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謝罪
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しおりを挟む食器を洗い終えて。
「大事な話がある」と切り出して再び自室。
「ごめん流奈。ヘアピン、川に落とした」
事の経緯を説明し、何時間かぶりに土下座する。
今回のようにそうちょくちょく使っている訳ではないが、本当にこっちに非があるときはいつも土下座なので相手(母さんと流奈)もそろそろ誠意を感じられなくなっているのではなかろうか。土下座の更に上の謝罪形態を考えなくてはと思う今日この頃である。心も麻痺して来て、土下座に己の誇りやプライドも何も感じなくなっているのも問題だと思うしーーと、そういったどうでもいいことを考えていないといたたまれない沈黙の後。
「……そっか、風に飛ばされちゃったか……」
彼女は残念そうに、泣きそうに言った。
彼女を笑顔にするために約束したのに、結果的にこういう表情をさせた自分が憎い。
「それは……しょうがないね。いいよ、顔上げて」
彼女に一応の赦しを得て顔を上げる。
「流奈、本当にごめん」
「よくないけど…いいよ。貸し10ね」
「分かった」
甘んじて受け入れよう。
「それに私が優希くんの部屋に転移したのも案外、栞がきっかけになって流されちゃった短冊の願いが叶ったのかもだし……あれ?となると優希くん。もしかして『私に会えますように』って書いた?」
悲しそうにしてた顔を一変させ、彼女が悪戯っぽく訊いてくる。
うっ。
短冊の内容は伏せていたんだが、まさか昨夜の俺と同じ思考をして知られてしまうとは。
「……うん、まぁ……そうだけど…」
嘘をついては気持ちが悪い。
俺は恐らく赤くなっているであろう顔を悟られないように、顎と視線を斜め下に引きながら認めた。
「え」
彼女が視界の隅で少し体を逸らしたのが分かった。
引かれても仕方ない。この際だ、貸し10のついでにこれも甘んじて受け入れよう。
「そ、そうなんだ……。へー…」
ふーん、などと反応する彼女。
明らかに引かれている。
俺はいたたまれなくなって
「と・に・か・く!今は何で流奈が俺の部屋にいたのかを考えよう」
視線を彼女に戻してずっと疑問に思っていた議題を上げる。
「そ、そだね!」
それに対して彼女は何故か赤い顔で慌てたように応じた。
俺何かしたか?
……まあいいや。
「俺の部屋にいる前は何処にいたんだ?俺ん家に向かっていた訳じゃあ、もちろんないんだろ?」
「そりゃそうだよ……でも私、覚えてないんだよね」
「何処にいたかを?」
「うんーーというか、昨日の夜からの記憶が……思い出せない訳じゃないんだけど……なんかもやにかかった感じというか……思い出そうとすると地味に頭痛くなるし」
「そうか」
無理して彼女に負担を掛ける訳にはいかない。
何故彼女が俺の部屋に転移したのかは気になる。しかしついさっき議題に挙げといてなんだが、目下重要なのはそういえばそこではなかった。
「まぁぶっちゃけ覚えてなくても問題はないか」
「え?なんで?」
「最悪無事に帰れさえすればいい訳だし……」
そう、今重要なのは彼女がどう帰路につくかである。久しぶりの再会だしもう少し彼女と居たいのが本当のところだが、そうも言ってられないだろう。
「今頃親御さんも心配してるんじゃないか?連絡はもうしたか?」
「いや、まだだけど……」
「電話かLINEしとけ、絶対心配してるぞ」
「うん……あ、スマホないから固定電話借りていい?」
「ああ」
「じゃあ、ちょっと電話してくるね」
リビングにある固定電話を借りに部屋を出る彼女。
……。
「はぁ」
ごろん、と床に仰向けに寝転ぶ。
今日は日曜日だし、電話したら母親か父親が迎えに来るだろう。
そうなればもう1度離れ離れだ。
「どうしようもないって」
そう、どうしようもないのだ。転校したんだし、転居もしたんだから。
切り替えろ。
後悔しないために。
俺は彼女といられる残り少ない時間を、どう過ごすかを考える。
……こう言っては俺か彼女のどちらか、或いは両方が死ぬみたいだけど。
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