牢獄の王族

夜瑠

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悔恨編

40. ロイside

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清々しいほどの晴天だった。太陽が久しぶりに顔を出し春を感じさせる陽気に包まれていた。


数日前から王都を出発し先程ようやく子爵領の入口に到着した。

恐らく3日ほど掛かっただろう。しかしこれは普通では有り得ないスピードだ。

殆どが騎乗し馬車を減らしたからできた技で恐らく馬車も頗る乗り心地が悪いことだろう。

文官達には我慢して欲しい。


「陛下。準備が整いました。」

「ああ、今行く」


部下たちが昼食の完成を告げにきてくれ仮設テントから出ると周りがオロオロしながら止めるなかアルが先に食べ始めていた。

その光景に呆れて溜息がでる。

毒味も介せずに俺の右腕が何をしているのやら。


「……近衛騎士団長という立場なら毒味を当然介したんだろうな?」


後ろから声をかけると仏頂面でこちらを見上げるだけだった。
やはり毒味はしていないらしい。

平民のしかも最も身分の低かった俺たちでは中々習慣化できないが毒味は大切だ。力と義務を背負うほどその重要性は高まる。


俺たちは役職上簡単に殺される訳にはいかないのだ。

それを何度もこの分からず屋には話してきたと思うのだがいまいち伝わっていなかったようた。


食事を再開したアルの肩に手を置きまたいつものように語る。


「お前が毒なんかで簡単に死ねばこの国が終わる。お前も騎士なら戦場で死ぬことこそが誉れだろう。背負うものと騎士として食事なんかで死なないために何度も言うが毒味を待て。」


もう何度も言ったこの言葉にアルはまたいつものように返すのだろうな、と頭の中で過ぎる。

そしてそれは当たったようだ。


「俺の身代わりに罪のない使用人を殺せと言うのか?毒の匂いや気配はわかる。もしそれでも毒に殺られたなら俺の感が鈍っただけのこと。俺の感が鈍ったときが騎士として、人間としての俺の死に時だ。」

「毒味は正式に役職だ。そして誉高い職務でもある。自らをもってして人を守る役職だ。」

「人なんか守ってないで自分を守らないでどうする。何か起きた時他人は自分を助けてはくれない。どれだけ恩を売ろうとな」


確固たる意志の宿ったその瞳に射抜かれる。
ただ俺の心には納得は全くなくひたすら怒りが沸き起こるだけだった。


何故分からない。

お前が死ねばリアはどうなる?少し前に生まれたまだ小さなお前の子供は?長年支え合い付き添ってきた親友であり、ライバルの俺はどうなる?


お前はそれらを捨てる覚悟でもって毒味をしないと言うのか。

俺たちはそんなお前の意地に負けるのか。


「分からず屋」

「説教爺」

「頑固者」

「小言野郎」


そんな餓鬼のような罵り合いを続ける。
二人とも納得できないことには絶対意見を曲げない質なので旅の間ずっとこれが続いている。


「あ、あの…陛下……毒味を初めてもよろしいでしょうか…?」



毒味役の子が今日も恐る恐る声を掛けてくる。
騎士団長と国王の言い争いに割いるのはとてつもなく勇気がいることだっただろう。

「ああ今そっちにいく。…夕食は必ず毒味しろよ」


申し訳なく思いながらアルの元を去る。俺の言葉にあいつはただ顔を顰めるだけだった。


どうせ夕食も毒味させないんだろうな、と思う。

「では陛下の毒味を初めさせていただきます。今日はパン、春野菜のスープ、キラーウルフのステーキ、サラダです。サラダから始めさせて貰います。」

「宜しく頼む。」


毒味係が少し緊張したようにサラダに手を伸ばす。

俺だって必要ないないなら毒味なんてさせたくない。それでも体裁を保たないといけないしここで死ねば国が混乱してしまう。だから心から申し訳ないとは思いつつ毒味を頼んでいる。


アルは貴族が好きじゃないから貴族特有の毒味もやりたくないんだろうなとは分かるけどもう好き勝手出来ていた革命軍の頃とは違う。
俺たちは形式上この国一番の貴族になってしまった。

俺たちが最も嫌った高位貴族に。


「……それでは30分お待ちください」

「ありがとう」


全て一口ずつ食べた毒味係と向かい合い30分後を待つ。これで異変が無ければ食べれる。




何も喋らないまま30分が経った。

「外見的にも内面的にも特に異常は見られません。どうぞお召し上がりください。」

「本当にありがとう、いただくよ。」


ほっとした様子の毒味係にそう告げてようやく食事に手をつける。

冷たくなったスープに固くなったステーキ。美味しさは半減どころの騒ぎじゃない。

それでも毒味をしなければならない。これは義務だ。仮にも王となってしまった俺の果たすべき役割だ。



貴族を嫌ったくせに貴族位を奪い取ってしまったのだから仕方ないだろう。


俺は自嘲の笑みを浮かべ憎たらしいほどに長閑な空を仰いだ。















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