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悔恨編
41. ロイside
しおりを挟む夕方、夜と言った方が正しいかも知れないがそんな頃にようやく俺たちは子爵邸に到着した。
使用人や騎士達が門から玄関前まで整列していて歴史を感じさせる厳かな雰囲気の味のある建物と相まってとても絵になる光景だった。
周りが俺と同じように息を飲むのがわかった。
その時丁度玄関から出てきたフーレ子爵は以前と同じように口の片端だけを引き上げ悪戯が成功したかのようにニヤリと笑った。
「ようこそ西の古都へ。」
王族への最高礼をした子爵は酷く愉しそうだった。
応接室に5人で通される。
俺、アル、ビルド、護衛の騎士二名だ。
騎士はソファに座る俺たちの後ろに立つ。その威圧感になんだか落ち着かない。ビルドも職務上あまり武官とは関わらないのかそわそわとしている。
俺の隣の奴は通常運転で座っているが。
その図太い神経が羨ましい。
「これは別名紅茶の街と呼ばれている帝国レバンテーヌより取り寄せた最高級茶葉なんです。是非ご賞味ください」
紅茶の善し悪しなんて全く分からないので少し不安に思いながらカップを手に取る。
しかしすぐに普通の茶葉と違うことはわかった。口当たりがとても柔らかいのだ。そして鼻から抜ける香りがとても清々しい。
「……おいしい」
「でしょう?何杯でもお代わりしてくださいね」
つい、と言うように呟いたビルドに子爵は人の良さそうな顔で笑う。先程の詐欺師のような笑みとは程遠く初めて子爵と会ったビルドはどっちが本性か測りかねてるようだ。
「アル殿の口には合いませんでしたか?」
カップに口をつけていないアルに子爵が不思議そうな顔をする。アルは少しだけバツが悪そうにした。
「紅茶があまり得意ではないんだ。喉が渇いたら飲むからこのままで」
「そうだったんですか!?それは申し訳ありません私の調査不足です。今すぐほかのものを」
「いや……構わないこのままで」
そう言って顔を顰めたままカップに口をつけた。確か紅茶よりもコーヒーが嫌いと言っていたからコーヒーを出されたくなかったのだろう。ガタイがいいくせに苦いものが嫌いなのはいつも少し笑える。
「さて早速で悪いのですが打ち合わせを始めましょう」
「そうですね。おい地図持ってこい」
子爵が領地の地図を机の上に広げる。子爵領は不思議な形で肝臓のような形をしている。王都側が細く共和国との国境側が広い。そのため基本的に領に入るための検閲はひとつの門でだけしている。他は森に覆われていて少し危険だ。
「私の屋敷がここ。最も栄えている街がここ、職人街がこの地域。この辺りに貴族の別荘が多いです。」
地図を指さしながら丁寧に教えてくれる。とてもわかりやすい説明だった。
「こっちの共和国との国境には何も無いのか?」
「そこらへん一帯は森が更に深くなりますし一応国境なのであまり栄えると具合が悪いんです。」
「まぁ…そうだろうな」
国境が栄えると共和国側からしたら警備が大変になるし人の圧で常に緊張状態に陥るだろう。比較的穏やかな人の多い国ではあるが刺激しない方が良い。
「なのであまり行かないことをおすすめします。王が国境を視察した、なんてなったら戦争の下見かと思われますしその辺は野生動物も多いので」
「そうだな、そうするよ」
明日からのスケジュールを決め終えると夕食だ。既に毒味は済ませたのでどうぞ、と差し出される。アルが少し顔を顰めた。だが流石に人の家でまで突っかかることはしなかったので少し安心だ。
冷えた食事を摂る。
今までは貴族の利点だけをみて憎んでいたが実際なってみると苦しく不自由なことばかりだ。
何となく伯爵家の使用人に温かい食事を摂りたいと思わないのか聞いたら温かい食事を食べたことがないから思わない、と言われた。
それが酷く憐れに思えた。
食料も料理人の技術も素晴らしいのに食べる頃には冷えきって固くなっている。幼子ですらその食事しかしない。
貴族も平民も苦労はしあっていると知った。
「それにしても到着まで大分急いだでしょう?」
「まぁそうですね。通常では有り得ないスピードだと思います。」
「初め文が来た時は日数を間違えたのかと思いました。確認してしまった無礼をお許しください」
「いえ、確認することは当たり前でしょう。速度が異常なこちらが悪いんです」
当たり障りのない会話を続ける。
何度かシルヴィアのことを聞き出そうとしたがうまい具合に話を帰られる。子爵の本性は知っているが流石に貴族モードで対応されるのでこちらが態度を崩すわけにもいかない。
飄々とした笑みを浮かべひらひらと話を躱される。
こんな様子でシルヴィアが見つけられるのか不安になった。
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