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 七夕祭り

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「あーん、負けたー!悔し~!」
 金魚すくい対決は5対4で俺に軍配が上がった。
「悪いな、負けっぱなしは嫌なんだ」
 フッと、髪をかき上げながら言うとウザ、とでも思ったのか、(自分でもされたらウザ、と思うから、十中八九思っただろうけど)
「あれでしょ!絶対なんか仕組んだでしょ!ポイ貰う時なんかおかしかったもん!」
 と、何やら言い掛かりをつけてきた。
 まぁ合ってるんだけど。
「おー、流石。こういう時やっぱり鋭いな」
「やっぱりなんかズルしたんだ!」
 む、ズルとは心外な。
「失礼な、別にズルはしてないぞ?寧ろ俺は公平に勝負するために策を弄しただけだ」
「公平に勝負するために?」
「ああ、違和感を覚えたのは去年だったんだが、今日改めて観察して確信したーーあの店主、男性と女性子供で、渡すポイを変えてる」
 ポイには種類があるーー紙の厚いものが5号、紙の薄いものが7号だ。
 店主のポイを出す時の手元と客層に注目して観察していると、男性客と女性客・子供でポイを取り出す時の手元が違っていた。恐らく、男性客には7号を渡し、女性客や子供には5号を渡していたのだろう。
「だから流奈に同じ種類のポイを2本受け取って貰っておいて、俺はその内の1本を直前で勝負条件を変える事で戴いた、という訳だ。別に流奈が7号で俺が5号のポイで勝負していた訳じゃないーー寧ろ同じ5号のポイという条件で勝負したんだぞ?」
 去年も今年と同じで店主が客ごとに渡すポイを変えていたなら、俺が7号のポイ、彼女が5号のポイで2対3という結果だったという事になるーーそれはつまり、(そもそも仮定が正しければだが)ポイの条件が同じだったら俺の方が勝つ可能性は高いという訳だ。
 これに気付いた瞬間、俺は心の中で小躍りするどころか、ブレイクダンスをするくらいに喜んだ。
 ーーこれで勝つる!
 と。
 一方、カラクリを聞いた流奈は策を弄したとはいえ、条件を同じにするためにしたものと知って批判はしにくいのか「む~」と唸ってる。
 う~ん、可愛いさ10点。(10点満点中)
 今日はその可愛さに免じよう。
「まぁ俺にも罪悪感がない訳でもないから、夕食は俺が買いに行くよーー欲しいもの言ってくれ。俺はさっき言ったみたいに決められないから」
 それと彼女ひとりに行かせるのは男としてどうかと先程から思ってはいたので、俺はそう言って買い出しを買って出るーーいや、買いに出るのは今からなんだけど。
 しかしーー
「いいよ、負けたのは事実なんだしーーしかも条件を公平にしての負けなんだから罰ゲームは甘んじて受け入れます。優希くんはそこのベンチで席取ってて」
 ひとつ小さく溜め息を吐いて彼女言うーー怒っているというよりは勝負に対してここまで本気になった事に呆れられているといった感じだ。
 だが後悔はしない。
 こうなった彼女は頑固なので、俺は財布を預け、ベンチに座って良い子に留守番する事にする。
 対して「じゃ、ちょっと借りるね?」と、財布を受け取った彼女は、絢爛な屋台の灯りとうねるような雑踏の中に、ひとり消えていった。
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