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第2章 空に纏(まつ)わりつく死の翳(かげ)
第11話 自殺企図
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翌日。
僕は朝の4時に空さんを起こして「朝のお勤め」を手伝わせる。空さんは不平のひとつを言うでもなく無表情に黙々と干草をピッチフォークで運んだ。
その日の午前6時半ごろだった。僕は原沢と二人で本館の壁を修理していた。トントンと軽快な音を立てて板塀に釘を打つ。
「ったくなんであたしたちがここまでしなくちゃいけないんすかねえっ」
原沢は不機嫌の極みだ。早く馬に触れる仕事をしたくてうずうずしている様子が手に取るようにわかる。
「仕方ないだろ、業者を頼んだら法外な修理費をせびられる。シェアトにそんな金はない。よって僕らスタッフが無償で修理する羽目になる。これが僕らの悲しき運命だ。ほら、釘取ってくれ」
「はい、どうぞ。2本でいいすか。あたしはそんな運命なんて断固拒絶したいとこなんですがね。革命起こしません?」
「革命を起こすには自ら血を流すのを厭わないほど、権力者への極めて強い不満や不信や怒りや憎悪に満ちた大多数の熱狂的民衆と、民衆を導く崇高な思想家や優秀で酷薄な指導者が必要だ。今のシェアトにそれだけの人材がいると思うか? よし、次の板だ。釘もう2本くれ」
「はいセンパイこれ。確かにもうシェアトの連中は牙も角も抜かれたヒツジっすね。はあー、かくして我ら大衆は体制に呑み込まれていくのかあ」
「難しい言葉知ってるなお前。まあこれでいいだろう」
「…………あれ? センパイ?」
「なんだ」
「なんかガス臭くありません」
「ガス?」
「ええ、微かだけど確かにするっす」
「うーん言われてみれば確かにするかもなあ……」
「どこで漏れてんすかね。元栓止めに行きます?」
「またか…… そうだな、いったん止めよう。朝食を自炊するのにガスを使う人がいるかも知れないが仕方がないな…… あと、他に誰か使う人なんているかな……」
その瞬間頭の中に閃光が走る。いる! いたぞ!ガスを使う人が!
僕は飛ぶ様にして本館へ駆け込んだ。
「せっセンパーイっ、どうしたんすかいきなりっ!」
驚いた原沢も僕のあとをついて走ってくる。僕は空さんの部屋に向かうと次第にガス臭さは濃くなっていく。
「うっ、ガス臭っ。これ一体どういうことっすか?」
原沢の問いには答えず僕は空さんの部屋の前まで行く。扉は当然鍵がかかっていて開かない。2~3歩下がって全体重をかけ古臭い真鍮製のドアノブを思い切りけ飛ばすとおんぼろのドアノブは一瞬でバラバラになった。ドアを開け中に入るとガスの臭いが充満する中、空さんが水を張ったたらいの中に左手を突っ込んで仰向けに寝ている。たらいの中の水は淡く朱に染まっていた。右手には何か薄い30㎝くらいのカラフルな板を抱えている。
「なっ、なんすかこれ! ガチでヤバいヤツじゃないっすか!」
叫ぶ原沢。
※
拙作は自死自傷を推奨・称揚する意図をもって書かれたものではありません。自死自傷はご自身はもちろんのこと周りの人々をも深く傷つける行為です。くれぐれもそのような選択をなさらないことを切に祈ります。
自死自傷の念に苛まれたり生き辛さを感じた時はためらうことなく精神科・精神神経科・心療内科等を受診なさるかカウンセラー・セラピストにかかるなど、速やかにご自身の心を守る行動を取って下さい。また、下記の団体などでもこうした悩みや苦しみを持つ方のご相談を受け付けております。苦悩は一人で抱え込まず誰かに吐き出すだけでも解決の糸口になり得ます。小さなことでも人に頼ることをどうか恐れないで下さい。
●厚生労働省「まもろうよこころ」
https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/soudan/tel/
●電話の相談窓口
・「こころの健康相談統一ダイヤル」
(18:30~22:30[22:00まで受付])
0570-064-556
・「#いのちSOS」
(日月火金土00:00~24:00、水木6:00~24:00
※木6:00~火24:00までは連続対応)
0120-061-338
・「全国いのちの電話連盟ナビダイヤル」
(10:00~22:00)
0570-783-556
・「全国いのちの電話連盟フリーダイヤル」
(16:00~21:00/毎月10日08:00~翌08:00)
0120-783-556
・「よりそいホットライン」
(24h)
0120-783-556
岩手県・宮城県・福島県から
0120-279-226
●LINE
・「こころのほっとチャット」友だち追加(Facebookでも受け付け)
・「生きづらびっと」友だち追加
●インターネット
・「いのちの電話連盟インターネット相談」
https://netsoudan.inochinodenwa.org/
●18歳以下
・「チャイルドライン」0120-99-7777
【次回】
第12話 生へと引きずり上げる
僕は朝の4時に空さんを起こして「朝のお勤め」を手伝わせる。空さんは不平のひとつを言うでもなく無表情に黙々と干草をピッチフォークで運んだ。
その日の午前6時半ごろだった。僕は原沢と二人で本館の壁を修理していた。トントンと軽快な音を立てて板塀に釘を打つ。
「ったくなんであたしたちがここまでしなくちゃいけないんすかねえっ」
原沢は不機嫌の極みだ。早く馬に触れる仕事をしたくてうずうずしている様子が手に取るようにわかる。
「仕方ないだろ、業者を頼んだら法外な修理費をせびられる。シェアトにそんな金はない。よって僕らスタッフが無償で修理する羽目になる。これが僕らの悲しき運命だ。ほら、釘取ってくれ」
「はい、どうぞ。2本でいいすか。あたしはそんな運命なんて断固拒絶したいとこなんですがね。革命起こしません?」
「革命を起こすには自ら血を流すのを厭わないほど、権力者への極めて強い不満や不信や怒りや憎悪に満ちた大多数の熱狂的民衆と、民衆を導く崇高な思想家や優秀で酷薄な指導者が必要だ。今のシェアトにそれだけの人材がいると思うか? よし、次の板だ。釘もう2本くれ」
「はいセンパイこれ。確かにもうシェアトの連中は牙も角も抜かれたヒツジっすね。はあー、かくして我ら大衆は体制に呑み込まれていくのかあ」
「難しい言葉知ってるなお前。まあこれでいいだろう」
「…………あれ? センパイ?」
「なんだ」
「なんかガス臭くありません」
「ガス?」
「ええ、微かだけど確かにするっす」
「うーん言われてみれば確かにするかもなあ……」
「どこで漏れてんすかね。元栓止めに行きます?」
「またか…… そうだな、いったん止めよう。朝食を自炊するのにガスを使う人がいるかも知れないが仕方がないな…… あと、他に誰か使う人なんているかな……」
その瞬間頭の中に閃光が走る。いる! いたぞ!ガスを使う人が!
僕は飛ぶ様にして本館へ駆け込んだ。
「せっセンパーイっ、どうしたんすかいきなりっ!」
驚いた原沢も僕のあとをついて走ってくる。僕は空さんの部屋に向かうと次第にガス臭さは濃くなっていく。
「うっ、ガス臭っ。これ一体どういうことっすか?」
原沢の問いには答えず僕は空さんの部屋の前まで行く。扉は当然鍵がかかっていて開かない。2~3歩下がって全体重をかけ古臭い真鍮製のドアノブを思い切りけ飛ばすとおんぼろのドアノブは一瞬でバラバラになった。ドアを開け中に入るとガスの臭いが充満する中、空さんが水を張ったたらいの中に左手を突っ込んで仰向けに寝ている。たらいの中の水は淡く朱に染まっていた。右手には何か薄い30㎝くらいのカラフルな板を抱えている。
「なっ、なんすかこれ! ガチでヤバいヤツじゃないっすか!」
叫ぶ原沢。
※
拙作は自死自傷を推奨・称揚する意図をもって書かれたものではありません。自死自傷はご自身はもちろんのこと周りの人々をも深く傷つける行為です。くれぐれもそのような選択をなさらないことを切に祈ります。
自死自傷の念に苛まれたり生き辛さを感じた時はためらうことなく精神科・精神神経科・心療内科等を受診なさるかカウンセラー・セラピストにかかるなど、速やかにご自身の心を守る行動を取って下さい。また、下記の団体などでもこうした悩みや苦しみを持つ方のご相談を受け付けております。苦悩は一人で抱え込まず誰かに吐き出すだけでも解決の糸口になり得ます。小さなことでも人に頼ることをどうか恐れないで下さい。
●厚生労働省「まもろうよこころ」
https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/soudan/tel/
●電話の相談窓口
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(18:30~22:30[22:00まで受付])
0570-064-556
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(日月火金土00:00~24:00、水木6:00~24:00
※木6:00~火24:00までは連続対応)
0120-061-338
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0120-783-556
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(24h)
0120-783-556
岩手県・宮城県・福島県から
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第12話 生へと引きずり上げる
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