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第11章 離れゆく空

第50話 空の異動

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 僕が汚れた敷き藁をまとめる作業をしていると、ムネさんが僕のところまで来た。

「おう。今日も蒸すな」

「そうですね。空さんの熱中症に充分気をつけます」

「ああ…… その、空なんだが」

 ムネさんはどこか言いにくそうな顔をしている。周囲を見渡すとこっそりとした声で僕に言う。

「空の今の様子はどうだ。よくなってきているか」

「え、はあ、まあ…… 少なくとももう最悪の選択をするようなことはないかと。まあ衝動的にしてしまうことはあるかも知れませんが、それもシエロのおかげで可能性はほとんどないと思います。自分で正確な判断ができるようになりましたし、自発的に行動することも少しずつ増えてきました。自分の気持ちをはっきりと表す気力というかパワーというか、そういうのはまだ全然足りなさそうに見える時がありますが、それでも空さんは確実に回復に向かっています。まだまだですが体力もかなりついてきました」

「そうか、ならよかった。裕樹ひろきのおかげだな。ありがとうよ」

 ムネさんからそう言われるとなんだかくすぐったい。だが、ムネさんの表情はなぜだかさえない。どうしてだろう。

「その空のことなんだがな…… 実は馬術乗馬部門への異動願が出ててなあ」

「えっ!」

 これには僕は驚いた。青天の霹靂へきれきだった。なぜ空さんが異動願いを出すのか。しかも僕にも何の相談もなく。この間の原沢との一件が原因なのか。

「その様子だと何も聞いていなかったんだな」

「まったく何も聞いていません。理由は。理由は何か聞いていますか」

「いや、まあ、俺も訊くには訊いたんだがな、なんて言うかいうかその、『シエロと乗馬や馬術を学びたい』って言うばっかでよ」

 嘘だ。空さんは馬術を一つの目標にしていたのは判るが、現在のふれあい観光部門での業務もまだ充分に習得していない。それをこんな中途半端な形で放り出すようなことをする人とは思えない。となるとやはり原沢との一件が相当こたええたのか。

裕樹ひろき、お前何かやらしたのか」

「えっ?」

「あいつが嫌がったり困ったりするような真似をしたのか?」

「まさかそんな…… 心当たりがありません」

「セクハラとか?」

「するわけないじゃないですか!」

「うーん、そりゃあお前のことだからなあ、まあ普通そうだよなあ」

 ムネさんはあごひげをいじりつつ溜息を吐いた。


【次回】
第51話 空なりの気遣い
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