1 / 12
不幸のタネを拾った
しおりを挟む
日常は不変だと思っていた。
高校2年生の春、新学期が始まって1ヶ月が経とうとしている頃の話だ。
俺には小中高とずっと一緒の幼馴染がいる。これがまさに漫画のような話なのだが、彼女は毎朝俺を迎えに来て、それどころか部屋まで入って起こしてくれるなんてことが当たり前だった。
俺は身長も体重も平均的。スポーツもそこそこ、勉強もそこそこの超平凡な男だが、彼女はちょっとだけ学校でも人気者に近い位置にいる。可愛いと言えば可愛いが、クラスのアイドルみたいな立ち位置になれるほどじゃない。けど誰にでも優しいし、嫌な顔ひとつしないから、へたなクラスのアイドルより男子の中では人気があった。手の届きそうなってやつだ。
そんな娘が幼馴染で毎朝起こしに来てくれるなんて、今思えばすごく幸福なことだったと思う。
ある日のことだ。いつも朝は一緒に登校していたが、帰りはお互いの用事なんかに合わせて時々一緒に帰る。そしてその日もたまたま都合が合ったので一緒に帰路についていた。
「ねえタクミ」
「ん~?」
「私ね明日からタクミのこと起こしに行くのやめるから」
「え? な、何でだよ俺なんか悪いことしちゃったか?」
思えばこの日の彼女の様子は少しおかしかった。何かそわそわしているというか、時々なにかを思い出したようにボーッとしていて、話しかけても気づかないみたいな事があった。体調が悪いのかと思って少し心配していたのを覚えている。
「ううん、タクミが何かしたとかじゃないの。実はは私ね、彼氏ができたんだ」
「え?」
一瞬何を言われたのか分からなかった。ただ覚えているのは、その時の彼女の笑った顔が、自分が今まで見てきた彼女のどんな顔よりも可愛かったってことだけだった。
「もう、驚きすぎだよタクミ」
「あ、ああ」
多分この時の返事は反射的にしたもので、何も考えられてなかったと思う。
「だからね。彼氏にも悪いしタクミを起こしに行くのも、こうやって一緒に帰るのも、これからはやめようと思うの。少なくともしばらくは無し!」
頭の中がグチャグチャだった。動悸が激しくなって、心臓が痛いほどに動いていた。それでも何か返事をしなければ。そう思って咄嗟に口から出た言葉は。
「わかった」
これだった。この時俺が冷静だったら、もっと別の返事が出来ただろうか。いや、これ以外に言えることなんてなかったよな。あんな笑顔見た後じゃ。
「家に着いちゃったね」
「…」
「それじゃあタクミ。またね」
何か声をかけたい。そう思っても声は出なかった。何を言ったらいいのか分からなかったし、酷く気持ちが悪かった。
彼女が家の扉を開けて入っていくのを眺めて、10秒ぐらいしてから自分の家に入った。
誰もいない家で、いつもはそれでも言っていた「ただいま」も言わず、そのまま階段を駆け上がって自分の部屋のベッドに潜った。
そして真っ暗な布団の中で考えて考えて考えて。そして分かったんだ、自分の本当の気持ちが。
俺は彼女が、ミサキのことが好きだったのだと。
これが俺が不幸のタネを拾った瞬間だ。この翌日から俺は、灰色の世界で加速度的に変化していく日常に苦しむことになる。
高校2年生の春、新学期が始まって1ヶ月が経とうとしている頃の話だ。
俺には小中高とずっと一緒の幼馴染がいる。これがまさに漫画のような話なのだが、彼女は毎朝俺を迎えに来て、それどころか部屋まで入って起こしてくれるなんてことが当たり前だった。
俺は身長も体重も平均的。スポーツもそこそこ、勉強もそこそこの超平凡な男だが、彼女はちょっとだけ学校でも人気者に近い位置にいる。可愛いと言えば可愛いが、クラスのアイドルみたいな立ち位置になれるほどじゃない。けど誰にでも優しいし、嫌な顔ひとつしないから、へたなクラスのアイドルより男子の中では人気があった。手の届きそうなってやつだ。
そんな娘が幼馴染で毎朝起こしに来てくれるなんて、今思えばすごく幸福なことだったと思う。
ある日のことだ。いつも朝は一緒に登校していたが、帰りはお互いの用事なんかに合わせて時々一緒に帰る。そしてその日もたまたま都合が合ったので一緒に帰路についていた。
「ねえタクミ」
「ん~?」
「私ね明日からタクミのこと起こしに行くのやめるから」
「え? な、何でだよ俺なんか悪いことしちゃったか?」
思えばこの日の彼女の様子は少しおかしかった。何かそわそわしているというか、時々なにかを思い出したようにボーッとしていて、話しかけても気づかないみたいな事があった。体調が悪いのかと思って少し心配していたのを覚えている。
「ううん、タクミが何かしたとかじゃないの。実はは私ね、彼氏ができたんだ」
「え?」
一瞬何を言われたのか分からなかった。ただ覚えているのは、その時の彼女の笑った顔が、自分が今まで見てきた彼女のどんな顔よりも可愛かったってことだけだった。
「もう、驚きすぎだよタクミ」
「あ、ああ」
多分この時の返事は反射的にしたもので、何も考えられてなかったと思う。
「だからね。彼氏にも悪いしタクミを起こしに行くのも、こうやって一緒に帰るのも、これからはやめようと思うの。少なくともしばらくは無し!」
頭の中がグチャグチャだった。動悸が激しくなって、心臓が痛いほどに動いていた。それでも何か返事をしなければ。そう思って咄嗟に口から出た言葉は。
「わかった」
これだった。この時俺が冷静だったら、もっと別の返事が出来ただろうか。いや、これ以外に言えることなんてなかったよな。あんな笑顔見た後じゃ。
「家に着いちゃったね」
「…」
「それじゃあタクミ。またね」
何か声をかけたい。そう思っても声は出なかった。何を言ったらいいのか分からなかったし、酷く気持ちが悪かった。
彼女が家の扉を開けて入っていくのを眺めて、10秒ぐらいしてから自分の家に入った。
誰もいない家で、いつもはそれでも言っていた「ただいま」も言わず、そのまま階段を駆け上がって自分の部屋のベッドに潜った。
そして真っ暗な布団の中で考えて考えて考えて。そして分かったんだ、自分の本当の気持ちが。
俺は彼女が、ミサキのことが好きだったのだと。
これが俺が不幸のタネを拾った瞬間だ。この翌日から俺は、灰色の世界で加速度的に変化していく日常に苦しむことになる。
0
あなたにおすすめの小説
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
嫌われ公女に転生したけど、愛されたい願望を捨てたら全員がデレてきた
桃瀬さら
恋愛
嫌われ公女ナディアは、婚約破棄され学園で孤立し、家族からも見放されていた。
どれほど努力しようが周囲からは「嫌われ公女」と蔑まれ、誰も味方なんていない。
「もういい。愛されたいなんて、くだらない」
そう心に誓った瞬間から、状況が一変した。
第二王子が婚約破棄を撤回し跪き、寡黙な騎士団長が「君を守りたい」と熱く迫ってくる。
そして、冷ややかな兄まで「婚約など認めない。家を出ることは許さない」と……。
愛されることを諦めた途端、なぜか執着される。
聞き分けよくしていたら婚約者が妹にばかり構うので、困らせてみることにした
今川幸乃
恋愛
カレン・ブライスとクライン・ガスターはどちらも公爵家の生まれで政略結婚のために婚約したが、お互い愛し合っていた……はずだった。
二人は貴族が通う学園の同級生で、クラスメイトたちにもその仲の良さは知られていた。
しかし、昨年クラインの妹、レイラが貴族が学園に入学してから状況が変わった。
元々人のいいところがあるクラインは、甘えがちな妹にばかり構う。
そのたびにカレンは聞き分けよく我慢せざるをえなかった。
が、ある日クラインがレイラのためにデートをすっぽかしてからカレンは決心する。
このまま聞き分けのいい婚約者をしていたところで状況は悪くなるだけだ、と。
※ざまぁというよりは改心系です。
※4/5【レイラ視点】【リーアム視点】の間に、入れ忘れていた【女友達視点】の話を追加しました。申し訳ありません。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
あの素晴らしい愛をもう一度
仏白目
恋愛
伯爵夫人セレス・クリスティアーノは
33歳、愛する夫ジャレッド・クリスティアーノ伯爵との間には、可愛い子供が2人いる。
家同士のつながりで婚約した2人だが
婚約期間にはお互いに惹かれあい
好きだ!
私も大好き〜!
僕はもっと大好きだ!
私だって〜!
と人前でいちゃつく姿は有名であった
そんな情熱をもち結婚した2人は子宝にもめぐまれ爵位も継承し順風満帆であった
はず・・・
このお話は、作者の自分勝手な世界観でのフィクションです。
あしからず!
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
側妃の愛
まるねこ
恋愛
ここは女神を信仰する国。極まれに女神が祝福を与え、癒しの力が使える者が現れるからだ。
王太子妃となる予定の令嬢は力が弱いが癒しの力が使えた。突然強い癒しの力を持つ女性が異世界より現れた。
力が強い女性は聖女と呼ばれ、王太子妃になり、彼女を支えるために令嬢は側妃となった。
Copyright©︎2025-まるねこ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる