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第27話 激発、背徳の誘惑
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僕たちは身を丸めて寄せ合い、互いの体温を慈しみ合う。
「昨日からのデートもありがとう。あたし本当に楽しかった。優斗と一緒に旅行なんて夢みたい」
「僕も。姉さんと一緒に旅行できて良かったよ。すごく楽しかった」
「あたしのせいで途中から変なことになっちゃってごめんね。台無しにしちゃってごめんなさい。今だってそう。あたしがすっかりだめになっちゃうから……」
また涙が止まらなくなる姉。
「いいんだ。姉さんの本当の気持ちをたくさん聞けて良かった。嬉しかったよ」
「うん…… ごめんなさい。ごめんなさい……」
姉が謝るのを聞いたのは、ネット詐欺に引っ掛かった時以来初めてだったと思う。
「一生の思い出になったよ」
鼻がつまった声でそうぽつりと言った姉の言葉に僕はビクッと震える。一生の思い出。そう僕ら姉弟二人で一緒に旅行に行くことはもう一生ない。
「僕も。一生の、思い出だ」
「うんっ、ふふっ」
僕らはさらに身体を強く密着させた。僕らは無言で互いの息遣いと拍動を感じ続けていた。
気がつくと十九時を回っていた。
「……もうこんな時間」
姉がぽつりと漏らす。
「うん」
僕も小さく応じた。
「もう帰る?」
「うん」
帰りたくなかった。僕の姉の肩を抱く手に力が入る。
「痛い……」
「あ、ごめん……」
僕はゆっくり立ち上がる。軽く伸びをして姉を見る。
「じゃ」
姉も僕の眼を見据える。
「うん」
姉が手を差し出してきた。
「なに?」
「握手。最後に」
僕は僕より四十センチ近く背の低い姉を見下ろし、ゆっくり手を差し出す。僕たち二人の手の平が触れ合い握り締め合う。
「これで、最後なんだね。あたしたち普通の姉弟になるんだね」
姉の眼も声も寂し気で、まるでこれから捨てられる子猫のようだった。
「普通よりかなり仲がいい姉弟くらいでいいんじゃないかな」
苦笑いしつつ僕は応える。
ついさっきまで身体を接していた時の姉の身体の感触が甦る。姉の手は驚くほど小さくて柔らかで温かかった。
その瞬間僕の中の何かが壊れた。
姉の手を乱暴に引っ張り勢いよく僕の胸に叩きつけるように抱き寄せる。鎖骨の下あたりに姉の頭が激突する。
「あたっ」
何も考えずに力一杯姉を抱き締める。
「うぐうっ」
姉の苦しそうな声が聞こえるが僕はそんなことはお構いなしに姉を抱きしめた。すると姉も僕を抱き返してくる。
「優斗っ」
「姉さんっ」
だめだ、こんなことをしちゃだめだ、すぐに姉を離すんだ。だが身体が言うことを聞かない。
僕の腕がゆるむと姉が爪先立って僕の首に両腕を回してくる。
「姉……さん」
目が合うと、姉の瞳がキラリと妖しく光る。
「ね…… ここにはだれもいないの。あたしと優斗だけ。何をしたって絶対気付かれやしない……」
姉の囁きは妖艶ですらあった。四十センチ近くも背の低い姉は僕の首に両腕を回し懸命に爪先立って僕を陶然として見つめる。きれいだ。額が広くひどく幼い顔、少し潤み蠱惑的で大きな瞳と濡れた唇、そっと僕の首に絡ませる腕。不覚にも僕はゴクリと生つばを飲み込んでしまった。それでも僕は絞り出すように言った。姉を罪で穢さないように。
「確かに、ここには姉さんと僕しかいない。だけど姉さんと僕が何かをすればそれは僕たちの記憶に残る。間違ったことをした罪の意識、咎の記憶は僕たちが一生背負っていくんだ。僕だったらその重みには耐え切れる自信がない」
僕は辛うじて平静を装い姉に言い放つことに成功した。だが姉の追求は止まない。
「じゃあどうして今あたしを抱きしめたの? ねえどおして? あなた、あたしとこうしたかったんじゃないの? ねえ、正直に言いなよ。素直になりなよ優斗」
僕は姉に頬ずりする。ああ、心の底から愛おしい。こんな感情、知るべきではなかった。
「確かに、確かに抱きしめてしまったけどっ。それだけだ、それ以上のことはしない」
「していいよ」
再び姉が爪先立って両腕を僕の首に回す。
「昨日からのデートもありがとう。あたし本当に楽しかった。優斗と一緒に旅行なんて夢みたい」
「僕も。姉さんと一緒に旅行できて良かったよ。すごく楽しかった」
「あたしのせいで途中から変なことになっちゃってごめんね。台無しにしちゃってごめんなさい。今だってそう。あたしがすっかりだめになっちゃうから……」
また涙が止まらなくなる姉。
「いいんだ。姉さんの本当の気持ちをたくさん聞けて良かった。嬉しかったよ」
「うん…… ごめんなさい。ごめんなさい……」
姉が謝るのを聞いたのは、ネット詐欺に引っ掛かった時以来初めてだったと思う。
「一生の思い出になったよ」
鼻がつまった声でそうぽつりと言った姉の言葉に僕はビクッと震える。一生の思い出。そう僕ら姉弟二人で一緒に旅行に行くことはもう一生ない。
「僕も。一生の、思い出だ」
「うんっ、ふふっ」
僕らはさらに身体を強く密着させた。僕らは無言で互いの息遣いと拍動を感じ続けていた。
気がつくと十九時を回っていた。
「……もうこんな時間」
姉がぽつりと漏らす。
「うん」
僕も小さく応じた。
「もう帰る?」
「うん」
帰りたくなかった。僕の姉の肩を抱く手に力が入る。
「痛い……」
「あ、ごめん……」
僕はゆっくり立ち上がる。軽く伸びをして姉を見る。
「じゃ」
姉も僕の眼を見据える。
「うん」
姉が手を差し出してきた。
「なに?」
「握手。最後に」
僕は僕より四十センチ近く背の低い姉を見下ろし、ゆっくり手を差し出す。僕たち二人の手の平が触れ合い握り締め合う。
「これで、最後なんだね。あたしたち普通の姉弟になるんだね」
姉の眼も声も寂し気で、まるでこれから捨てられる子猫のようだった。
「普通よりかなり仲がいい姉弟くらいでいいんじゃないかな」
苦笑いしつつ僕は応える。
ついさっきまで身体を接していた時の姉の身体の感触が甦る。姉の手は驚くほど小さくて柔らかで温かかった。
その瞬間僕の中の何かが壊れた。
姉の手を乱暴に引っ張り勢いよく僕の胸に叩きつけるように抱き寄せる。鎖骨の下あたりに姉の頭が激突する。
「あたっ」
何も考えずに力一杯姉を抱き締める。
「うぐうっ」
姉の苦しそうな声が聞こえるが僕はそんなことはお構いなしに姉を抱きしめた。すると姉も僕を抱き返してくる。
「優斗っ」
「姉さんっ」
だめだ、こんなことをしちゃだめだ、すぐに姉を離すんだ。だが身体が言うことを聞かない。
僕の腕がゆるむと姉が爪先立って僕の首に両腕を回してくる。
「姉……さん」
目が合うと、姉の瞳がキラリと妖しく光る。
「ね…… ここにはだれもいないの。あたしと優斗だけ。何をしたって絶対気付かれやしない……」
姉の囁きは妖艶ですらあった。四十センチ近くも背の低い姉は僕の首に両腕を回し懸命に爪先立って僕を陶然として見つめる。きれいだ。額が広くひどく幼い顔、少し潤み蠱惑的で大きな瞳と濡れた唇、そっと僕の首に絡ませる腕。不覚にも僕はゴクリと生つばを飲み込んでしまった。それでも僕は絞り出すように言った。姉を罪で穢さないように。
「確かに、ここには姉さんと僕しかいない。だけど姉さんと僕が何かをすればそれは僕たちの記憶に残る。間違ったことをした罪の意識、咎の記憶は僕たちが一生背負っていくんだ。僕だったらその重みには耐え切れる自信がない」
僕は辛うじて平静を装い姉に言い放つことに成功した。だが姉の追求は止まない。
「じゃあどうして今あたしを抱きしめたの? ねえどおして? あなた、あたしとこうしたかったんじゃないの? ねえ、正直に言いなよ。素直になりなよ優斗」
僕は姉に頬ずりする。ああ、心の底から愛おしい。こんな感情、知るべきではなかった。
「確かに、確かに抱きしめてしまったけどっ。それだけだ、それ以上のことはしない」
「していいよ」
再び姉が爪先立って両腕を僕の首に回す。
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