23 / 85
第23話 罪
しおりを挟む
僕はそれには返答できなかった。姉弟でなければあんなに密な日常は送れなかっただろうし、むしろ姉弟だったからこそ僕たちはこんなにも引き寄せ合ってしまったのかも知れない。
食後は腹ごなしに俯き加減の姉と付近を散策したり、そのあとは僕の脚に姉が頭を乗せて膝枕をしながらぽつりぽつりと昔話をしたりと、まったり過ごす。その間、僕たちはずっと当たり前のように恋人繋ぎをしたり腕を組み身体を密着させて過ごした。改めて思うのはこうしていると誰といる時よりも心が安らぐ。彩寧といる時よりも、だ。僕ももう完全に駄目な弟になってしまったんだなと、面には出さずうんざりしていた。だが同時にわき上がるこの甘やかな感情はなんだ。
こんなんで僕は姉と「適切な距離」をとることができるのか。僕には甚だ自信がなかった。そう思うと激しい憂うつ感に襲われる。離れたくない。いっときも姉さんから離れたくない。一ミリだって離れたくない。この気持ちが、僕のこの想いが過ちだと、罪だというのなら僕は一体なんのために生を得てここに存在しているのだろうか。そんなものありはしないが、もし神なんてものがあるのだとしたら、僕らはなぜこのような境遇に落とされたのか。僕は憎む。心の底から神を憎む。
このあとバーに言った僕たちはくっつき合って静かに思い出話をした。少しは姉の表情も明るくなったようで僕も胸をなで下ろす。結局今夜の姉は四合を空けたうえ六本の缶ビールにカクテル四杯を飲み干していた。
「さ、もう寝ようか」
僕が浴衣に着替えて棒立ちしている姉の手を取ると、うなだれた姉は静かに頷いた。
「布団、どっちがいい?」
手を握ったまままるで修学旅行や林間学校の子供たちのようなノリで姉に声をかけた。姉はすっかり元気をなくした声で答える。
「あなたと同じとこ……」
またか。
が、当然想定内だった。僕は自分から先に布団に入り姉を手招きする。すると姉も無言でするりと布団の中に入って僕の浴衣の衿にしがみ付いてくる。
「普通の姉弟はこんなことしないの。判るよね」
姉の頭をそっと抱きかかえそう言うと、姉は頭を僅かに横に振った。僕たちはお互いの息がかかる布団の中で身体を密着させながら寝た。姉の浴衣の下は大部分がはだけていたが、きっと判ってやっていたんだろう。ふと見ると肩も広くはだけていた。僕はこれを材木町のよ市で買った泥付きニンジンだと思って無事事なきを得た。しかし、姉の身体から漂う甘い香りが終始僕の鼻腔をくすぐり僕の心をかき乱していた。
僕はふとあの日のことを思い出す。
「最初にこんな風に抱きあったのはいつだっけ」
「わかんない」
姉はぶっきらぼうともいえる態度で答える。
「ホオズキ市。僕が中二、まだ十三の時」
その時姉は十六。姉が「あ」と小さな声をあげる。
「そ、姉さんの髪にお面の輪ゴムが絡まったのを直したの、憶えてる?」
姉は小さく頷く。
「それを彩寧に見られて。そして僕は……」
姉がカノジョになってくれたいいのに、と生まれて初めて自覚した瞬間だった。感極まった僕は。
「思わず姉さんを抱きしめた」
姉が僕の浴衣をキュッと握る。
「あの時の姉さん、可愛かった、きれいだった。だから絶対に誰のものにもなって欲しくなかった」
「じゃあそうして。あたしを離さないで。あなただけのものにしてっ」
そう吐き出すと姉は大きな音を立てて鼻をすすった。
「……うん。そうしたかった……」
額にキスをする。
「あっ」
「だけどこれが僕の精一杯」
少しふざけた口調で言う。姉は音もたてず大泣きしながら僕の浴衣まで涙で濡らす。僕はもっとスマートにできないのか。姉を泣かせてばかりだ。罪の意識ばかりが募っていく。
食後は腹ごなしに俯き加減の姉と付近を散策したり、そのあとは僕の脚に姉が頭を乗せて膝枕をしながらぽつりぽつりと昔話をしたりと、まったり過ごす。その間、僕たちはずっと当たり前のように恋人繋ぎをしたり腕を組み身体を密着させて過ごした。改めて思うのはこうしていると誰といる時よりも心が安らぐ。彩寧といる時よりも、だ。僕ももう完全に駄目な弟になってしまったんだなと、面には出さずうんざりしていた。だが同時にわき上がるこの甘やかな感情はなんだ。
こんなんで僕は姉と「適切な距離」をとることができるのか。僕には甚だ自信がなかった。そう思うと激しい憂うつ感に襲われる。離れたくない。いっときも姉さんから離れたくない。一ミリだって離れたくない。この気持ちが、僕のこの想いが過ちだと、罪だというのなら僕は一体なんのために生を得てここに存在しているのだろうか。そんなものありはしないが、もし神なんてものがあるのだとしたら、僕らはなぜこのような境遇に落とされたのか。僕は憎む。心の底から神を憎む。
このあとバーに言った僕たちはくっつき合って静かに思い出話をした。少しは姉の表情も明るくなったようで僕も胸をなで下ろす。結局今夜の姉は四合を空けたうえ六本の缶ビールにカクテル四杯を飲み干していた。
「さ、もう寝ようか」
僕が浴衣に着替えて棒立ちしている姉の手を取ると、うなだれた姉は静かに頷いた。
「布団、どっちがいい?」
手を握ったまままるで修学旅行や林間学校の子供たちのようなノリで姉に声をかけた。姉はすっかり元気をなくした声で答える。
「あなたと同じとこ……」
またか。
が、当然想定内だった。僕は自分から先に布団に入り姉を手招きする。すると姉も無言でするりと布団の中に入って僕の浴衣の衿にしがみ付いてくる。
「普通の姉弟はこんなことしないの。判るよね」
姉の頭をそっと抱きかかえそう言うと、姉は頭を僅かに横に振った。僕たちはお互いの息がかかる布団の中で身体を密着させながら寝た。姉の浴衣の下は大部分がはだけていたが、きっと判ってやっていたんだろう。ふと見ると肩も広くはだけていた。僕はこれを材木町のよ市で買った泥付きニンジンだと思って無事事なきを得た。しかし、姉の身体から漂う甘い香りが終始僕の鼻腔をくすぐり僕の心をかき乱していた。
僕はふとあの日のことを思い出す。
「最初にこんな風に抱きあったのはいつだっけ」
「わかんない」
姉はぶっきらぼうともいえる態度で答える。
「ホオズキ市。僕が中二、まだ十三の時」
その時姉は十六。姉が「あ」と小さな声をあげる。
「そ、姉さんの髪にお面の輪ゴムが絡まったのを直したの、憶えてる?」
姉は小さく頷く。
「それを彩寧に見られて。そして僕は……」
姉がカノジョになってくれたいいのに、と生まれて初めて自覚した瞬間だった。感極まった僕は。
「思わず姉さんを抱きしめた」
姉が僕の浴衣をキュッと握る。
「あの時の姉さん、可愛かった、きれいだった。だから絶対に誰のものにもなって欲しくなかった」
「じゃあそうして。あたしを離さないで。あなただけのものにしてっ」
そう吐き出すと姉は大きな音を立てて鼻をすすった。
「……うん。そうしたかった……」
額にキスをする。
「あっ」
「だけどこれが僕の精一杯」
少しふざけた口調で言う。姉は音もたてず大泣きしながら僕の浴衣まで涙で濡らす。僕はもっとスマートにできないのか。姉を泣かせてばかりだ。罪の意識ばかりが募っていく。
0
あなたにおすすめの小説
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
美人生徒会長は、俺の料理の虜です!~二人きりで過ごす美味しい時間~
root-M
青春
高校一年生の三ツ瀬豪は、入学早々ぼっちになってしまい、昼休みは空き教室で一人寂しく弁当を食べる日々を過ごしていた。
そんなある日、豪の前に目を見張るほどの美人生徒が現れる。彼女は、生徒会長の巴あきら。豪のぼっちを察したあきらは、「一緒に昼食を食べよう」と豪を生徒会室へ誘う。
すると、あきらは豪の手作り弁当に強い興味を示し、卵焼きを食べたことで豪の料理にハマってしまう。一方の豪も、自分の料理を絶賛してもらえたことが嬉しくて仕方ない。
それから二人は、毎日生徒会室でお昼ご飯を食べながら、互いのことを語り合い、ゆっくり親交を深めていく。家庭の味に飢えているあきらは、豪の作るおかずを実に幸せそうに食べてくれるのだった。
やがて、あきらの要求はどんどん過激(?)になっていく。「わたしにもお弁当を作って欲しい」「お弁当以外の料理も食べてみたい」「ゴウくんのおうちに行ってもいい?」
美人生徒会長の頼み、断れるわけがない!
でも、この生徒会、なにかちょっとおかしいような……。
※時代設定は2018年頃。お米も卵も今よりずっと安価です。
※他のサイトにも投稿しています。
イラスト:siroma様
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる