牢獄の王族

夜瑠

文字の大きさ
48 / 136
悔恨編

24.

しおりを挟む




「フードを深く被って街に言ってみないか?」


とある日の朝、朝食を共に食べていたヒルハに尋ねてみた。ヒルハはポカンとして手に持っていたホットサンドからスクランブルエッグが落ちそうになっているのにも気づいていないようだ。

「……へ、?街に…ですか?」

「うん。まち。買い物とかしなくてもいいから街が見てみたい。」


俺が街を見たのはたったの一度、それも数十分程度。加えて帰り道は石を投げられていたので街を見るどころじゃなかった。

ヒルハと二人っきりのこの生活も2ヶ月が経とうとしている。

ここでの生活は穏やかで緩やかでとても暖かい。ただ今まで見世では多くの人と関わっていたため二人、もしくは3人の生活はひどく違和感があって落ち着かない。


依存症の方はアレクシスのおかげで何とかなっている。ヒルハにだけはこんなはしたない所─知られているだろうが─直接見せたくないので2人だけのときに疼いて襲う、なんてことになったら最悪だ。もう誰にも捨てられたくないからな。


ヒルハはまだ俺の唐突な問いに口を開けている。

ヒルハのそんな顔は珍しいので状況を飲み込めるまで観察して待つことにした。

しばらくすると急にハッとした顔になってやっとヒルハは動き出した。



「いや街なんて危ないことだらけですよ!?それにそんなフード怪しまれますよ…」

「それは分かってるけど俺も屋台?とかお店っていうの見てみたい。」

「……そ、そうは言っても…フーレ子爵が許可を出してくれるか…」

「大丈夫!俺がヒルハに防御の加護与えたらいいじゃん。俺は死なないし」

「え、えぇ……?」


突然こんなことを言い出すからヒルハはとても戸惑っている。そういえば俺が自分から何かをしたいと提案するのは初めてかもしれない。あ、これが我儘ってやつなのか?

それに気づくと少し嬉しくなった。

我儘という言葉を知った時ひどく落胆したのを覚えている。きっと自分には一生縁遠い言葉だと思ったから。

だって我儘はこの人なら無理を言っても大丈夫、という信頼と好意を持たれている、という確信がないと言えないと思うから。初対面から無理難題をふっかけることなんてないだろう。

それに我儘を言ったら愛してもらえない、と思ったから。


それを自分がしている、と感じてヒルハを困らせてしまっていることは心苦しいけど二人の間の信頼が形になったみたいで嬉しくなった。


「突然どうして街に?」


ヒルハは眉を八の字にさせながら聞いてきた。この困った様子に今すぐ提案を取り消そうかと迷うが自分の欲望は止められなかった。


「家族を見てみたい。」

「っ……かぞ、く…ですか…?」


俺の答えにヒルハは酷く苦しそうな悲しそうな顔をした。

「俺は幸せな家族の繋がりを見てみたい。恋人ってやつでもいい。言葉では知ってても『家族』とか『愛情』とか全然想像出来ないんだよ。俺の手に出来ないものがどんなものなのかこの目で見てみたいんだ。」



多くの男と身体を繋げた。

男たちが悦ぶなら、愛してくれるなら、とどんな無様な姿でも進んでみせた。

加護とやらも無意識だけど与えた。


腕を落とされようが足を落とされようが、どんな激痛も愛されるためだと受け入れた。

惨めに泣き叫び愛を乞うた。


それでも俺が4年の間全てを捧げてきた人達はひと夜にしていなくなった。

いや、2人だけ変わらず接してくれるがそれはなんの感情なのか分からない。

フーレ子爵はきっと光の御子への興味。実験対象としての価値を俺に見出している。それはずっと昔からだから今更何も思わない。子爵のただ性を吐き出す為という作業的なセックスは意外と気持ち良い。普通に子爵は上手い。何がとは明言しないが。

ヒルハはなんでこんな俺と一緒にいてくれるのだろう。

ヒルハは俺を愛してくれているのだろうか。それは俺の求めることの答えなのか?

けれどそれを聞いてしまったらヒルハが離れてしまうかもと思ってしまう。
それがとても怖い。


「……一応許可を取ってから考えましょうか」

「!……ありがとう、頼むよ」

「はい。ただユルハ様。一つだけ訂正するところがありますよ」


首を傾げる俺にヒルハは酷く儚げに微笑んだ。


「ユルハ様は愛を手にできます。少なくとも私はユルハ様を愛しています」

「……え…………」

「少しでも早い方がいいでしょうから今から聞いてきます。お皿は流しに置いておいて下さいね」

「……え、あ、ああ?」

そう言うとヒルハは直ぐに子爵邸へと向かっていった。

あまりにもヒルハが出ていくのが早すぎてしばらくの間呆然としていた。

やっと頭が覚醒するとなんとも言えない暖かな感情が俺の胸を渦巻いていた。

ヒルハは俺を愛していた。


俺の勘違いじゃなかった。


その事実が狂いそうなほど嬉しくてどうしようもなかった。

ヒルハが戻ってくるまでただ座ってニマニマと笑い続けていた。
今思うと最高にきもちわるいが。








しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

優秀な婚約者が去った後の世界

月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。 パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。 このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...