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会遇編
2.
しおりを挟む何か新しい土地へ踏み出そうとする時、空は決まって憎たらしいほどに晴れ渡っている。
それは空がこの踏み出した一歩を祝福し応援しているかのようで腹が立つ。まるで俺が光の御子だと体言しているようで苛立たしかった。
雲ひとつない快晴。
文句のつけようがないほどの良い天気に俺は舌打ちをした。
「ユルハ様ー荷物の積み込み始めますよー!」
「わかった!すぐ降りる!」
そう声をかけると今まで覗いていた窓を施錠しベッドに投げ置いていた鞄を手に階下へと降りた。
そこには既に人が集まっていた。
「そこに置いておいて下さいね!私が乗せておきますので!」
こんなどうしようもない俺について来て自分の居場所を捨ててしまった青年、ヒルハ。
「そこに荷馬車つけといたから。もういつでも乗せていいぜ」
俺たちに自由な暮らしを与え養い続けている本当は優しい狂科学者、フーレ子爵。
「これも積むのか?…あ?なんだこれ」
性行為に依存している俺の性欲処理係兼護衛の何考えてんのかわからない元盗賊、アレクシス。
「それ俺の荷物。一緒に積んどいてよ。」
昔俺を化け物と罵り今は反省している我が家の居候、クミネ。
ひとりぼっちだった数年前。俺の世界はとても小さかった。
けれど俺はこいつらのおかげで世界が広いことを知った。
感謝している。
絶対言わないけどね。
「荷物積み終わりましたー!」
ヒルハの元気な声が聞こえて各々好きな場所で時間を潰していた奴らが集まってくる。
今回は子爵の研究報告についていくので子爵の使用人と護衛と合わせると大所帯だ。
6台ある馬車の1つを借りて俺達が乗り込む。ただしアレクシスは御者だ。
「俺馬車初めて乗る!すげぇ!」
クミネが楽しそうに嬉しそうに一番に乗り込んでいく。無邪気なその姿につい笑みが零れてしまう。
「俺も2回かな?乗ったことあるの。」
アマンダに売られたときと見世からここへ来る時だ。クミネは普段通りそうなんだー!と返して初めて乗る馬車にはしゃぎ続けていたがヒルハは少し苦々しい顔を浮かべていた。
俺はそんなヒルハの背をぽんと1つ叩いて馬車に乗り込んだ。
固い座席に座るとその隣にクミネが座った。ヒルハは自動的に正面だ。クミネはまだ動いてもいないのに早くも窓にかじりついている。
数日前からずっと馬車に乗ることを楽しみにしていたのを知っているので一緒に嬉しくなる。
俺は王都に良い思い出はないがこの無邪気に王都へ向かうことを喜ぶ少年が王都で良い思い出を作れることを願う。
「そろそろ動かすぞ。揺れるから立ち上がったりすんなよ」
コンコン、とノックがされたと思えば御者席からアレクシスの声が聞こえてきた。
初めて馬車に乗ってテンションが上がっているクミネの安全を心配したのだろう。
「わ、わかってるし!」
クミネは自分でもはしゃいでいたことが恥ずかしかったのか顔を赤くして席に座った。それでもそわそわと落ち着きなく何度もチラチラと窓を見ている。
その可愛らしい姿につい頭を撫でた。
「子供扱いすんな!」
「ごめんごめん。動き出したら窓の外のぞけばいいよ。」
「……うん」
恥ずかしそうに素直にうなずく姿に笑みが零れる。ヒルハも微笑ましそうに笑っていた。
馬の鳴き声が響いたと同時に大きく馬車が動いた。
ゴツン、と音がして隣を見るとクミネが突然の揺れに耐えれず頭を打ったらしい。
声も出さず悶絶している様子に今日はこいつ忙しいな、と苦笑が漏れる。
「大丈夫か?」
「……ゔん」
全然大丈夫じゃなさそうな声が聞こえてくる。
ついヒルハを見ればヒルハも微苦笑を浮かべていた。
「動く前から外覗こうとするからですよ」
「だって……」
どうやら待ちきれずまた外を覗いていたらしい。この年頃にしては落ち着いたところが多いクミネの珍しい姿にやはりまだ幼いんだよな、と改めて思う。
「もうそんなに大きく揺れることはそうそうないから覗いても大丈夫だぞ?」
「……ふん」
もう一度覗くのは素直じゃないこいつの性格上しないかな、と思ったがとてつもなく外が気になるらしい。直ぐに窓へと身を乗り出さんばかりに張り付く。不服そうな返事との差に笑ってしまう。
王都は嫌いだ。良い思い出なんてない。
けれど今回の王都行きはなんだか良い思い出が出来る気がなんとなくした。
なんの根拠もないけれどこのメンバーなら楽しく過ごせるだろうと本当になんとなくそう思った。
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