27 / 59
起床ののち朝食
27
しおりを挟むズズッと。
私はまず件の味噌汁に手をーー口をつけた。
「美味しい……」
これはすごい。味を認識した瞬間、それはちょっとした感動をもたらした。
生きててよかった。
冗談ではなくそう思ったーーこれは彼が心酔する気持ちも分かる。そしてそんな彼は、私のふっと漏れ出た自然な感想にうむうむと頷いていた。
「その味噌汁は煮干しの出汁からとってる手の込んだ一品で、これがない朝は多分その日1日俺は死んでると思う」
半分冗談なのだろうけど半分は本当にそうなるだろうなという説得力があって怖い。確かにこんなのを知ってしまったらそう思ってしまっても不思議はない。
「そういえばこの油は何の油なの?オリーブオイル?」
先程から気になっていた疑問を呈する。
「ああ、それはえごま油だよ」
「あ、なるほど」
確かにそれはオリーブオイルより「和」である味噌汁に合うだろうなとは思ったけれど、その一方で優希くんのお母さんのおばあちゃん感が半端じゃないーーいや、案外、この味噌汁の味は笹原家が代々受け継いでいる伝統の味なのかもしれない。
私はそんなことを考えながら夢中で朝食を頂く。向かいの優希くんも食事に集中している。
和気藹々、とお喋りをしながら食べている訳ではない。けど、不思議と幸せだったーー家で(ここは私の家ではないけれど)誰かと食事を一緒に食べるのはいつぶりだろうか。
誰かと食卓を囲む幸せ。
世間一般では当たり前かもしれない。けど、私の家庭ではもう何年もそれは失われていた。
誰かと食卓を共にする事が、こんなにも幸せで、温かいことだということをーー思い出さないようにしていた事を、思い出してしまった。
「これがない朝は多分その日1日俺は死んでると思う」
冗談半分に彼はそう言っていた。本当にそうだと思う。
だから。
ーーこんなのを知ってしまったら、私は半分死んでしまうのと同じだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる