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 勝負してこそのゲーム

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 楽しそうにやれていただろうか……上手く取り繕えていただろうか。
 転校の前日の放課後ーー彼との最後の時間。
 演技力はあの時よりは上がったと思いたい。
 ……ゲームをしている間ーーいや、その前から、ずっと、胸が苦しかった。

「電話、通じなかった。一応、留守電は入れてきたけど……」

 彼に嘘をついてしまった。 
 その一念がーー罪悪感が、私の心を縛って、離さなかった。 
 人に本意ではない嘘をつくことが苦しいことを、私は改めて知ったーーいや。
 正確には知らなかったのかもしれない。
 大切な人に嘘をつくことがこんなにもーー
 苦しくて。 
 ストレスフルで。
 本当は楽しめる筈の時間を台無しにしてしまうもので。
 こんなにもーー生きた心地をさせないことを。 
 ……でも一方で私は安心していた。
 ーー彼とまだ一緒に居られる。
 ーーまだ帰らなくて済む。
 それらが私の心を完全には殺さず、生きながらえさせ、心に生き地獄を創っていた。
 罪悪感と安心。
 どっちも本当で。
 在り方は対極で。
 同じ心の中で、矛盾なく成立しているこれらに。
 私は中途半端に引き裂かれていた。
 
 
 それはいっそ、ひと思いに引き裂かれた方がマシだと思う程の痛みでーー傷みだった。
「……流奈。……流奈?聞いてるか?」
「えっ」
 彼に言われて慌てて彼の方を向く。
 私たちはWiiでマリオカートをしていた。
 あの後彼が「昼までまだ時間あるし」とこのゲームを誘ったのだ。
 始めは流石に負けていたが、アクセルのボタンとアイテム発射のボタンを覚えてハンドルを操作するだけなので、初心者の私から見ても簡単で、数戦目くらいからはいい勝負ができるようになった。そして今はキャラとクルマを選んでいる時だった。
「ごめん、なんだっけ?」
「負けたからってクルマ選びに集中し過ぎだろ……。そろそろいい時間だしこれ終わったら昼食べに行こう」
 テレビの液晶の右下を見ると時刻は12時になろうとしていた。
「そうだね。……何食べる?」
 私はキャラとクルマを決めてコース選択に移った。ハンデとしてコースは私が決めていいことになっていた。……選ぶコースはもちろんレインボーロード一択。
 キラキラしてるのと曲が好きだ。
「またか……。腹は正直あんまり減ってないんだよな」
「私も。ていうか、私お金持ってないから贅沢言えないんだけど」
「ああ、そう言えばそうか」
「という訳で、申し訳ないですがゴチになります、優希くん」
「あいあい。……で、何か希望ある?」
「軽食かー」
 マックは気分じゃないし。
 あ、そうだ。
「喫茶店でいいんじゃない?」
「喫茶店って何食えるの?」
「うーん……サンドイッチとか?」
「詳しくないんかい」
「いや、気になってて結局行かなかった喫茶店思い出したから言ってみただけなんだけど」
「あーなるほどな。……じゃあそこにするか」
「うん」
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