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第2章 空に纏(まつ)わりつく死の翳(かげ)

第15話 スカイブルーの涙

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「ああ、この水色すごく短くなって……」

「スカイブルー…… 空色……」

「好きだったんですかこの空色」

 すると突然空さんの動きが止まった。畳に手をついてうつむきながら細かく身体を震わせ始める。

「空、さん……?」

 空さんは泣いていた。滂沱と涙を溢れさせ顔をくしゃくしゃにして。涙がパステルの上に落ちる。空色のパステルの上にも落ちる。

 僕は空さんを泣くに任せた。否定もしない、押しつけもしない、ただ僕は空さんの悲しみを苦しみを受容する。ただそばにいて泣きたければ泣かせて話したければ聞く。何も強制はしない。

 空さんは20分ほど泣いていると次第に泣き止み、ようやく涙も止まった。

「……ごめん」

 空さんは一言そう呟くとまたパステルを整理し始めた。

「好きな色…… とっても大事な色、だから……」

 また呟いてあとは黙る空さん。

「そうだったんですね…… つらい思いをされたんですね」

 空さんはきっと僕をにらむ。その眼に僕は見覚えがあった。そうだ、僕も同じことを言われれば同じ眼をしただろう。「お前に何がわかる」と。

 それでも僕は笑顔を崩さない。その表情には「決してあなたを死なせはしない」という決意の表れだった。

 空さんはパステルの整理を終えるとすぐにシエロの馬房に行って、どこに隠し持っていたのかニンジンを取り出し食べさせる。そのあとはずっとシエロの顔を撫でていた。あの神経質で怒りっぽいシエロは相変わらず全く嫌がる素振りも見せず、むしろ喜んで空さんを受け入れているのが不思議だった。

 僕はそんな空さんに冗談めかして言ってみた。

「そんなにシエロが好きなら、馬の世話とかするといいんじゃないですか?」

「世話?」

「そうです。餌をやったりブラッシングをしたり敷きわらを交換したり運動させたり装蹄させたり、とまあそんなものです」

 僕は空さんが何かに打ち込めば、その濃い希死念慮も少しは治まるのではないかと考えた。最も今の空さんが厩務員になれるとは僕自身思っていなかった。

「世話…… シエロの、世話……」

「そうです。きっと楽しいですよ」

「…………」

 空さんは黙ったままいつまでもシエロの顔を撫でてその優しい眼を見つめていた。


【次回】
第16話 空の就職
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