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27.譜面とクリスマスイブと野心
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「いやあ、確かに努力の跡は認められるんですが……」
長さんが渋い顔と渋い声で呻る。心細げに僕が問う。
「やはり無理ですか」
「これでは厳しいと思いますね」
「うーん」
作曲家に転向しようと考えた僕は、音大に復学するのは後回しにして、ここで作曲コンテストに応募しようと日夜作曲に励んでいた。その出来栄えを僕以上に音楽に詳しい長さんに見てもらっていたのだが、どれも今一つの内容であった。さらにそれとは別に特別な一本の作曲を執筆している。
「まあ一朝一夕によいものが出来るわけでもありません。気を落とさないで下さい。ローマは一日にして成らず、です。いらっしゃい」
長さんがお客さんに挨拶をする。僕は苦笑した。妙子さんはひどく残念そうな顔だ。
僕はまだ長さんに見てもらっていないいくつかの楽譜に目を通しながら独学の限界を痛感していた。これをまとめて妙子さんに渡す。
「これ、捨てちゃって下さい」
驚いた顔をする妙子さん。
「えっ、いいんですか? せっかく書いたのに……」
「いいんです、どうせろくなできじゃないでしょうから。それと塩辛と熱燗下さい」
「はい……」
妙子さんはなんだか名残惜しそうな目で僕の楽譜の束を眺めていた。これらの楽譜を足元のごみ箱に捨てずに、わざわざ店の奥の物陰にあるごみ箱に捨てに行ったようだ。そのあといそいそと僕に塩辛と熱燗を出してくれた。
「はいどうぞ。きっといい事ありますよ。応援してますから」
「あ、ありがとうございます」
僕はこの妙子さんの優しい言葉と笑顔が嬉しかった。
この日は珍しく妙子さんの部屋に帯広のお母さんが来ているというので、妙子さんは僕の部屋には寄らずに帰ることになった。僕が妙子さんの部屋の前まで一緒に行く。僕は妙子さんに作曲の苦労話などしていると、それを一生懸命にに聞く妙子さんだった。
「あ」
妙子さんが僕と別れて自分のアパートに帰る。ところが途中で何かに気が付いたようで僕のもとに駆け寄ってきた。
「ごめんなさい、すっかり忘れてた。これどうぞ」
妙子さんがトートバッグから取り出したのはリボンのついた長四角の箱だった。
「ほんとに大したものじゃないの。だから帰ってから開けてね」
と苦笑いする妙子さん。そこで僕は今日がクリスマスイブだったことを思い出した。
「しまった! 実は僕も!」
慌てて僕もプレゼントをバックパックから取り出す。お互いプレゼントの包装をよく見てみるが、外箱のサイズがそっくりだ。ラッピングさえ同じだ。それを見て妙子さんはくすくす笑いが止まらない。一方で僕はなんだか恥ずかしさを感じて仕方がない。とても嫌な予感がする。
「あとで開けてみてびっくりかもしれませんね。くすくすっ」
「僕はなんだか恥ずかしい予感です」
プレゼント交換をした僕たちは「メリークリスマス」と声をかけ合ってそれぞれのうちに帰る。僕は帰宅してすぐに妙子さんからのプレゼントを丁寧に開封した。やっぱり。僕はうなだれた。僕がプレゼントしたのと全く同じステンレスボトルの色違いだったのだ。もっと色々選び抜けばよかった。強い後悔が僕の胸に湧き上がってきたその時、妙子さんから写真付きのメールが来る。
≪ペアの色違いになりましたね! 嬉しいです! 大事に使いますね≫
ああ、考えようによってはそうか。僕たちはペアの色違いを持っていると考えたら、悪い話じゃない。むしろお互いからのプレゼントと言うことも相まって結構いいんじゃないかな。そう思いなおした。普通なら嫌がってもおかしくないのに、喜んでくれる妙子さんが僕には嬉しかった。
≪僕も嬉しいです。大事にします。ありがとうございました≫
と僕のステンレスボトルの写真を撮って返信する。
ステンレスボトルをきれいに洗って水きりかごに置くと僕は作曲の本をめくる。長さんが言うように確かに僕の力量はまだまだだ。だけどその分僕の目の前には大きな可能性が、広大な原野のように広がっている。この広々とした世界をかならずものにしてやる。僕はかつてピアノに向かった時とは全く違う決意と野心を持って五線紙に向かった。
◆次回
28.イベントとクリスマスと澱む心
2022年4月28日 21:00 公開予定
長さんが渋い顔と渋い声で呻る。心細げに僕が問う。
「やはり無理ですか」
「これでは厳しいと思いますね」
「うーん」
作曲家に転向しようと考えた僕は、音大に復学するのは後回しにして、ここで作曲コンテストに応募しようと日夜作曲に励んでいた。その出来栄えを僕以上に音楽に詳しい長さんに見てもらっていたのだが、どれも今一つの内容であった。さらにそれとは別に特別な一本の作曲を執筆している。
「まあ一朝一夕によいものが出来るわけでもありません。気を落とさないで下さい。ローマは一日にして成らず、です。いらっしゃい」
長さんがお客さんに挨拶をする。僕は苦笑した。妙子さんはひどく残念そうな顔だ。
僕はまだ長さんに見てもらっていないいくつかの楽譜に目を通しながら独学の限界を痛感していた。これをまとめて妙子さんに渡す。
「これ、捨てちゃって下さい」
驚いた顔をする妙子さん。
「えっ、いいんですか? せっかく書いたのに……」
「いいんです、どうせろくなできじゃないでしょうから。それと塩辛と熱燗下さい」
「はい……」
妙子さんはなんだか名残惜しそうな目で僕の楽譜の束を眺めていた。これらの楽譜を足元のごみ箱に捨てずに、わざわざ店の奥の物陰にあるごみ箱に捨てに行ったようだ。そのあといそいそと僕に塩辛と熱燗を出してくれた。
「はいどうぞ。きっといい事ありますよ。応援してますから」
「あ、ありがとうございます」
僕はこの妙子さんの優しい言葉と笑顔が嬉しかった。
この日は珍しく妙子さんの部屋に帯広のお母さんが来ているというので、妙子さんは僕の部屋には寄らずに帰ることになった。僕が妙子さんの部屋の前まで一緒に行く。僕は妙子さんに作曲の苦労話などしていると、それを一生懸命にに聞く妙子さんだった。
「あ」
妙子さんが僕と別れて自分のアパートに帰る。ところが途中で何かに気が付いたようで僕のもとに駆け寄ってきた。
「ごめんなさい、すっかり忘れてた。これどうぞ」
妙子さんがトートバッグから取り出したのはリボンのついた長四角の箱だった。
「ほんとに大したものじゃないの。だから帰ってから開けてね」
と苦笑いする妙子さん。そこで僕は今日がクリスマスイブだったことを思い出した。
「しまった! 実は僕も!」
慌てて僕もプレゼントをバックパックから取り出す。お互いプレゼントの包装をよく見てみるが、外箱のサイズがそっくりだ。ラッピングさえ同じだ。それを見て妙子さんはくすくす笑いが止まらない。一方で僕はなんだか恥ずかしさを感じて仕方がない。とても嫌な予感がする。
「あとで開けてみてびっくりかもしれませんね。くすくすっ」
「僕はなんだか恥ずかしい予感です」
プレゼント交換をした僕たちは「メリークリスマス」と声をかけ合ってそれぞれのうちに帰る。僕は帰宅してすぐに妙子さんからのプレゼントを丁寧に開封した。やっぱり。僕はうなだれた。僕がプレゼントしたのと全く同じステンレスボトルの色違いだったのだ。もっと色々選び抜けばよかった。強い後悔が僕の胸に湧き上がってきたその時、妙子さんから写真付きのメールが来る。
≪ペアの色違いになりましたね! 嬉しいです! 大事に使いますね≫
ああ、考えようによってはそうか。僕たちはペアの色違いを持っていると考えたら、悪い話じゃない。むしろお互いからのプレゼントと言うことも相まって結構いいんじゃないかな。そう思いなおした。普通なら嫌がってもおかしくないのに、喜んでくれる妙子さんが僕には嬉しかった。
≪僕も嬉しいです。大事にします。ありがとうございました≫
と僕のステンレスボトルの写真を撮って返信する。
ステンレスボトルをきれいに洗って水きりかごに置くと僕は作曲の本をめくる。長さんが言うように確かに僕の力量はまだまだだ。だけどその分僕の目の前には大きな可能性が、広大な原野のように広がっている。この広々とした世界をかならずものにしてやる。僕はかつてピアノに向かった時とは全く違う決意と野心を持って五線紙に向かった。
◆次回
28.イベントとクリスマスと澱む心
2022年4月28日 21:00 公開予定
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