牢獄の王族

夜瑠

文字の大きさ
134 / 136
番外編

閑話.

しおりを挟む

会遇編のところにあった閑話をこっちに移動しました。




【ミルネスの頃の年明け】






足先がジンジンと痛む。

そう言えばこの時期はいつもこんな痛みに襲われていた。なのに今年は幾分マシな気がする。

まぁ地下室と比べてどちらが暖かいかなんて考えるまでもないので当たり前なんだろう。これは寒さによるものだと老人が教えてくれていたのを覚えている。


『今は何日かのぉ…そろそろ新年じゃと思うんじゃが』

新年。

また聞きなれない言葉を老人が口にした、と特に気にすることもなかったと思う。

『シルヴィア。今日をわしらの新しい年の始まりにしよう。……あけましておめでとう』

『………ぅ……あ……?』

『…まだ難しいか。そのうちきっとわかるぞ。覚えておけ。お前はちゃんと年明けを祝うことが出来ていたんじゃぞ』


強く言い聞かせるような老人の言葉があの時はもちろん理解なんて出来なかった。

けれど見世ここにきて色んな人から多くのことを学んだ。その中に宗教に関することを学んだ。

この世界の大部分の人が信仰するという宗教には「新年とは神が人間に世界を分け与えた日。その日を祝福しない者は不敬罪の他になし。」というものがあるらしい。


老人は将来外に出れた時、一度も新年を祝ったことがないとして俺が差別されることを恐れていた。


「ミーネ」

「フォルネウス伯爵…」

振り返ると先程自分を抱いた人物が立っていた。

「寝ますか?」

「いや、今日はいいものを見せてやろうと思ってね」

「良い物?」

伯爵は俺のことをぎゅっと抱きしめ俺の後ろにいた禿に何かを伝えた。

「それは私では判断出来ません…」

「は?別に外に出るわけじゃないんだぞ?」

「ですが……」


揉めるような口調にさらに不思議になる。普段ならなんでもイエスと答える禿が渋っていることに驚いた。

こいつ拒否も出来るんだ。


少し前までは仲が良かった禿を見下ろしてそんなことを思う。


「ミーネ行こう。こっち。」

「え、あぁ……」


いつの間にか話は着いていたようで大きな手が俺の手を掴んでずんずんと進んでいく。

部屋以外はほとんど移動したことのない俺は知らない方向に進むことに好奇心と恐怖とが入り交じった感情を抱いた。


キョロキョロと周りを見渡しながら手を引かれる様をすれ違う禿達がぎょっとしたように見た後俺付きの禿を探して走っていく姿が見える。

本当に大丈夫なのか心配になってくる。


そして先程からちょっとずつ気温が下がっている気がする。

「ついた、ミーネ。ほら、あそこみてごらん」

「あそこ……え!?な、なに!?伯爵なんか!変なのが!え、え?!怖い!?」
 

俺がソレを見て半泣きになりながら伯爵にしがみつくと伯爵はきょとんとした後笑いながらもっとソレに近づいた。


「え、え?なにこれ!?やだやだ!!怖い?!」

「ミーネ大丈夫。怖くないよ。触ってごらん」

「さわっ……!?」

俺が顔面蒼白にして横に首を振ると伯爵はくくく、と喉で笑ったあと自分の手をソレに伸ばした。

だが伯爵の手に触れた途端ソレは姿を消してしまった。


「───!!!消えた!?え!?伯爵大丈夫なの!?」

「くくく、大丈夫だ。ミーネもやってごらん。」

「ぇ。……ほんとに?」


笑顔でコクリと頷く伯爵になんとか慈悲を請いたいがこの笑顔の時は何しても無駄だと知っている。

意を決して腕を伸ばすとひんやり冷たいソレは触れた途端消えてしまった。いや水になった。

バッと伯爵の方を見るとニコニコと笑っている。


「それは雪と言ってね天気のひとつだよ」

「ユキ…?え、天気…!?」


そこ言葉に驚いて上を見上げれば天井がないことにきづいた。

見世に入ってから初めて空を見た。そして夜の空はこんなにも暗いのだと初めて知った。空には様々な光が浮いていた。きっとあれがお星様。


もう一生空なんて見ないと、見れないと思ってた。

なのに空から降る珍妙な物体と合わせて観ることができた。なんて幸せなことだろう。

「ここらで雪が降るのは珍しいし見たことないだろうと思ってね。やっぱりだったか。」

「ユキ………」

手一杯に集めてみたくて手を差し出した。それは水となるだけだった。


「ユキはミーネの高い体温じゃ掴まれられないな」

「えー…」

「なら、今度雪が積もれば雪だるまを作ろうか」

「ユキダルマ?」

更に知らない言葉が出てきて首を傾げる。

「あぁ。何年かに一度はこっちだって積もるからね。そしたらまたここで作ろう。」

「うん!」

結局ユキダルマがなんなのか分からないが何年か後にも伯爵は俺の傍にいてくれることが分かり嬉しくなって抱きついた。

「ミーネ」

「なぁに?」

「あけましておめでとう」

「え、?」

それは遠い昔聞いたことのある台詞。未だになんのことか分かってない台詞。


「新しい年が始まったんだよ。またそこの禿にでも教えてもらいな。」

そう言って俺付きの禿に目を向ける。

「ヒルハ……明日の勉強時間に教えろ。」

「はっ」

「じゃあいい子なミーネにお年玉をあげる。」

「おとしだま……」

さっきのユキダルマの仲間だろうか。

「ここに定期的に日光を浴びに来れる許可をあげる。」

「日光……お日様?に当たれるの?」

「そうだよ。」


それは驚くべきことだった。思わず自分の耳を疑う。

二度とそんなことは出来ないと思っていた。それが願うことすら愚かであると知っていた。


なのにこの人は。

この人はいつも新たなことを教えてくれる。

太陽に当たる

文字にすればたったそれだけ。なのに何故か涙が溢れてきた。

「ここは寒い。もう中に入ろう。」

「伯爵……あけましておめでとう」

泣きながら伝えると伯爵はくしゃりと俺の髪を無造作に撫でた。

優しい手つきだった。







しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

人生はままならない

野埜乃のの
BL
「おまえとは番にならない」 結婚して迎えた初夜。彼はそう僕にそう告げた。 異世界オメガバース ツイノベです

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

優秀な婚約者が去った後の世界

月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。 パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。 このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

処理中です...