偽りの星灯火(ほしともしび)

永倉圭夏

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エピローグ2.落陽

第十七話 由花とシリル

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 シリルはそんな由花にどのようにして反応すればいいのか分からなかった。沈黙を通すしかなかった。

 そんなシリルの思いなどつゆ知らず、由花は目を閉じ、グアテマラを味わい薫りを楽しみながら思う。心とは、由花自身がかつて彩希に言った「良き心」とは、こういった味や薫りのようなものなのかもしれない。
 そう思うと由花は少しシリルに対し心穏やかなものを感じた。もしも、本当にもしもの話だけれど、あのアンドロイドに「良き心」があるのだとしたら、もういいのかもしれない。自分一人、形や仕組みにこだわるのは。
 これまでの自分のこの感情はそれこそ自分自身に「良き心」が欠けていたからなのではないか。だからもうよすべきなのかも知れない。あの頃のままでいるのは。

 結局由花もシリルもお互いに声も視線も交わさなかったが、懐かしい話を交えながら五人の時は穏やかに過ぎていった。

「ああ、いけないもうこんな時間だ」

 はっとして彩希が腕時計を見る。

「あれ、もう帰っちゃうの?」

 伊緒いおがつまらなさそうな顔をした。

「よかったらうちで夕ご飯でもいかがですか?」

 意外なことにシリルも少し残念そうに見える。

「手品見たい」

 マイアも彩希を凝視する。

 だが、伊緒たちが頼み込んでも彩希の意思は固いようだ。それにシリルは問題ないとしても、伊緒にはさすがに疲労の色が見て取れた。

 シリルに少しは心を許してもいいかと思っていた由花としても、やはり長い時間を共にするのは気づまりがするので、ほっとしたのが本音である。


 表に出ると雨はすっかり止んでしまっていて、彩希が由花を呼びつけた意味はなくなってしまっていた。それに少し苛立ちの表情が隠せない由花は何かを彩希に言おうとしたが、その彩希に機先を制される。

「まあまあ」

「なにがまあまあよ……」

 彩希がなだめても苛立ちの表情が隠せない。高校の頃もそうやって彩希はよく由花を苛立たせたものだった。

 彩希は相変わらず飄々ひょうひょうと伊緒たちに声をかける。

「じゃ、今度こそ本当にこれで。あとはゆっくり休んでね」

「今回はすごく助かったよ」

「本当にありがとうございました」

 彩希にお礼を述べた後、伊緒は由花の方を向いた。

「久しぶりに由花に会えて嬉しかった。また彩希と遊びに来てね」

「そうね ……また機会があったら」

 由花は複雑な笑顔を浮かべながら頷く。

 そして伊緒に何かを言おうとして口を開いたが、一瞬何かをためらい、初めてシリルの方を向く。

「あの…… また」

 強張った表情でシリルの目を見ずにそう一言だけ伝えると、シリルは笑顔を浮かべ

「ええ、またどうぞおいで下さい。マイアも待ってますから」

 と答える。だがこれも「心」からの言葉ではなく、感情プログラムに則ったテンプレートな反応なのではないか、とやはり考える由花であった。

 シリルの後ろにいるマイアが由花を見上げる。

「また来てくださいね、お姉さん」

「おねっ!」

 彩希が絶句する。目を丸くして由花とマイアを交互に見る。

「ぷっ」

「くすっ」

 ショックを隠し切れない彩希と、笑いを堪え切れない伊緒とシリル。そんな三人を不思議そうに眺める由花だった。
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