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再会(3)
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草壁がゆっくり顔を上げると、潤んだ赤い目がニヤリと笑みを浮かべている。
「俺に惚れ直した?」
早翔が吹き出して笑う。おもむろに目線を外して正面を見据える。
「もうずっと惚れてるよ」
「悪いな、ゲイになれなくて」
「親友のままでいてくれた。それだけで十分なのに…」
下を向いてはにかむように微笑む。
「恋人になれないと、俺は親友まで失わないといけないのか… 直にそう言われたあの時ほど、心が震える瞬間にまだ出会えてないよ」
草壁が「キザだな」と笑って早翔を見つめる。
「俺、また七瀬と机を並べて勉強したい。お前が一緒でないと俺、勉強する気になれないんだ」
「何、甘えたこと言ってるんだよ」
草壁が早翔の両肩を掴んだ。
「頼む。俺と一緒に会計士の予備校に通ってくれ。そのための金は貯めた。俺のやる気のために一緒に行ってくれ」
「何を言ってる…」
思いも寄らない唐突な提案に、早翔が声を詰まらせる。
「やっぱ、お前の言う通りホスト最強だよな。あっという間に目標額貯まったわ」
そんな簡単な話ではないことは早翔が一番知っていた。
おどけた口調で、顔をクシャッとさせて笑い、早翔に気を遣わせまいとしてるのが痛いほどわかる。
早翔の苦境を救うために自分ができることを必死で考えたのだろう、一切連絡もせず、同じホストに身を置いて働いていた草壁の、この2年の月日を思うと、胸が張り裂けるような思いがして涙が溢れた。
早翔は片手で涙を拭って、何度か目を瞬かせた。
「君は… どこまで俺を苦しめたいんだよ…… こんなの親友以上だ」
「最高の褒め言葉だな。こんだけ喜ばれると遣り甲斐あるわぁ」と、相変わらずの口調だ。
「こんなことされたら期待するだろうが…… 押し倒すぞ…」
「その時はまたあの時みたいに容赦なく蹴り入れる。んで、俺たちは親友だろうがぁって叫んでやる」
それは、寮の早翔の部屋でふざけ合ってた時のことだった。何かの拍子で下になった草壁に、早翔の顔が近づいた瞬間、腹に草壁の蹴りが入った。
「あれは酷かった。何もしてないのに蹴られた」
「いや、あれはキスしようとしてただろうが」
早翔が「してないよ」と、懐かしそうな笑顔を見せると、草壁は「でも毎日、楽しかったよなぁ」と声を出して笑う。
しばらく二人で笑い合った後、草壁がため息を漏らした。
「次のバイト探さないと。タダで酒が飲めるバイト」
「酒飲むためにバイトするのかよ」
「金は入るし酒は飲めるし、お姉ちゃんとデートできるし、ホストは一石何鳥にもなるんだ」
「はぁ?」と顔をゆがめる早翔の隣で、草壁がニカッと歯を見せて笑う。
早翔は呆れ顔でふうと息を一つ吐いた。
「直の本業は大学生だろ。それを忘れるなよ。まあ、週2でバイトに入れておいてやる」
「俺、あの女からクビにされたんじゃないの?」
「彼女はオーナーだけど、ホストの採用には俺も関わってるから。ホストは各種取り揃えたいから、オラオラ系のホストも必要だしね。レギュラーで入れるより希少価値持たせたほうが客も付くだろ」
「週4で入れて」
「ダメだ。勉強しろ、勉強」
「お前は俺の母親かよ」
「…じゃあ、間を取って週3。それで十分だ」
草壁が「それで我慢するよ… ママ」と返し、二人は、また声を出して笑い合う。
「早翔って源氏名なんだな。さっき、ババアが言ってた」
「ババアじゃない。蘭子さんだよ。黒田蘭子。俺たちよりちょうど十歳上」
「30歳! 50近い風格がある」
殺されるぞと早翔が苦笑する。
「直の源氏名は? まんま直也?」
「なおざえもん」
「は?」
「直左衛門だ。この名前に興味持たれて何人指名が入ったか… 何かおかしいか」
「ふざけてるだろ、それ」
早翔が鼻で笑いながら顔をゆがめる。
「ふざけてやってていいんだろ? 本業は大学生なんだから。ね、ママ」
ホールに二人の笑い声が響いた。
「俺に惚れ直した?」
早翔が吹き出して笑う。おもむろに目線を外して正面を見据える。
「もうずっと惚れてるよ」
「悪いな、ゲイになれなくて」
「親友のままでいてくれた。それだけで十分なのに…」
下を向いてはにかむように微笑む。
「恋人になれないと、俺は親友まで失わないといけないのか… 直にそう言われたあの時ほど、心が震える瞬間にまだ出会えてないよ」
草壁が「キザだな」と笑って早翔を見つめる。
「俺、また七瀬と机を並べて勉強したい。お前が一緒でないと俺、勉強する気になれないんだ」
「何、甘えたこと言ってるんだよ」
草壁が早翔の両肩を掴んだ。
「頼む。俺と一緒に会計士の予備校に通ってくれ。そのための金は貯めた。俺のやる気のために一緒に行ってくれ」
「何を言ってる…」
思いも寄らない唐突な提案に、早翔が声を詰まらせる。
「やっぱ、お前の言う通りホスト最強だよな。あっという間に目標額貯まったわ」
そんな簡単な話ではないことは早翔が一番知っていた。
おどけた口調で、顔をクシャッとさせて笑い、早翔に気を遣わせまいとしてるのが痛いほどわかる。
早翔の苦境を救うために自分ができることを必死で考えたのだろう、一切連絡もせず、同じホストに身を置いて働いていた草壁の、この2年の月日を思うと、胸が張り裂けるような思いがして涙が溢れた。
早翔は片手で涙を拭って、何度か目を瞬かせた。
「君は… どこまで俺を苦しめたいんだよ…… こんなの親友以上だ」
「最高の褒め言葉だな。こんだけ喜ばれると遣り甲斐あるわぁ」と、相変わらずの口調だ。
「こんなことされたら期待するだろうが…… 押し倒すぞ…」
「その時はまたあの時みたいに容赦なく蹴り入れる。んで、俺たちは親友だろうがぁって叫んでやる」
それは、寮の早翔の部屋でふざけ合ってた時のことだった。何かの拍子で下になった草壁に、早翔の顔が近づいた瞬間、腹に草壁の蹴りが入った。
「あれは酷かった。何もしてないのに蹴られた」
「いや、あれはキスしようとしてただろうが」
早翔が「してないよ」と、懐かしそうな笑顔を見せると、草壁は「でも毎日、楽しかったよなぁ」と声を出して笑う。
しばらく二人で笑い合った後、草壁がため息を漏らした。
「次のバイト探さないと。タダで酒が飲めるバイト」
「酒飲むためにバイトするのかよ」
「金は入るし酒は飲めるし、お姉ちゃんとデートできるし、ホストは一石何鳥にもなるんだ」
「はぁ?」と顔をゆがめる早翔の隣で、草壁がニカッと歯を見せて笑う。
早翔は呆れ顔でふうと息を一つ吐いた。
「直の本業は大学生だろ。それを忘れるなよ。まあ、週2でバイトに入れておいてやる」
「俺、あの女からクビにされたんじゃないの?」
「彼女はオーナーだけど、ホストの採用には俺も関わってるから。ホストは各種取り揃えたいから、オラオラ系のホストも必要だしね。レギュラーで入れるより希少価値持たせたほうが客も付くだろ」
「週4で入れて」
「ダメだ。勉強しろ、勉強」
「お前は俺の母親かよ」
「…じゃあ、間を取って週3。それで十分だ」
草壁が「それで我慢するよ… ママ」と返し、二人は、また声を出して笑い合う。
「早翔って源氏名なんだな。さっき、ババアが言ってた」
「ババアじゃない。蘭子さんだよ。黒田蘭子。俺たちよりちょうど十歳上」
「30歳! 50近い風格がある」
殺されるぞと早翔が苦笑する。
「直の源氏名は? まんま直也?」
「なおざえもん」
「は?」
「直左衛門だ。この名前に興味持たれて何人指名が入ったか… 何かおかしいか」
「ふざけてるだろ、それ」
早翔が鼻で笑いながら顔をゆがめる。
「ふざけてやってていいんだろ? 本業は大学生なんだから。ね、ママ」
ホールに二人の笑い声が響いた。
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