狼の獣性

筺 柚人

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 脳をとろかせる甘いささやき。

「……翠」

 温度の低い手に胸元を弄られて体が大げさなほど震えた。

 自身の体温とは違う驚きもあるのだろう。反射で肩を竦めると、シルクのシーツが擦れる音に芳の笑い声が混じる。

 身じろいだせいで首元を覆う皮の首輪がひっかかり、擦れるような痛みを覚えた。表面をなめしてあるとはいえ、隙間を作らないように設計してあるので仕方がない。

 乳輪の周りをくるりと一撫でされるだけで突起が尖るのがわかった。照明でほのかに浮かび上がる体を、芳の大きな手のひらが摩るように触る。

 ふいに芳が寝室のインテリアに拘っていたことを思い出した。確かに本人らしい品の良い家具ばかりだが、名の通り緑色が好きな翠のためにか、ヘッドランプの色はくすんだオリーブだ。それに気付くと居たたまれないような気になってしまう。

 心臓の上に手が当たる。芳の彫刻めいた指が蠢くと、くすぐったさの中に少しの快感が混じった。色づいた突起の主張がいよいよ激しくなって、翠の仰向けの首元に顔を埋めていた芳が、喉の奥で楽しげに唸る。

「期待してる?」

 そそり立つ場所には直接触れず、猫が爪研ぎでもしているかのように胸板をもてあそぶ。そうされるだけでたまらなくなって、翠の腰はひくりと引きつった。

 あまり爪を立てられては痛いと思うのに、火照り始めた体にはその痛みさえ呼び水だ。そのまま、鎖骨、首と、本当に猫がするいたずらのように不埒な爪がうごめく。

「んっ!」

 爪で刺激された場所を、今度は濡れたものが追った。ぴちゃ、という淫らな水音に煽られて、自然と高い声が零れ出る。

 翠の乳首は痛いくらいに尖って、触れられるのを待っていた。視線を下ろすと、芳の端正だが今は意地の悪い顔がある。舌を出して、少し顔を下ろせばくわえられそうな位置で翠の乳首を見下ろしている。

 薄暗い中にいても、芳の派手と優しさが見事に調和する顔立ちは変わらなかった。柔和に垂れた目元、高い鼻に広角の上がった口。見せつけるように赤い舌が伸びるのを認めた呼吸は緊張で荒くなる。

「翠が素直になるのはもうちょっと後だもんね。意地っ張りだから、本当は気持ちいいこと大好きなのに言えないんだ」

「……好きじゃ、ない」

「嘘だぁ。この間だって、ここに、俺のモノ咥えてひんひん泣いてたでしょ?」

 言葉に合わせて動いた指先に双丘を鷲掴まれた。そのまま、ひくつく穴に指が当たる。乾いているので当然入らないが、その時の快感を思い出してまたもや翠の腰がはねた。

「翠はぬるぬるにしたのをゆーっくり入れられるのが好きだよね。あと、馴らし足りなくてギチギチでも反応がいい。浅いところをがんがん突かれてもイイみたいだけど、赤ちゃんのおしめのポーズで深くまで入れられると、一番おかしくなっちゃうよね?」

 芳は卑猥な言葉で翠をいたぶりながら尻を揉みしだく。最奥の入り口に響く刺激だ。手つきだけは優しいその触れ方が、これからの官能を思わせて目眩がした。

「敏感で可愛い」

「……ひ、ッ! あ、あん、あー……っ!」

 言い終わったのと同じタイミングで芳は突き出た翠の乳首をべろりと舐めあげた。芯があるそこを、ぐりぐりと歯で押しつぶされたり、軽く吸って敏感な先端をしごかれたりして、声が抑えられなくなる。

 そのままもう片方の手は三本の指で乱暴に乳首を弾く。痛みに体がじんじんとしびれて、いやいやと首を振った。

「そこ……痛い、……から」

「でも好きでしょ? 歯立てるとここだけでイッちゃうもんね?」

「う、うーっ……ア、」

「イイ声になってきた。今日はこっちでイッてみようか」

 芳はくす、と色気のある声で密やかに笑む。その合間にも、尖らせた舌で乳首を刺激し続けるので、吐息がかかってくすぐったい。

 両方の乳首を指と舌とで同時に強く擦られると、頭の中が真っ白になっていく。痛いのにそれが気持ちよくて、されるたびに声が漏れた。相手の行動に翻弄されているという感じが恥ずかしくてたまらない。

「すっごい硬い。そんなに気持ちいい?」

「……も、止め、あっ」

「ここで止めたら苦しいのは翠でしょ。素直じゃない悪い子にはお仕置きしないと」

「何、……ッ!」

 舌が離れていったかと思うと、冷えた液体が左の乳首に流れてきた。温度差に身を竦めていると、また芳の指先が帰ってくる。

「あ、あっ! それやだあっ!」

 ぬるついた感じはローションだろう。摩擦がなくなって、それまで以上に感じてしまう。強く引っ張られて、伸びた乳首が滑って指から離れていくと、体がとろけそうになった。指先で何度も弾かれるのもたまらない。

 胸が大きく上下して、翠の腰が無意識に揺れていく。芳の含み笑いに被虐心が膨れ上がり、羞恥からなおのこと感じた。

「びくびくしててそそる」

「ひ――……ッ、イク、」

「それじゃうーんと痛くしてあげるね」

「あ! あ、やだ、あ、あっ」

 砂糖菓子のような口調で宣った芳は、翠の先端の窪みに犬歯を押し当て、乳首をぎゅうっとつねりあげ、そのまま力を込める。

 両胸がじんじんと痺れてもうだめだと思った。

「イク、イクっ、イクっ、あ、あああーーー!」

 胸元に白濁液がかかる刺激すら今の翠には快感で、意識せずとも体がビクビクと揺れる。

 荒い息をしている翠を、だが、芳は休ませない。

 間髪入れずに、足の付け根にひやりとしたローションが垂らされた。いつの間にか肌に馴染む温度になっていた芳の手のひらが早速とばかりに後孔を撫で、そのままゆっくりと指が入ってくる。

「もう中が熱いね。でももっと溶かしてあげるからね」

「ふぁ、あ……」

「……沢山擦ってあげるから、楽しんで」

 芳はそう、耳の中に直接声を吹き込む。翠も翠で、芳といると認めたくないが被虐心がそそられて、まるで自分じゃないみたいだといつも思う。

 感じる場所はとっくに知られている。刺激を与えつつ、芳は性急とも言える動きで内部をほぐしていく。

 継ぎ足したローションが立てるぐちゅぐちゅという響きがいやらしい。舐められる時とも違う、もっとねばついた音だ。前立腺を芳の揃えた指が何度も撫でる。ほぐれるまでに感じる少しの痛みが、やがて入ってくる太いものを予感させて胸が詰まった。

「翠、気持ちいい?」

「……、ん、あ……なんか……ンっ」

「まだ素直じゃないか。やっぱりもうちょっとよがらせてからだよね」

「よがらせる、って……ああっ、あ、そこっ」

「ここ好きだよね。俺がいーっぱい突いてあげたから、前よりもっと気持ちいいね」

「やだ、そんな、ア!」

「ふふ、そろそろかな」

 胸につくくらい膝を折り曲げられ、翠は後孔が丸見えの恥ずかしい体勢を取ることになった。部屋の明かりを反射して、塗りたくったローションが光っているらしく、芳は嬉しそうだ。

「ここ、とろけてるみたい。パクパクしてるよ」

「見るな、馬鹿あっ……」

「ふちのところがちょっと泡立ってる。翠のここ、すごいえっち。……そそる」

「ん! ん、ん、あ!」

 舌なめずりしたかと思うと、芳は腰を進めてきた。ゆっくりと、肉の壁をかき分けて入ってきた欲望に、翠の背筋をぞくりと衝撃が撫でる。自然ときゅうきゅうと後孔を締め付けてしまい、気持ちよさが止まらない。

「……あ、きもちぃ……あん……」

「ふふ。素直になってきた」

「ひゃ、あ、あっ、あー、そこ!」

 膝裏を押しながら芳が腰を打ち付けるので、時折奥まで届いてあられもない声が漏れた。口を閉じることもできず、揺さぶりのリズムで喘ぎが飛び出す。目を腕で覆ってかろうじて顔を隠しているが、緩んだ口元のせいで翠が感じ入っているのは当然ながらばれているだろう。

「こーら、隠さないで」

「んっ、……あっ、いやぁ、だって」

「顔見せてくれないと、気持ちいいのやめちゃうよ」

「え、あん、やだぁ……」

 腕の下でかぶりを振る、甘えるように上ずった声が自分のものとは思えない。芳はぐずつく翠の体に容赦なく腰を打ち付けた。

「んあっ! ……今のぉっ」

「奥を捏ねられるの好き?」

 わななく唇のまま必死に頷くが、芳はゆるゆるとした動きで内部を虐めるだけだ。それでも十分気持ちがいいのだが、奥を苦しいくらいにいっぱいにされるのが好きな翠にはもの足りない。

「みーどーり。顔見せて? 気持ちいいって顔を見せてくれたら、もう一回奥突いてあげる」

「んっ、んっ……恥ずかし、い……」

「まだ虐めたりないかな、素直になれないんだもんね?」

 そう言うと、芳は浅い場所を何度も何度も擦りあげてくる。時々前立腺をかすめる動きを混ぜられて、翠の手足からはだんだんと力が抜けていった。

あられもない声がベッドのきしみと同じ早さで漏れていく。

「あっ、あっ、んんっ、ああっ……」

 快楽のあまり力の入らなくなった腕の片方が、顔を滑り落ちていった。続いてもう片方の腕もあっけなく目元の覆いをなくす。

 額から汗を滴らせた芳が、普段は朗らかな表情に隠している犬歯を見せていた。そのサディスティックな笑みに翠の中がきゅうっと反応すると、芳が一瞬だけ息を詰める。

「……ッ、自分で乳首弄れたら、いっぱいイカせてあげる。翠がやだって泣いても、やめないでひどいことしてあげる。ほら、ね?」

「……ん、して……触ってぇっ!」

 虐められたい一心で、翠は自らのしこった乳首をひねりあげた。もう頭はぐちゃぐちゃだ。体を揺すられるのでうまく尖りを掴めない。加えて、芳が打ち付けのリズムを変えるものだから余計に定まらず、やっと掴めたかと思えば素早い振動に指が滑って、乳首が鈍く痛んだ。

「あん! あ、きもちい、あーっ、きもちい」

「俺も、今、さいっこう……」

「そこ、だめ、……あん、イキそ」

「こっちはまだ、だから。いっぱいイキな」

「あ! あ! ひぁっ、あっ――!!!」

 絶頂の瞬間、膝が自然と閉じそうになったが、芳が無理矢理足を開かせた。すると快楽の逃がしどころがわからなくなり、首をゆるゆる振るので精一杯だ。

 絶頂までに時間がかかる彼は未だ硬度を保ったまま翠を責め続ける。前立腺や、先ほど望んだ奥を何度も何度も擦られて視界が歪んだ。

「ひっ、あっ、あ、だめ、だめっ」

「ふふ、翠の顔、ほんと気持ちよさそう」

「や、あ、あー……っ」

「さっきは乳首だったから、今度はこっちでイッてみようか」

 投げ出されていた翠の手を掬い、芳に自分の高ぶりを握らされる。先端からとめどなく溢れる液体で濡れそぼって、熱く硬く張り詰めていた。

「先っぽの、一番感じるとことか……」

「ひ! やだ、も、ばかになるぅっ」

「ならないよ。だって翠は……」

 ――気持ちいいこと大好きなオメガだもんね?

 そんな芳の声もろくに聞こえず、翠は全身を痙攣させる。どこもかしこも敏感になって、内部をこする芳の欲望に本当に馬鹿になってしまいそうだ。

 止めてほしいと思うけれど、気持ちいいから止めてほしくない。

 気持ちよすぎて止めてほしいと思うけれど、もっと気持ちよくなりたい。

 いじめてほしい。もっとひどいことをしてほしい。翠の頭の中は、そんなはしたない感情でいっぱいになる。

 いいところを突かれるたびに制御を失った体が、芳を搾り取るように締め付ける。芳は内部の抵抗を楽しむように強引に腰を進めてきて、串刺しにされる感じに酔い、また内部を震わせる。 その繰り返しに快楽がどんどん上乗せされていく。

「はあ、あ、あ、イク、イク!」

「……俺もそろそろ、かも」

 ラストスパートとばかりに芳の動きが強くなった。太く逞しい欲望が、翠の濡れた媚肉をこじ開けて、熱を点す。

「あ、あ、あーーーーーー!!」

 波に浚われるように翠の意識は真っ白になった。芳の先端から迸った熱い飛沫がぬかるんだ後孔を染める。

 その晩、それから何回絶頂させられたのか、途中から数えられなかった。
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