牢獄の王族

夜瑠

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番外編

絵画 2

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耳まで赤くしたレーナはぱっと顔を逸らし俯いた。

俺とクミネは顔を見合わせ首を傾げる。

「おい熱でもあんのか?顔赤いぞ?」

赤いというか急に染まったのだが一応声をかける。
いつもはハキハキとしているレーナは蚊の鳴くような声で何かを呟く。


「え?なんて?」

クミネが耳を近づけてか細い声をひろうと俺の方を見て苦い顔をした。事情を察した様であった。

「え?なんて言ってたの?」

「なんか昨日の夜お前の部屋行っちゃったらしい」

「昨日の…」


昨日の夜といえばアレクシスとシテたな。
あぁ、それでこんなに顔を赤くしてんのか。

漸く何故こんなにも挙動不審なのか理解出来たことでスッキリした俺はうんうん、と納得するように頷いた。

「な、なんでそんなに平常運転なのよ!!せ、性行為よ!?普通知られたら恥ずかしいじゃないの!!そもそもあなた達が付き合ってたことも知らなかったし!!」

何かが吹っ切れたのか途端にいつもの調子に戻ったレーナは羞恥なのか怒りなのか顔を更に赤くさせて怒っている。

「別にただの性欲処理だしアレクシスと付き合ってないし」

「え…な、なんてふしだらな!!駄目よ!!恋人以外との性行為だなんて!!不潔だわ!!」

今度は顔を青くさせて信じられないと怒るレーナに隣でクミネがムッとした顔をした。

「レーナ。事情を知らない奴が口を出すな。」

「な、なによ!私間違ったこと言ってないわ!」

「いいから口を挟むな。」

「はぁ!?意味がわからないわ!そもそも恋人でもない同性同士だなんて!!」

「いい加減にしろレーナ!!」

「~~なんなのよ!!」

「おいレーナ!!」

普段なんだかんだと面倒見の良いクミネに懐いていたレーナはクミネに厳しくされて正しいことを言ったのにどうして、と言う気持ちとなんで味方してくれないの、という気持ちで混乱したのだろう、部屋から出ていってしまった。

「…後でちゃんと叱っとく。」

「別にいいよ。レーナの方が正しい。」

「けど!お前はあの女に売られたせいで…!!」

「それでも未だこの関係が続いているのは俺が悪いんだよ。」

「……それでも俺はレーナを注意する」

「クミネ……」

頑固なこいつはこうなったら聞かない。苦笑しながらクミネの頭にぽん、と手を乗せるとガキ扱いすんなと怒られてしまった。



昼食が終わりヒルハと花畑の手入れをしていると不意に俺に覆い被さるように影が出来た。振り返ると目元を真っ赤に腫らしたレーナが立っていた。

「あーぁ…女の子がそんな目を腫らしたら駄目じゃん。こっちおいで、冷たいタオル出したげる」

「う~~」

「あーあー言ってる側から泣いちゃって…」

呻きながら涙を流すレーナの手を引いて涼しい場所へ移動する。その途中でキッチンから冷たいタオルを取ってきてレーナの目元に押し当てた。

「どうした?……あ、クミネが怒ったのか。気にしないでいいよ。レーナの方が正しい」

事情を聞こうと思ったがそう言えばクミネが後で注意するって言ってたな、と思い出す。慰めるように背を撫でるとなんで優しくするの、と更に泣かせてしまった。

一頻り涙を流し落ち着いた頃、レーナはぽつぽつと謝罪の言葉を口にした。

「ずっとね、孤児の自分が1番カワイソウなんだって思ってた。エリラナ達がここに来た時もレーナの方がカワイソウだから優先されるべきだって。」

その言葉に記憶の底で憎悪に満ちた目で俺を詰るビルドの顔が浮かんだ。

「けど違った。クミネにエリラナがどんな環境で育ったか、どうしてここに来たのか、どうして昨日…あんなことしてたのか教えて貰った。私自分以上にカワイソウな人なんていないと思い込んで、だから他の人に裏の事情があるなんて考えたこと無かった…ごめんなさい何も知らないのに酷いこと言って……」

「……別にいいよ。不幸は競うものじゃないし。俺は今が幸せだから過去はもういいんだよ。」

そう言って笑ったけれどレーナの顔は苦しそうだった。もしかしたら笑えてなかったのかも知れない。


「……だからこの話はこれでおしまい!暗い話は心も暗くなるから!…そうだ今日は絵描かないの?」

「………うん、…うん!そうだね、絵を……絵、を…」

にこりと笑顔に戻ったレーナだったがまた難しい顔をして何かを考え込んでしまった。

そして明るくなった顔で満面の笑みを浮かべた。

「エリラナありがとう!!これでスランプから抜け出せる!!そうだね!裏の事情だ!私の絵になくて宗教画にはあるもの!やっと分かった!!」

ありがとう、やっとわかったと繰り返しながら上機嫌でレーナは走り去って行った。確かに切り替えようとは言ったけれど切り替え鬼のように早いな。

けれど明るいスランプ以前のようなレーナの笑顔についこちらも笑みが零れてしまった。


そしてこの後宣言通りレーナはスランプから抜け出し、俺たちが更に絵の題材として拘束されることになるのはまた別の話だ。








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