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婚姻費用請求と妻の猟奇な仕返し〜後編〜
「準備は万端。
私を騙したらどうなるか。
思い知らせてやる。
綾香は自宅の最終確認をするとふっとその口元を緩ませた。
「久しぶりの我が家だ。幸せだな」
颯はそういうと部屋の中に入る。
「夜の薬は飲んだ?布団も干して、シーツも洗濯してるよ。移動、疲れたんじゃない?」
「ありがとう」
颯はそういうと布団の中に入る。
「はい。お水。睡眠薬飲んで寝てるんでしょ?」
「何から何まで本当に綾香は優しい。それに比べて俺は・・・」
「夫婦なんだから。薬どれ?」
「自分でとる」
さっと颯のボストンバッグを開けようとした綾香を颯は制するとカバンの中からピルケースを出す。
そしてその中から1錠取り出すと颯は口の中に放り込んだ。
計画的鬱だから本当に抗不安剤や抗うつ剤は飲まない。
そもそも病院も綾香がいる時の1、2度しか行っていない。
処方された薬はゴミ箱に捨てた。
こうやって綾香がいる時にだけ適当なサプリメントをピルケースに入れておき飲んでいる。まぁ、睡眠薬は不摂生な生活をしていて夜に寝ることはできないから本当に飲むんだけどな。
しっかり颯が寝たことを確認すると綾香はピルケースを見る。
病院から処方される錠剤には製造番号が載っているし何の薬を処方されているかは病院について行った時に把握済み。
この人、薬を飲んでない。
「綾香?」
翌朝、起きてきた颯は机の上に置かれているピルケースに少しだけ眉を顰めた。
「これ、病院から出された薬じゃないんじゃない?薬の製造番号も何も書いてないわよ」
「・・・ごめん」
ガバッと颯はその場に土下座をする。
「ごめん!本当にごめんなさい。く、薬に頼るなんて弱い男になりたくなくて。ごめんなさいっっ!」
子供のように謝る颯に綾香は眉間に皺を寄せる。
「お、俺っ!俺なりに綾香のために早く元気になろうと思って調べたんだ!く、薬は精子に影響するって!ほら、綾香、子供欲しいと言ってたし。プラシーボ効果っていうやつ!あれは違う薬を飲んでも50%くらい効くって」
一応、筋は通ってるようだけれど・・・。
この人はバツ2。
「今は子作りは考えずにちゃんと薬を飲んで元気になろう」
「く、薬を飲むと俺が俺じゃなくなるみたいなんだ!飲みたくない!飲みたくないよ!」
そう言って颯は床に頭を軽く打ち付ける。
「俺は俺でなくなるのが嫌なんだ。綾香の方が大好きな俺でいさせてくれ」
「・・・。薬が体質に合ってないのかな?こないだ行ってた総合病院ってどこだっけ?一緒に行こう」
2万円検査にかかったんだから、行ってないとは言わせないわ。
綾香は颯の隣に膝をつき優しく尋ねる。
「赤十字総合病院だから急には予約取れないよ」
そういうと颯はベランダのドアを開ける。
「楽になりたい。綾香と・・・」
ベランダを開けた手を綾香は掴む。
「死にたいということ?私は嫌だよ」
「俺はどうしたら良いんだ」
颯はそういうと腕を引っ張る綾香をみる。
「こないだの心療内科は?」
「一人で月曜日にいく。せっかく綾香と居られるんだったら一緒に居たいんだ。だめ・・・かな?」
「本当に月曜日に1人で行けるの?」
「・・・信じてくれないのか。そうだよな。幸せにすると約束して結婚したのに。今の状況は俺が幸せにしてもらってるもんな」
颯は台所に向かうと包丁を取り出す。
そして喉元に歯をあてた。
「信じてるよ!」
包丁を握る腕を綾香は握る。
「ありがとう」
金蔓である私を颯は傷つけることはしないだろうが。
こう何度も刃物を持たれるのは正直怖い。
颯自身が演技ではなかった時は本当に死なれたら後悔しか残らないし。
演技だった場合は綾香自身の命がかかっている。
「気分転換にお散歩とかどうだろ?」
「いいね。久しぶりにエオンショッピングモールでも行って映画でもどうだろ?」
「気になってる映画あるの?」
「北川景が主演のアクション映画」
「アクション映画は今の颯の体に障らない?銭湯に行って広いお風呂とかはどう?血流も良くなるし」
「老人夫婦みたい。俺の事に気を遣ってくれてありがとう」
ちっ。
久しぶりに映画に行きたかったけど、しゃーない。
月曜日に心療内科の医者に気分転換に映画を勧められたとか。
関心のあることはどんどんやったほうが回復が早いとか適当に言って金を巻き上げて行くか。
この女は年収と甘い言葉で靡くと思って結婚したが、思ってたよりも財布の紐が硬いのは出会って半年。
結婚して1年だからか?もう少し後にしたらよかったか?
でも、後にしたら結婚式の下見だの何だのさせられてただろうし。そもそも過去に2回結婚してたがどの女も2.3ヶ月したら要求だの小言だのが多くなる。
まぁ、銭湯は別々に入るし良い時間潰しになるか。
綾香の向かった先は男女別の大浴場が1つ、露天風呂が3個、サウナもある銭湯。
「2時間後に待ち合わせでいい?それとも3時間後?」
待合スペースには漫画も置いてあり時間は柔軟に潰せる。
「3時間後にしようか。先に上がったらあそこの漫画スペースにいるから」
綾香は頷くと女湯に入るがすぐに出ると多目的トイレに向かう。
そして家に取り付けたカメラを携帯でみた。
薬を飲んでないと自白したところ、ベランダに向かって飛び降りようとしてるところ、包丁を喉に当てるところが映っている。
残念ながら音声が小さいが・・・・。今、考えていることは成し得そうだ。
「綾香。今日はとっても幸せだった」
「うん」
夜、颯はそういうと綾香は布団を離して電気を消す。
「・・・遠くない?」
「睡眠はしっかり取らないと。ただでさえ睡眠薬飲んでるんだからね?おやすみ」
「母さんが昨日、階段から落ちて入院したんだ」
「えっ!どこの病院?怪我の具合は?」
「骨折だから大丈夫。階段から足を踏み外したなんて恥ずかしいからお見舞いはいらないらしい」
「そう。今から行くね!15分後に」
「明日も仕事だろう?来なくていいって」
「大丈夫!あなた以上に大切なことなんてないわ」
「綾香っ!きてくれてありがとう」
「さぁ。帰るわよ。荷物は?」
「大丈夫。戸締りもしといたから」
ちっ。
晶は内心、舌打ちをするが助手席に乗り込むと深く座り腕を顔に当てる。
「・・・ごめん・・・な」
「大丈夫。一緒にゆっくり元気になろう。颯が生きててくれるだけで私は幸せ」
ふっ。
ちょろい女だ。
「俺が生きてられるのは綾香のおかげだ」
「これ。スムージー。さっきコンビニで買って1口飲んじゃったんだけど」
「ありがとう」
「お母さん、階段から落ちたなら夜ご飯まだでしょう?一気にぐいっと飲んじゃって」
そしたら、ぐっすり眠れるわよ。
大急ぎでたくさん睡眠薬を砕いて入れたんだから。
綾香は手渡すと颯はなんの迷いもなく飲み干した。
しっかり寝たのを確認すると車を実家の前に止める。
「え!お、お、お母さん!」
玄関のドアを勢いよく開けると狭いマンションの玄関からリビングまで全てが見渡せる。
「階段から落ちたんじゃなかったんですか!えっ!骨折は?さっき30万。骨折と聞いたから颯に渡したのに!え?あっ嘘だったんですか!」
大きな声でいう綾香に義母は慌てたように口に人差し指を立てる。
ご近所に聞かれたくないのだろう。
「あ、綾香さん。ち、違うの。骨折は本当よ!でもさ、鎖骨だったから。さっき退院してきたの。ほら入院ってお金がかかるでしょう?」
鎖骨はS字にカーブをしていてヒビが入ったとしても腕や足のようにまっすぐな骨ではないので固定はできない。
本当に呼吸をするように嘘をつく女ね。
綾香は内心呆れつつも胸の前で手を組む。
「え!鎖骨ヒビですか?!颯さんの支えのお母さんが死ななくてよかったです。あ、階段から落ちたならご近所の方も大きな音に気がつかれましたよね?お礼をしなきゃ。どなたが助けてくださったんですか?颯は車を持ってないし救急車で搬送されたんですよね?遠くの親戚より近くの他人。ご近所付き合いは大切です。お隣の山田さんですか?それとも、下の階の青山さんですか?」
「お、大きな声で騒がないでちょうだい。あのね、そのね」
「お母さん!階段から落ちて助けて頂いたというおおきな・・・」
「嘘なのよ。静かにして玄関のドアを閉めてちょうだい」
義母は綾香が家に戻ってくるなんて予想外だったのだろう。
慌てたように綾香を制する。
「実はね・・・。颯が婚姻費用請求の希望額が綾香さんに断られて。病院代はどうしよう。まずはちゃんと病院に通って元気になってからじゃないと再就職できないのって失望して。自殺をしようとして・・・。大切な息子を止めたら・・・。錯乱してね。突き飛ばされたのよ」
「突き飛ばされたんですって!警察に・・・」
「だから、大袈裟よ!大丈夫だから。私が勝手に転んだの。ね?綾香さん、それより颯は?」
「・・・本当に大丈夫なんですか?お義母さん」
「大丈夫よ。だから・・・」
「夫婦は助け合うもの。明日から1週間、有給を取ったので1週間、颯と向き合ってみますね。何かあったらお義母さん。すぐに言ってくださいね!」
綾香は靴を履いたまま玄関に上がるとぎゅっと義母を抱きしめる。
本当に鎖骨にヒビが入っているのならば痛みに声をあげるだろうが。
義母は涼しい顔で綾香を軽く抱き返す。
鎖骨のヒビも嘘ね。
「今日は家に颯さんを残してきたので失礼します。お義母さん、おやすみなさい。戸締りを確認しに戻ってきたので。お義母さん、最近、物騒なこともありますし戸締りをしてくださいね」
「え、ええ。おやすみなさい。あの・・・綾香さん。夫婦助け合ってね」
「はい」
にっこり微笑むと綾香は玄関のドアをしめた。
車に乗り込むと向かうのは警察署。
「あ、あの。助けてください」
義母の先ほどの颯に突き飛ばされた時の会話の切り抜き。
自宅で自殺しようとした動画は今から成し得ようとすることのいい証拠になる。
「夫は今、処方されていた睡眠薬を一気にたくさん飲んで。私は車の運転をしてたから止められなくて」
警察署の真ん前に止めた車に警察官5人を従え、綾香は助手席にシートベルトなしで座ったまま眠る颯に抱きついた。
「死なないで!」
綾香は颯の肩を軽く叩く。
規定の数倍の量を飲ませたので早々に目覚めはしないだろうが。
ここで起きられたら手間が増える。
「救急車1台お願いします。鬱病の自殺願望、他害行為ありの男性33歳が睡眠薬過剰摂取」
警察官は綾香に颯から離れるように促しつつ救急車を手配すると5分と経たずに救急車はかけつける。
「お願いします。これが夫の飲んでいた薬です。でもこんなんじゃ夫の鬱には効かない。もっと強い薬をください。ううん。夫を私1人では守りきれない。夫を入院させて」
救急隊員は淡々と口を開く。
「自傷行為、同居の母親を傷つける他害行為ありなので。緊急強制措置入院となります。72時間間は安全のために身体拘束もさせていただきます。原則、緊急強制措置入院の場合は72時間は面会はできないかと思いますが、医師2名から聞き取りがあります」
「はい。よろしくお願いします。あ、あの。夫はプライドが高いので自分は鬱じゃない。演技だというんじゃないかなと・・・思うのですが」
「この手の患者さんは6割くらいの方がそう言うので大丈夫ですが。医師に錯乱している動画などは見せた方が、正確な診断につながると思います」
「はい。・・・ありがとうございます」
「奥さんも車を警察署の駐車場に、移動させた後に救急車に乗ってください」
「はい。わかりました」
救急隊員とは初めて話すけど、淡々としているわね。
まぁ、パニックになっている人と常日頃から接しているからかしら?
72時間の緊急強制措置入院の後は綾香の動画を元に速やかに措置入院となった。
「夫の様子はどうですか?」
「自分は鬱じゃない。演技だと言い続けています」
「そうですか。・・・あの。夫と少しの間ですが離れてみて思ったんです。自殺をしようとして止めるたびに身体中に痣ができて。それが普通だと思ってたんですけど・・・。そうじゃなかったのかなって」
「旦那さんはまず、自分の自称行為をしないと言う確証を経たのちになりますので。奥さんもちょっと休んでください」
「仕事に打ち込んでる時の方が楽しくて。私は仕事。・・・残業が終わってからじゃないと平日はサポートできないし。義母は彼を間違った愛情で庇ってばかりで頼らない。彼は薬を溜め込んで一気に飲むし。できたら長く入院をお願いしたいです」
「とりあえず6ヶ月は延長ですね」
「ありがとうございます」
入院病棟に主治医と面談を終えると綾香は向かい夫の部屋に入る。
「綾香!証言してくれ!俺は普通だ」
「普通なわけないでしょう。喉を何回切ったの?止めようとしたお義母さんを突き飛ばして起き上がれないようにしたのに、階段から落ちたなんて嘘ついたり。お義母様もお義母様であなたが暴行で逮捕されされないように庇って」
颯は拘束具をつけられた夫を冷たく見下ろす。
「こ、こ・・・ここから出してくれ」
綾香は優しく微笑みながら晶の耳元で囁く。
「医療費負担が1割。婚姻費用請求。毎月3万ちゃんと宣言通り払い続けてあげる」
耳元で囁く綾香に夫は青ざめた。
「酒もタバコも女遊びもなし。ふふふ。・・・名俳優はあなただけじゃないわ」
「なっ」
颯は声鳴き声をあげる。
「さよなら」
私を騙したらどうなるか。
思い知らせてやる。
綾香は自宅の最終確認をするとふっとその口元を緩ませた。
「久しぶりの我が家だ。幸せだな」
颯はそういうと部屋の中に入る。
「夜の薬は飲んだ?布団も干して、シーツも洗濯してるよ。移動、疲れたんじゃない?」
「ありがとう」
颯はそういうと布団の中に入る。
「はい。お水。睡眠薬飲んで寝てるんでしょ?」
「何から何まで本当に綾香は優しい。それに比べて俺は・・・」
「夫婦なんだから。薬どれ?」
「自分でとる」
さっと颯のボストンバッグを開けようとした綾香を颯は制するとカバンの中からピルケースを出す。
そしてその中から1錠取り出すと颯は口の中に放り込んだ。
計画的鬱だから本当に抗不安剤や抗うつ剤は飲まない。
そもそも病院も綾香がいる時の1、2度しか行っていない。
処方された薬はゴミ箱に捨てた。
こうやって綾香がいる時にだけ適当なサプリメントをピルケースに入れておき飲んでいる。まぁ、睡眠薬は不摂生な生活をしていて夜に寝ることはできないから本当に飲むんだけどな。
しっかり颯が寝たことを確認すると綾香はピルケースを見る。
病院から処方される錠剤には製造番号が載っているし何の薬を処方されているかは病院について行った時に把握済み。
この人、薬を飲んでない。
「綾香?」
翌朝、起きてきた颯は机の上に置かれているピルケースに少しだけ眉を顰めた。
「これ、病院から出された薬じゃないんじゃない?薬の製造番号も何も書いてないわよ」
「・・・ごめん」
ガバッと颯はその場に土下座をする。
「ごめん!本当にごめんなさい。く、薬に頼るなんて弱い男になりたくなくて。ごめんなさいっっ!」
子供のように謝る颯に綾香は眉間に皺を寄せる。
「お、俺っ!俺なりに綾香のために早く元気になろうと思って調べたんだ!く、薬は精子に影響するって!ほら、綾香、子供欲しいと言ってたし。プラシーボ効果っていうやつ!あれは違う薬を飲んでも50%くらい効くって」
一応、筋は通ってるようだけれど・・・。
この人はバツ2。
「今は子作りは考えずにちゃんと薬を飲んで元気になろう」
「く、薬を飲むと俺が俺じゃなくなるみたいなんだ!飲みたくない!飲みたくないよ!」
そう言って颯は床に頭を軽く打ち付ける。
「俺は俺でなくなるのが嫌なんだ。綾香の方が大好きな俺でいさせてくれ」
「・・・。薬が体質に合ってないのかな?こないだ行ってた総合病院ってどこだっけ?一緒に行こう」
2万円検査にかかったんだから、行ってないとは言わせないわ。
綾香は颯の隣に膝をつき優しく尋ねる。
「赤十字総合病院だから急には予約取れないよ」
そういうと颯はベランダのドアを開ける。
「楽になりたい。綾香と・・・」
ベランダを開けた手を綾香は掴む。
「死にたいということ?私は嫌だよ」
「俺はどうしたら良いんだ」
颯はそういうと腕を引っ張る綾香をみる。
「こないだの心療内科は?」
「一人で月曜日にいく。せっかく綾香と居られるんだったら一緒に居たいんだ。だめ・・・かな?」
「本当に月曜日に1人で行けるの?」
「・・・信じてくれないのか。そうだよな。幸せにすると約束して結婚したのに。今の状況は俺が幸せにしてもらってるもんな」
颯は台所に向かうと包丁を取り出す。
そして喉元に歯をあてた。
「信じてるよ!」
包丁を握る腕を綾香は握る。
「ありがとう」
金蔓である私を颯は傷つけることはしないだろうが。
こう何度も刃物を持たれるのは正直怖い。
颯自身が演技ではなかった時は本当に死なれたら後悔しか残らないし。
演技だった場合は綾香自身の命がかかっている。
「気分転換にお散歩とかどうだろ?」
「いいね。久しぶりにエオンショッピングモールでも行って映画でもどうだろ?」
「気になってる映画あるの?」
「北川景が主演のアクション映画」
「アクション映画は今の颯の体に障らない?銭湯に行って広いお風呂とかはどう?血流も良くなるし」
「老人夫婦みたい。俺の事に気を遣ってくれてありがとう」
ちっ。
久しぶりに映画に行きたかったけど、しゃーない。
月曜日に心療内科の医者に気分転換に映画を勧められたとか。
関心のあることはどんどんやったほうが回復が早いとか適当に言って金を巻き上げて行くか。
この女は年収と甘い言葉で靡くと思って結婚したが、思ってたよりも財布の紐が硬いのは出会って半年。
結婚して1年だからか?もう少し後にしたらよかったか?
でも、後にしたら結婚式の下見だの何だのさせられてただろうし。そもそも過去に2回結婚してたがどの女も2.3ヶ月したら要求だの小言だのが多くなる。
まぁ、銭湯は別々に入るし良い時間潰しになるか。
綾香の向かった先は男女別の大浴場が1つ、露天風呂が3個、サウナもある銭湯。
「2時間後に待ち合わせでいい?それとも3時間後?」
待合スペースには漫画も置いてあり時間は柔軟に潰せる。
「3時間後にしようか。先に上がったらあそこの漫画スペースにいるから」
綾香は頷くと女湯に入るがすぐに出ると多目的トイレに向かう。
そして家に取り付けたカメラを携帯でみた。
薬を飲んでないと自白したところ、ベランダに向かって飛び降りようとしてるところ、包丁を喉に当てるところが映っている。
残念ながら音声が小さいが・・・・。今、考えていることは成し得そうだ。
「綾香。今日はとっても幸せだった」
「うん」
夜、颯はそういうと綾香は布団を離して電気を消す。
「・・・遠くない?」
「睡眠はしっかり取らないと。ただでさえ睡眠薬飲んでるんだからね?おやすみ」
「母さんが昨日、階段から落ちて入院したんだ」
「えっ!どこの病院?怪我の具合は?」
「骨折だから大丈夫。階段から足を踏み外したなんて恥ずかしいからお見舞いはいらないらしい」
「そう。今から行くね!15分後に」
「明日も仕事だろう?来なくていいって」
「大丈夫!あなた以上に大切なことなんてないわ」
「綾香っ!きてくれてありがとう」
「さぁ。帰るわよ。荷物は?」
「大丈夫。戸締りもしといたから」
ちっ。
晶は内心、舌打ちをするが助手席に乗り込むと深く座り腕を顔に当てる。
「・・・ごめん・・・な」
「大丈夫。一緒にゆっくり元気になろう。颯が生きててくれるだけで私は幸せ」
ふっ。
ちょろい女だ。
「俺が生きてられるのは綾香のおかげだ」
「これ。スムージー。さっきコンビニで買って1口飲んじゃったんだけど」
「ありがとう」
「お母さん、階段から落ちたなら夜ご飯まだでしょう?一気にぐいっと飲んじゃって」
そしたら、ぐっすり眠れるわよ。
大急ぎでたくさん睡眠薬を砕いて入れたんだから。
綾香は手渡すと颯はなんの迷いもなく飲み干した。
しっかり寝たのを確認すると車を実家の前に止める。
「え!お、お、お母さん!」
玄関のドアを勢いよく開けると狭いマンションの玄関からリビングまで全てが見渡せる。
「階段から落ちたんじゃなかったんですか!えっ!骨折は?さっき30万。骨折と聞いたから颯に渡したのに!え?あっ嘘だったんですか!」
大きな声でいう綾香に義母は慌てたように口に人差し指を立てる。
ご近所に聞かれたくないのだろう。
「あ、綾香さん。ち、違うの。骨折は本当よ!でもさ、鎖骨だったから。さっき退院してきたの。ほら入院ってお金がかかるでしょう?」
鎖骨はS字にカーブをしていてヒビが入ったとしても腕や足のようにまっすぐな骨ではないので固定はできない。
本当に呼吸をするように嘘をつく女ね。
綾香は内心呆れつつも胸の前で手を組む。
「え!鎖骨ヒビですか?!颯さんの支えのお母さんが死ななくてよかったです。あ、階段から落ちたならご近所の方も大きな音に気がつかれましたよね?お礼をしなきゃ。どなたが助けてくださったんですか?颯は車を持ってないし救急車で搬送されたんですよね?遠くの親戚より近くの他人。ご近所付き合いは大切です。お隣の山田さんですか?それとも、下の階の青山さんですか?」
「お、大きな声で騒がないでちょうだい。あのね、そのね」
「お母さん!階段から落ちて助けて頂いたというおおきな・・・」
「嘘なのよ。静かにして玄関のドアを閉めてちょうだい」
義母は綾香が家に戻ってくるなんて予想外だったのだろう。
慌てたように綾香を制する。
「実はね・・・。颯が婚姻費用請求の希望額が綾香さんに断られて。病院代はどうしよう。まずはちゃんと病院に通って元気になってからじゃないと再就職できないのって失望して。自殺をしようとして・・・。大切な息子を止めたら・・・。錯乱してね。突き飛ばされたのよ」
「突き飛ばされたんですって!警察に・・・」
「だから、大袈裟よ!大丈夫だから。私が勝手に転んだの。ね?綾香さん、それより颯は?」
「・・・本当に大丈夫なんですか?お義母さん」
「大丈夫よ。だから・・・」
「夫婦は助け合うもの。明日から1週間、有給を取ったので1週間、颯と向き合ってみますね。何かあったらお義母さん。すぐに言ってくださいね!」
綾香は靴を履いたまま玄関に上がるとぎゅっと義母を抱きしめる。
本当に鎖骨にヒビが入っているのならば痛みに声をあげるだろうが。
義母は涼しい顔で綾香を軽く抱き返す。
鎖骨のヒビも嘘ね。
「今日は家に颯さんを残してきたので失礼します。お義母さん、おやすみなさい。戸締りを確認しに戻ってきたので。お義母さん、最近、物騒なこともありますし戸締りをしてくださいね」
「え、ええ。おやすみなさい。あの・・・綾香さん。夫婦助け合ってね」
「はい」
にっこり微笑むと綾香は玄関のドアをしめた。
車に乗り込むと向かうのは警察署。
「あ、あの。助けてください」
義母の先ほどの颯に突き飛ばされた時の会話の切り抜き。
自宅で自殺しようとした動画は今から成し得ようとすることのいい証拠になる。
「夫は今、処方されていた睡眠薬を一気にたくさん飲んで。私は車の運転をしてたから止められなくて」
警察署の真ん前に止めた車に警察官5人を従え、綾香は助手席にシートベルトなしで座ったまま眠る颯に抱きついた。
「死なないで!」
綾香は颯の肩を軽く叩く。
規定の数倍の量を飲ませたので早々に目覚めはしないだろうが。
ここで起きられたら手間が増える。
「救急車1台お願いします。鬱病の自殺願望、他害行為ありの男性33歳が睡眠薬過剰摂取」
警察官は綾香に颯から離れるように促しつつ救急車を手配すると5分と経たずに救急車はかけつける。
「お願いします。これが夫の飲んでいた薬です。でもこんなんじゃ夫の鬱には効かない。もっと強い薬をください。ううん。夫を私1人では守りきれない。夫を入院させて」
救急隊員は淡々と口を開く。
「自傷行為、同居の母親を傷つける他害行為ありなので。緊急強制措置入院となります。72時間間は安全のために身体拘束もさせていただきます。原則、緊急強制措置入院の場合は72時間は面会はできないかと思いますが、医師2名から聞き取りがあります」
「はい。よろしくお願いします。あ、あの。夫はプライドが高いので自分は鬱じゃない。演技だというんじゃないかなと・・・思うのですが」
「この手の患者さんは6割くらいの方がそう言うので大丈夫ですが。医師に錯乱している動画などは見せた方が、正確な診断につながると思います」
「はい。・・・ありがとうございます」
「奥さんも車を警察署の駐車場に、移動させた後に救急車に乗ってください」
「はい。わかりました」
救急隊員とは初めて話すけど、淡々としているわね。
まぁ、パニックになっている人と常日頃から接しているからかしら?
72時間の緊急強制措置入院の後は綾香の動画を元に速やかに措置入院となった。
「夫の様子はどうですか?」
「自分は鬱じゃない。演技だと言い続けています」
「そうですか。・・・あの。夫と少しの間ですが離れてみて思ったんです。自殺をしようとして止めるたびに身体中に痣ができて。それが普通だと思ってたんですけど・・・。そうじゃなかったのかなって」
「旦那さんはまず、自分の自称行為をしないと言う確証を経たのちになりますので。奥さんもちょっと休んでください」
「仕事に打ち込んでる時の方が楽しくて。私は仕事。・・・残業が終わってからじゃないと平日はサポートできないし。義母は彼を間違った愛情で庇ってばかりで頼らない。彼は薬を溜め込んで一気に飲むし。できたら長く入院をお願いしたいです」
「とりあえず6ヶ月は延長ですね」
「ありがとうございます」
入院病棟に主治医と面談を終えると綾香は向かい夫の部屋に入る。
「綾香!証言してくれ!俺は普通だ」
「普通なわけないでしょう。喉を何回切ったの?止めようとしたお義母さんを突き飛ばして起き上がれないようにしたのに、階段から落ちたなんて嘘ついたり。お義母様もお義母様であなたが暴行で逮捕されされないように庇って」
颯は拘束具をつけられた夫を冷たく見下ろす。
「こ、こ・・・ここから出してくれ」
綾香は優しく微笑みながら晶の耳元で囁く。
「医療費負担が1割。婚姻費用請求。毎月3万ちゃんと宣言通り払い続けてあげる」
耳元で囁く綾香に夫は青ざめた。
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「なっ」
颯は声鳴き声をあげる。
「さよなら」
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冷たい水を浴びせられている男性……慌ててタオルを持って追いかけると、振り返ったのは、あのTOMAだった。
「……余計なお節介なんだよ」
感動も束の間、TOMAの第一声は冷たい一言だった。
しかもエレベーターの扉が閉まり、気まずい密室に二人きり。
テレビで見せる王子様の笑顔など、どこにもない。
苺依のネームプレートを一瞥したTOMAは、温かいコーヒーを要求した。
そして思いもよらない言葉を告げられる。
「俺の婚約者になれ」
父親から押しつけられる縁談にうんざりしていたTOMAが目をつけたのは、ファンのくせに少しも遠慮しない苺依だった。
苺依はお金のために、その提案を承諾する。
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