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番外編
絵画
しおりを挟む昨日まで降っていた雨の雫が未だ残る花弁が陽の光に反射してキラキラと光っている。
頭上をバサバサ!と勢いよく飛んだ鳥を思わず目で追う。途端少女の怒声が聞こえてくる。
「エリラナ!動かないでって言ったじゃん!!」
「ごめんて…つい目で追っちゃったんだよ……」
「エリラナ様は何も悪くありません。あんな間近を飛ぶあの鳥が悪いのです!!」
「ヒルハも動かないでー!!」
絵師を目指している少女レーナの練習台になるために俺たち5人は花畑に立たされている。途中休憩もあったとはいえかれこれ2時間近くこの状態は流石にキツイ。
「もう1回休むか。」
「むぅ…まぁ兄弟子様がそう言うなら……」
「ククッ兄弟子様」
「何笑ってんだよマッドサイエンティスト」
「いえ別に~?」
ここの管理者の男性はアレクシスの弟弟子らしくアレクシスのことを説明するときに兄弟子だと言ったことから、師匠だと呼び方が被るし先生だと現在フーレ子爵が医者のような役割を果たしているため混乱する、そこで兄弟子様に落ち着いたらしい。
いくら今が秋で涼しくなったからと言って日光のもとに長時間いるのはしんどい。
日陰に入りヒルハの入れてくれた紅茶を飲む。
そこでようやく一息ついた。
周りも紅茶を飲む中レーナだけが未だ筆を動かしていた。
「レーナ紅茶飲まねぇの?倒れるぜ?」
比較的歳の近いクミネが声をかけるも集中していて聞こえないのか険しい顔のまま描き続けている。
「おーい、いつまで描いてんの休憩だぜ?流石に疲れただろ?」
「…ここは光の反射を表現したくて……けど…そうなるとここがな……」
何度かクミネが声をかけるもレーナはぶつぶつとなにかを呟きながら描き進めていく。
お手上げだと言いたげにクミネが肩を竦めて紅茶を飲む。
ここにきた2年前から何枚も彼女の練習台になって来ているので彼女が1度絵に熱中したら止まらない性だというのは知っている。
そして最近スランプ気味なのも。
王都で絵画を見たいと言っていた彼女の誕生日に転移の指輪で王都の美術館に連れて行ってあげた。
初めは爛々と目を輝かせて楽しんでいた彼女だが宗教画のあたりから笑顔が消えてしまった。
理由を聞いても別に、連れてきてくれてありがとうと言うだけで話してくれない。
それから彼女はずっと険しい顔で絵を描き続けている。
確かにそれからは絵の技術や何を表現したいか伝わりやすくなりはしたが以前のような見てるだけで楽しんで書いたのだとわかるわくわくとした感情は伝わってこなくなった。彼女はただ上手く描くことを念頭に置くようになってしまった。
俺たちは彼女の絵が好きだ。
ただ楽しそうに絵を描く彼女も好きだ。
もう少し肩の力を抜いてくれればいいのに、といつも思っている。
夕食が終わり各自部屋に戻る時、レーナを見つけた。
「レーナ」
くるりと振り返った彼女はとても疲れているように見えた。
「…なぁにエリラナ。」
「あまり根を詰めすぎるなよ。倒れたら元も子もない。」
「…そんなの分かってるわよ」
不機嫌そうに部屋へと戻ったレーナの背を見送る。かける言葉を間違えただろうか。
心配に思いながらも俺もまた部屋へと戻った。
部屋にはアレクシスが居た。
「早く来いよ」
「んー」
全裸でベッドに腰掛けている奴の元に俺もまた服を脱ぎ捨て近寄る。
マシにはなったとはいえ俺の依存性は治りきってはいなかった。恐らくこれからも治ることは無いのだと思う。
そうして俺はまた身体が熱を求めるまま、本能のままにアレクシスと交わった。
翌日、いつもならレーナが5人を集め絵を描くぞ動くな、と厳命するが今日はいつまで経っても現れない。
何かあったのだろうか、とクミネと二人で部屋へと向かう。
「レーナ?居る?どうかしたの?」
軽くノックして声をかけると中から動揺したような物が落ちる音がした。
「レーナ?入っていい?」
『……』
返事に悩んでいたようだが返事が来る前に扉を開ける。薄暗い部屋の中にレーナがぽつんとベッドに腰掛けていた。
「レーナ?どうかしたのか?」
「っ!…ぁ、……」
クミネが声をかけるとようやく俺たちが部屋に入ってきたことに気づいたらしく肩を大きく揺らした。
そして俺の顔を見た途端、頬を真っ赤に色付かせた。
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