牢獄の王族

夜瑠

文字の大きさ
47 / 136
悔恨編

23. ロイside

しおりを挟む





近頃、王城は常にバタバタと忙しなく皆が働いている。

というのも亡きフォルネウス伯爵の領地をどうするのか、伯爵領で行われていた政策は誰が受け継ぐのか、そもそも伯爵領は呪われたとして人が寄り付かなくなってしまったがどうするのか、伯爵が王城でしていた文官のまとめ役を誰が受け継ぐのか。


などの言ってしまえば全てフォルネウス伯爵関係の話だ。

特に文官を誰が受け継ぐのかが重要視されている。
普通ならフォルネウス伯爵が補佐に置いていた人材や直属の部下などが受け継ぐのだが伯爵のすぐ下の地位の者はに同じく急病で亡くなり、補佐は金品不正取引の疑いで現在取り調べ中。

さっさと文官の中で決めて欲しいのだが貴族社会も難しいらしく派閥、階級、後ろ盾などが絡んでくるため一概に能力のみでは決められないらしい。

俺が能力で選ぼうか、と言ったのだが逆効果だと言われた。貴族社会のやり方を立てないと貴族を蔑ろにしすぎだと逆に反乱を起こされる可能性が高くなるらしい。ただでさえ俺たちは革命の際に貴族社会のルールを無視し平民の俺が王位についているという異例の事態なのだから、と。


文官のことだから俺は関係ないじゃないか、と思うが文官が舌戦に忙しいので俺に文官のやるべき仕事の一部が回ってきている。

これはさすがに抗議してもいいよな……?

まぁ、俺が書類を終わらせるだけではやくこのくだらない言い争いが終わるならいくらでもやってやるが。


そう割り切ろうとはするのだがやはり、頭の中には常にシルヴィアがいる。

結局俺はあの子の笑った顔を見たことがない。
微笑む程度の柔らかな表情は極たまに浮かべていたがあの引きずり込まれるような深く濃い瞳の黒の色は消えなかった。


今はミルネス、という名前になったと聞いた。

フーレ子爵は上手く自身の後ろ盾や派閥を使って逮捕を逃れたらしい。本当に小賢しいやつだ。あそこまで罪がハッキリしててどうやって切り抜けたのか、逆に感心した程だ。

だが、シルヴィアと関係があると思っていたが子爵はその後全く光の御子と関わっているという尻尾をださない。シルヴィアのことを知っていること、─抱いたことすらある─ことはこの間の事情聴取で分かっている。しかし、王城から離れたあと何をやっているのか全く情報が入らないのだ。

まるで故意に我々から遠ざけられているように。


王城からでたら暗殺者をおくろうと画策していた貴族もいたようだが暗殺どころかことすら出来なかったようだ。

このフーレ子爵を取り巻く奇妙な現象は一部でフォルネウス現象と呼ばれている。

フォルネウス伯爵とフーレ子爵は随分昔から仲が良かったらしい。利害の一致、という面で。

その仲が良かった繋がりのある人が次々と奇妙な出来事に巻き込まれることから呼ばれ始めたらしい。


この奇妙な現象もシルヴィアの何かの力ではないかと俺たち3人は睨んでいる。

シルヴィアが近くにいると全く匂わせないから断言しにくいがフーレ子爵の行動の情報が入ってこなかったり歴戦の暗殺者が見つけることすらなかったり。

何者かからの加護と言えるだろう。



「おいシルヴィアは見つかったのかよ」

「…………アル、そんな数分では見つからないよ」


貧乏ゆすりをしながらこの男は数分おきに聞いてくる。だんだんこちらもイラついてくる。聞くならお前が探しにいけよ、と。

なんだかんだ心配はしているのだろうこの男は最近弓も始めた。今までは剣が命。剣が全て。剣以外ありえない。と言っていたのになんの心境の変化があったのか弓を始めた。


「……的当てしてくる」

「はいはい…」


座って書類作業が耐えられなくなったのかとうとうアルが席を立った。今日は新記録だ。2時間もアルが書類作業をしていた。


不意に剣だこまみれのゴツゴツした手が目に入る。

そして唐突に聞きたくなった。


「ねぇ……なんで弓を始めたんだ?」


「あ?…………近づいても勝てない相手は遠くから狙うべきだろ」

「……アルが近づいても勝てない相手なんているの?」


アルが昔から自分の剣の腕に絶対の自信を持っていることは知っている。それに違わない努力をしてきたことも。それなのにあの剣しか取り柄のないと自他共に認めていた男が自らの剣の腕を否定した…?

「……いるだろうよ…………俺はそう思ってるしどうにかして殺そうと思っている」


そう言った瞳は奇妙な光で満ちていた。

その強い意志の篭った瞳に俺は心臓が凍えるような気がした。

アルが考えていることがわからない。何をしたいのか剣への誇りを曲げてまで殺したい相手は誰なのか。俺も知っている人なのか。



バタン、と音を立てて扉が閉まると俺は1人になる。


俺は4年前、皆で住み良い国を作るために革命を起こそうと決意した筈なのに、それは途中まで成功していた筈なのに、どうして上手くいかないのか。

アルとは分かり合えずリアはアルの元へ嫁いだ。
新たに心の拠り所にしようと思った少年は俺が割り振ったメイドによって地獄へと送ってしまった。

かつての仲間は好き勝手。貴族は建前ばかり。民は要求するばかり。シルヴィアの捜査にすら手をつけられない。

俺はどうすればいい?




俺は皆の国を作ろうとして独りになってしまった。









しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

優秀な婚約者が去った後の世界

月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。 パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。 このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...