牢獄の王族

夜瑠

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会遇編

37.

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俺のことを見ているのに俺を見ていない。何処か虚空を見つめるような瞳で彼女は問うた。

「ねぇ教えてよ。光の御子なんでしょ。なら分かるでしょ?」

「何を……」

「隠しキャラならそれくらい分かるんじゃないの!?そうよこの世界の人達みんな本当は知っているんじゃないの!?きっとそうよ!!じゃないとおかしいわ!!皆NPCなんだわ!!」

アマンダは喚き散らした。何を言っているのか全く分からないがその姿が何故かかつての名も知らぬ妹を彷彿とさせた。

「…ユルハ様お下がりください」

ヒルハが俺とアマンダの間に入る。
だが先程まで投獄されていたのだ。ヒルハは何ひとつ防具も武器も持っていない。

クミネは俺の後ろで急におかしくなってしまったアマンダに怯えていた。

アマンダはどうしてしまったのだ。それに何を言っているのだ。


「…どうして……どうしてあんたは幸せになってるの……どうして憐れに男に媚び売って生きていないの……どうしてそんなに綺麗なままでいるのよ……教えてよ……シルヴィア=クリス=ミスタ=ベルヴァニスタ……」

「……シルヴィア=クリス=ミスタ=ベルヴァニスタ…?俺のことか……?」

「な、ぜ!?何故貴様が王族の真名を知っている!?」

「は!?真名!?……おいおい…まじかよ……」

今までずっと黙っていた老人がその名に反応した。そして真名という言葉にアレクシスが顔を青くしている。
一体何を恐れているのか。


「知っているわよ。全部知っているわよ。!!」

生まれる前から……?

「なぁユルハ…あの人どうしたんだよ……怖いよ…」

「…分からない…けど……大丈夫。お前のことは守るから…」

泣きべそをかきながら縋りついてくる小さな存在が俺の心を律した。クミネを守らないといけない。いくらしっかりしているとはいえまだ子供だ。訳の分からないことだらけで心が疲れてしまったのだろう。

クミネを抱きしめてアマンダを見えないように隠してやった。

「…おい女。お前…その名が何を意味しておるか分かっておるのか……?」

「は?シルヴィアの本名でしょ?何をそんなに慌ててんのよ。」

「…それは本名ではない。…だ。」

「は?さっきからうるさいな。そんなことどうでも」

「どうでも良くない!!」

適当にあしらおうとするアマンダにアレクシスが声を荒らげた。
いつも我関せず、とした態度の彼には珍しい鬼気迫る表情だった。

「…いいか。真名はとても危険だ。それと素顔を知るだけで呪いをかけることができる。……そのせいである国は滅んだくらい危険だ。」

名前と顔を見ただけで呪いが…?国が滅ぶ…?

呆然とそれを聞き、そして先程アマンダが言った名前が俺の真名…?

顔なんてずっと知られている。

アマンダは…いや…

その事実に気づいた途端身体の体温が一気に奪われた気がした。呪いとはどうなるのか。死んでしまうのか。いや、もしかしたら死よりも恐ろしいことがあるのかもしれない。

遅れてクミネもその事に気づいたのだろう。泣き叫びながら俺へとしがみついてきた。
ヒルハは呆然と俺のことを見ている。

「は…?のろ、い……?」

アマンダは突然顔を青くさせた。

「し、知らない!!そんなの、ゲームにはなかった!!ほんとよ!うそ、だってヒロインは普通に…!妹だったから…?いや、他の攻略対象者のも知ってた!!」

「ヒロイン…?」

何を言っているのかやっぱり分からなかったがその言葉には聞き覚えがあった。妹がなにかそんなことを言っていた。

「そう、そうよ!!メリアよ!!メリアがゲームでは普通に知っていたの!!呪いなんて知らない!!」

妹はメリアと言うのか。
死んでから何年も経ってようやく知った妹の名はなんとも不思議な気がした。妹にも名前がある。そんな当たり前ことなのに妹としか呼んでこなかった、それに心の中でしか呼んだことのなかった妹のことが初めて身近に感じた。


「私は呪いなんて本当に知らないのよ!!私は…っ私はただ死後のことを知りたかっただけなの!!」


そして取り乱して叫ぶアマンダのことも初めて身近に感じた。

母のようでいて、狡猾な商人のようでいて、妖艶な女でいていつも遠い存在だった。そんな彼女を初めて1人の人間として見た気がする。




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