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第一章

16 妖精様は王子(狼)の寝床でご就寝

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母親から電話の後、すぐにリビングにいるであろうエリカの元に戻った。
すぐに目を離すと何かしでかすので早足で戻るとソファに座っていた。

安堵のため息を吐いてエリカの隣に腰を落としてエリカにか話しかけようとしたのだが、ふわっと、軽い感触が冬華の二の腕に感じられた。

それと一緒にほのかに甘い香りも漂ってきた。

冬華は首元だけ壊れたロボのように首を回せば瞳を閉じて一定のリズムで寝息を立てているエリカがこちらに寄りかかっていたのだ。


(・・・・ま、じ、か・・・)

声には出さなかったが、というよりは声が出なかった。
何せ今の冬華は激しく動揺していたからだ。

思い返せば今の状態になるのは察しがつく。
この間のスケジュールは半日丸々使っての掃除で、冬華より圧倒的にエリカの方が動いていた。

だから疲れが溜まってもおかしくはないし、仕方がないと言えば仕方がないが・・・・まさかの今の段階で寝落ちをするとは夢にも思っていなかった。

普段あそこまでハードな運動をする事が無い筈なので、体には相当な疲労が溜まっているのは普通である為、睡魔に抗う体力はなかったのだろう。


ーーーー理由は嫌というほど分かる。逆の立場であったとしても自分はこうなる事は目に見えて分かる。

(今、・・・今か~。どうするよコレ)

冬華は頭を抱える。
冬華の肩に寄りかかっているエリカは、何も気にせず実に安らかな顔をして眠っている。

こんな美少女の寝顔を眺められるなんて世の中の男からすれば嬉しい状況であり、いかがわしい事をしたいと思うしそれを実行に移すことも出来るだろう。

だが、今の冬華にはそれどころではないし、折角赤の他人からちょっと話す程度のクラスメイトになれたのでそこのポジションだけは維持はしたい。

以前は関わりがなくなったら、もう終わりだと思っていたのだが、どうもそうは言ってられなくなった。

ここで冬華の取るべき選択は考えられるのは一つ目、エリカを無理矢理起こす。二つ目、エリカを家に返す。
三つ目、冬華の家のベッドで寝かせて自分はソファか床で寝る。


魔術士たる頭脳で考えられるのはこの三つ。もう少しひねれば何か打開策が思いつくかもしれないが、そこは諦めた。

だが問題はどの選択肢が正解か。

一番目はしようと思えば今すぐ出来るが、自分のせいで疲れて熟睡しているエリカを起こすのは申し訳ないし、無理やり起こされるのは冬華も同じことをされても気分が悪いのでやめておく。
出来ればこのまま寝かせてあげたいというのが一番の本音である。

二番目はかなりまともではあるものの、鍵を勝手に取り出し女性の部屋に無断で入るというリスクを冒すという点だ。
それは流石に犯罪者扱いになるのではと思うと恐ろしいので頭から忘れる。対して仲良くもない相手に勝手に家に入られたとしれば嫌われるルートまっしぐらであるからだ。

そして最後のベッドに寝かせるというのは冬華にとっては一番しっくりした。何も手間が掛からないし、尚且つベッドは部屋の中にあって距離もなくすぐに終わる。
だが問題はベッドまで連れて行かなければならない事と、自分のベッドに妖精様と謳われるエリカが寝ている事に対して精神が保つかという事だ。

しかし、この方法が一番無難であることには変わりない。

(・・・・果たして良いものかどうか・・・まぁでも許せ、今回ばかりは寝ているお前が悪い)

冬華は迷ったものの、冬華は覚悟を決めて起こさないようゆっくりエリカを横抱きにする。

よく表現にある、羽根のように軽いとまでは行かないものの、それでもとても軽かった。
重さで例えるのなら、エリカくらいの大きさの抱き枕程の重さだ。

下手をすれば抱き枕より軽いのではと思うほどでもある。

この眠りの深さならば起きる事はないだろうが、冬華はゆっくりと慎重に運んでいく。
横抱きした状態で扉を開けるのは難しいがそこは念力に近い魔術で扉を開ける。

部屋に入ってしまえば後はもうベッドに横にするだけだ。
華奢なエリカをベッドに横にしてその上に毛布と布団をかける。
寝ぼけているのかごろりと寝返りを打って手で何かを掴む動作をし始めた。

恐らく夢で何かを追いかけているのだろう。冬華は部屋を見渡しその辺にあった抱き心地抜群のクッションをエリカの手元に持っていくと、それをぎゅっと抱きしめる。

その動きがあまりにも小動物のような動きでとても可愛らしかった。
こうも観賞用で目の保養になる事があるとは思わなんだと、エリカを見ながら膝から崩れ落ちる。

「はぁ~~~。勘弁してくれ、きっつい」

冬華はこの僅かな事にさえも精神がオーバーヒート仕掛けていた。
それは何故か、学校一の美少女が自分のベッドで寝ているという事実、ふわっと香る甘い匂いに、柔らかい感触と子供のような寝顔というものは思春期の男子にはキツいものがある。

エリカはもう少しここが誰の家かというものを理解するべきであろう。
対して仲良くもない男の家で寝落ちるなど襲ってくださいと言っているようなものだ。

一般の男なら勘違いで襲いかねないし、コレがラブコメやゲームや漫画ならかなり面白い展開だが、お互いにラブもコメも何もかもない相手にはどうしたってそういう状況にはなり得ない。

そう思うと少し気は楽だが、少し気を付けてもらいたいものだ。
出会ってそこまでの時間を過ごしていないが、信頼してくれているのは普通に有難いが、エリカの中での冬華は『自堕落ダメ人間安心安全な男』という感じだろう。

ちらりとエリカを見れば、本当によく寝ている。
この間はは無理をさせてしまったし、今日怪我をしたで大変だったのだろう。

更に常に学校では妖精様としての顔をしているので肩肘ばかり張って疲れているはずだ。

しかし今度から男は狼だという事を分からさなければいけないなと心に誓った。


「・・・おやすみ、紅野」

冬華はエリカの寝顔を見ながらぽつりと小さくそう言って部屋を出る。

壁についているクローゼットを開けて中から毛布を取り出してソファに寝転がる。

「眠い・・・寝るか」

たちまち眠気が襲ってきたので、眠気に抗いたかったが瞼は強制的に閉じて意識はシャットダウンして深い眠りに落ちた。


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