしい! げほっ」

「してないしてない、そんなセクハラしないってば」

「してるしてる! もうホントに何なのよあんた!」

「何って……? え、普通に宮木彩希、Revelationレヴェレイション社のLdvで、五十畑は宮木が好き、な宮木、だよ?」

「最後のとこいらないから」

「えっ、そぉれは傷つくなあ……」

「あんた…… こないだ統合安全保障局の保安実動隊って……どうしてそんなこと言いおおせたの?」

「え? ああ、うん。吹かしてみたんだけどね。あれ結構効いたでしょ。絶対ビビったと思うんだ」

「どうだか」

 その直後宮木は男から組みつかれた事を思い出していた。今思い出してもぞっとする。

「ん?」

 ぞっとしたのは寒かったからではない、ここしばらく五十畑の中に凝り固まっていた不安感が五十畑の身体を硬直させていた。両肘を抱くようにして少し宮木の方を向く。

「あんたのほんとはどっちなの」

「あ?」

 お猪口を持って不思議そうな顔をしてとぼけた声が宮木の口を吐いて出る。

Revelationレヴェレイション社社員の宮木Ldvなの、それとも統合安全保障局実動保安隊の宮木隊員なの?」

 宮木がふっと鼻で笑ったような気がした。
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