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初めて小学校に行く日。
それは概ね誰もが希望を感じた日だろう。
今ではすっかり荒んでしまった人でも、お金を儲けて豪遊するようになった人でも、小学生の頃は希望を持って、最近ようやく出来るようになったスキップでもしながらこれから六年間約千二百日通ることになる道を楽しく歩いたことだろう。全てが新鮮で、美しく感じたあの時は本当にかけがえのないものなのだ。
そんな経験を、今、一人の少女がしようとしていた。
彼女の名前は枝葉薈榎。この春、近所の小学校に入学し、勉学に勤しむ予定の小学一年生だ。家族は父親と母親と薈榎の三人暮らしで仲はまあまあ良く、近隣住民に迷惑を掛けるわけにはいかないからという理由で薈榎が産まれると同時期に引っ越すほどアグレッシブだが、子どもだけでなく周りの迷惑も考えられる良い家族として界隈では有名だった。
薈榎が穢れを知らず真っ直ぐ育てられたのは少なくともこの両親のお蔭だろう。
そんな薈榎がいよいよ小学生になった。そりゃあ両親は嬉しかったし、薈榎自身も嬉しかった。そして入学式の日、両親は二人とも保護者として来た。薈榎はとても笑っていた。今までで最高の笑顔だ。
この為だけのために両親は生きていたとさえ感じ、幸せを噛みしめていた。
そして翌日、つまり今日、四月二日は薈榎にとって記念すべき初めて一人で登校する日だった。
「いーやーだー!」
だが、薈榎は今窓ガラスを割らんばかりに大声を上げて泣いていた。
当然、ほんの十分ほど前までは、新品の鉛筆、消しゴム、定規等の文房具を新品の筆箱に入れ、母に買って貰ったばかりの水色のランドセルにそれらを詰め、登校する準備をしっかり整え、朝御飯をしっかり食べ、玄関に着くまではできた。
問題はその後だった。玄関に着いた彼女は突然泣き出したのだ。理由は単純明快、いざ一人で登校しようと思うとどんなものにも例え難い寂しさと不安が彼女の小さな心を覆ったのだ。
そこからの彼女は自分の喉や潰れそうなほど大声を上げ、顔が元に戻らなくなるほど顔を歪ませながら泣き続けて、あっという間に十分が過ぎた。
「やだ、やだ!ママとパパ一緒にいないのやだー!」
精神が再び幼児期に戻り、玄関に仰向けで寝転んで駄々をこねる彼女はまるで市場に並べられまいとする釣られたての鮮魚のようだ。
その光景に少し笑いそうになりながらも母親と父親は何とか取引を持ちかけて、立ち上がらせ、通学路につかせるのだった。
もう二度と彼女が自分の脚でその道を通ることも、自分たちの我が手に我が子が帰ってくることがないことも知らずに。
それは概ね誰もが希望を感じた日だろう。
今ではすっかり荒んでしまった人でも、お金を儲けて豪遊するようになった人でも、小学生の頃は希望を持って、最近ようやく出来るようになったスキップでもしながらこれから六年間約千二百日通ることになる道を楽しく歩いたことだろう。全てが新鮮で、美しく感じたあの時は本当にかけがえのないものなのだ。
そんな経験を、今、一人の少女がしようとしていた。
彼女の名前は枝葉薈榎。この春、近所の小学校に入学し、勉学に勤しむ予定の小学一年生だ。家族は父親と母親と薈榎の三人暮らしで仲はまあまあ良く、近隣住民に迷惑を掛けるわけにはいかないからという理由で薈榎が産まれると同時期に引っ越すほどアグレッシブだが、子どもだけでなく周りの迷惑も考えられる良い家族として界隈では有名だった。
薈榎が穢れを知らず真っ直ぐ育てられたのは少なくともこの両親のお蔭だろう。
そんな薈榎がいよいよ小学生になった。そりゃあ両親は嬉しかったし、薈榎自身も嬉しかった。そして入学式の日、両親は二人とも保護者として来た。薈榎はとても笑っていた。今までで最高の笑顔だ。
この為だけのために両親は生きていたとさえ感じ、幸せを噛みしめていた。
そして翌日、つまり今日、四月二日は薈榎にとって記念すべき初めて一人で登校する日だった。
「いーやーだー!」
だが、薈榎は今窓ガラスを割らんばかりに大声を上げて泣いていた。
当然、ほんの十分ほど前までは、新品の鉛筆、消しゴム、定規等の文房具を新品の筆箱に入れ、母に買って貰ったばかりの水色のランドセルにそれらを詰め、登校する準備をしっかり整え、朝御飯をしっかり食べ、玄関に着くまではできた。
問題はその後だった。玄関に着いた彼女は突然泣き出したのだ。理由は単純明快、いざ一人で登校しようと思うとどんなものにも例え難い寂しさと不安が彼女の小さな心を覆ったのだ。
そこからの彼女は自分の喉や潰れそうなほど大声を上げ、顔が元に戻らなくなるほど顔を歪ませながら泣き続けて、あっという間に十分が過ぎた。
「やだ、やだ!ママとパパ一緒にいないのやだー!」
精神が再び幼児期に戻り、玄関に仰向けで寝転んで駄々をこねる彼女はまるで市場に並べられまいとする釣られたての鮮魚のようだ。
その光景に少し笑いそうになりながらも母親と父親は何とか取引を持ちかけて、立ち上がらせ、通学路につかせるのだった。
もう二度と彼女が自分の脚でその道を通ることも、自分たちの我が手に我が子が帰ってくることがないことも知らずに。
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