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第一章

短編2話・カレー作り

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1ヶ月ぶりに会話をした紅野エリカは冬華の家に急に訪問してきたかと思ったら夕食を共にしたいと言ってきた。最初は断ったのだが、エリカの執念強い押しに根負けし、不承不承なが了承した。
今は夕食の準備中だ。因みにカレーだ。

冬華とエリカは今2人で野菜を切っている。2人分作るのが普通だが、エリカは何故か4人分作る気なので何も言わずに従っている(殆どエリカが食べます)。
それに作業スピードを優先するなら別々で作業するべきだが、なにぶん作る量が量なので一緒にやったほうが効率はいい。

「そろそろ野菜の方はお任せしてもいいですか?」
「ん?・・ああ、肉でも焼いててくれ」
「ではお願いしますね」

野菜処理を冬華にバトンタッチしてエリカは肉を炒めていく塩胡椒で味付けをして炒めていく。
野菜の皮を剥いて切手を繰り返していくと、隣にいるエリカにちょんちょんと肩を突かれたので隣を向くと菜箸に肉を掴んで「味見をお願いします。一応私もしたのですが貴方にも食べてもらおうかと」と言ってきたので少し屈んで口を開けて肉をぺろりと頂く。
いい塩胡椒加減だ。更にいい肉も使っているので肉だけで美味しい。

「どうですか?」
「うん。美味いよ」
「塩辛くありません?」
「全然。俺好みの味だ」
「なら良かったです・・・あっ、菜箸であげちゃいましたね」
「あっほんとだすまん。洗うから貸してくれ、野菜は終わってるぞ」
「ありがとうございます。じゃあ洗ったらすぐ貸してください。私が野菜も一緒に炒めている間に鍋の用意をしておいてほしいですね」
「了解。・・・マカロニサラダでも作るか?」
「お願いします」

そう言われて鍋の用意し、マカロニサラダの材料を取り出し作り始める。味付けまでしたら味見をする。自分では少しばかり薄いような気がするがエリカはどうだろうか。
味見したスプーンにマカロニを掬って「エリカ、味見」と短く言うと何も言わずに一口食べてくれた。

「どうだ?」
「・・・・問題ありません、とても美味しいですよ。ですが私はもう少し味が濃くても構いません」
「やっぱそうか。少しだけ前作った味付けより薄くしたんだけどもうちっと濃くてもいいのか」

エリカの意見を聞いて再度微調整を行い味見を行う。やはりこのくらいの方がいい。エリカに味見を頼もうと思ったが、視線に気づいたエリカがこちらを凝視しやがて口を開けてきた。手が離せないから食べさせろ、と言う意志を感じたのでスプーンで掬って味見をしてもらう。
咀嚼して飲み込んだのを確認すると笑顔になったような気がする。

「美味しいです。とっても」
「そりゃよかった。他なんかするか?」
「お水ください」
「はいよ。マカロニ作る前に用意しといた」
「・・・お玉と味見用の小皿・・・」
「ん」
「・・・どうも」
「どういたしまして」

この人は気遣いの天才だろうか。そうエリカは思ってしまった。よく周りを見て相手が欲しいものや、して欲しい事を瞬時に直感で感じ取っているのだ。
もっと詳細に言うなら、冬華は自分が相手の立場になった時のことを考えている。自分が相手ならこう言う行動を取る、自分が相手なら先ず何をする、そういう思考を持っているのだ。だからベストなタイミングでサポートができるのだ。
ここまでの能力があるのに何故普段から片付けや家事を全くしないのかは理解に苦しむが、彼の性格上、自分の事は棚上げにするタイプなのだろう。
だったら初めて会話をした次の日、体調を崩しているのなら学校は休む筈だからだ。

彼は一見常識人に見えるが、その実かなりだらしなくダメ人間なのは分かる。それはもう先月から身に染みている。
急に直せとは言わないが、少しは気を付けてもらいたいものだ。
じっと彼を疑わしく、まるで意外な特技を見た時の目で凝視していると視線に気づいた冬華が「どうした?」と声をかけてきたので「いえ」と何食わぬ顔で返す。
調理を進め、後は待つだけとなったところで冬華に皿の準備をしてもらい、マカロニサラダなどは先に机に持って行ってもらう。
最後に味の確認をする為に冬華を呼んで食べてもらう事にした。
「へぇへぇ。すげぇな」
「もうすぐできるので先に座って待って」
「いやいやカレーの皿くらい持ってくって。女の子だけにやらせるかよ」
「・・・・ありがとうございます」

言い終わる前に冬華に言葉を遮られ、更にご飯を盛り付けてくれていた。できたカレーを装ってそのまま机まで運んでくれる姿はまるで・・・・まるで・・・・

(?・・・なんでしょう?)

自分でも何を思ったのかは分からず、冷蔵庫からお茶を取り出してコップに注ぐ。

「じゃあ食おうぜ。腹減った」
「それはそうでしょう。あんな少ないゼリーだけじゃどうしたってお腹が空きますよ」
「悪かったな。めんどくさかったんだよ」
「次からはちゃんとするように。さっ、食べましょ」
「おう」

「「・・・・いただきます」」

2人は手を合わせて、実に1ヶ月ぶりに食事を共にするのだった。この直後こっ酷く怒られ、エリカはカレーは何杯もお代わりするのだった。




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