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会遇編
39. アマンダside
しおりを挟む冷たくて、カビ臭くて、据えた匂いのする牢獄で処刑を待っていた。稀代の悪女の私は雨が止んだら民衆の前で殺されるのだ。知らぬ人達からもその死を喜ばれて。
何も思わなかった。
だって多くの子達を殺したし、殺すより残酷なことも何度もしてきた。前世にあった「因果応報」「自業自得」「身から出た錆」いろんな言い方はあったけどそんな言葉を知っていたから人を殺す度自分も同じ苦しみ、もしくはそれ以上の苦しみで殺されるのだとずっと覚悟して生きてきた。
このおまけのような人生は酷く苦しかった。
冷たい空間でずっと今まで酷いことをしてきた人の名前や顔を思い出して自分のしたことを再確認した。処刑ですら生ぬるいと言いたくなるほどこの世の私はクズだった。
取り返しようのないほど性根の腐った人間だと再確認して、けれど前世はくそ真面目だったな、と他人事のように考えた。
お堅い教育ママと昭和的な考え方のパパに育てられた私はずっと大人の求める優等生で、同級生からは大人に媚をうるいいこちゃんだった。最期の方で嵌められてみんなが私のことを責めるまで良い子な私はきっと皆私が不正なんてしていないと気づいてくれると何の根拠もなく信じていた。
けれど誰もに責められて耐えられなくなった私は最期の復讐としてリビングで私のことについて言い合っていた両親の目の前で自分の首をカッターで切ってやった。
両親が呆然として次の瞬間顔色を変えて慌てふためき出したのは愉快だった。
転生してからもずっと憎かった。
けれど今になって漸く思い出した。
あの日両親は私が虐められていることに気付き、カンニングもきっと嵌められたんだとやっと気づいてくれていたのだ。だから転校させようという母と何も悪いことをしていないのに逃げるように転校するなんて嫌だという父とで喧嘩していた。あれは私のことを責めていたのではない。私を救おうとしてくれていたのだ。
なのに私はそんな2人の前で最も残酷な復讐を遂げてしまった。もうふたりの会話なんて内容が分からないほど私は壊れてしまっていた。
ごめんなさいママ、パパ。大好きなの。あんな一生トラウマになるようなことしてごめんなさい。許して。大好きなのよ。
無性にママとパパに会いたくなった。厳しい家庭だったけど夏休みには2年に1度家族で旅行に行った。厳しいけれど優しくて沢山の愛情を注いでもらっていたのにどうして私は2人を信じてあげられなかったのだろう。
なんて愚かだったのだろう。
会いたい。
どうしたら会えるの。
私は沢山悪いことをした。きっと地獄に行く。
でも2人は天国に行くだろう。
ねぇ、神様。
どうしたら2人に会えるの。
どれだけ長くかかっても絶対罪を地獄で反省するから。
だから数秒でもいいから2人に合わせてください。
会いたい。会いたい。
気づけば私はシルヴィアに縋りついていた。
光の御子なら知っているでしょう?貴方にも沢山酷いことをした。ごめんなさい。ごめんなさい。謝ってどうにかなることではないけれど、どうか哀れと思うならパパとママに合わせて欲しいの。
いいえ、場所さえ教えてもらったら頑張って自分で会いに行くから天国の場所だけでいいから。
どうかお願い。一度だけ。パパとママとハグをさせて。ごめんなさい。大好きよって言わせてください。
首を切った時馬鹿な私はあんなに素敵な両親に酷いことを言ったの。馬鹿な私は「ざまぁみろ」といった。復讐してもいいくらい2人が最低の親だと勝手に思い込んで勝手に復讐した。
ごめんなさい。本当はそんなこと思ってないのよ。
どうか神様。お願い。どんな罰も受けるから。
けれどやはり神は私を赦してはくれなかった。それもそうか。償いきれる量の悪事ではないわ。
シルヴィアは地球のことすら知らなかった。
そんな当たり前のことに絶望した。
あの日メリアが処刑された日。彼女もこんな気持ちだったのだろうか。彼女は私という縋れる転生者がいたのにどうして最期まで黙って逝ったのだろう。
私はこんなに醜く取り乱しているのに。
こんな私が両親に会うなんて願い叶えて貰えるわけないか。
どうしてもしかしたら、なんて思ったのかしら。転生者だから神に優遇されているとでも思い上がってしまったのだろうか。なんて愚かなのだろう。私はただ罪を受けいれ何万何億とも言いきれぬほど長い間地獄で罪を償う未来しかないのに。
なら、最期に1つくらい善行をしておこう。
最愛の両親の娘として恥ずかしくない最期を送ろう。
「ねぇ、この国…ロイ達から逃げたいんでしょう?」
稀代の悪女として私は潔く散ろう。
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