牢獄の王族

夜瑠

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会遇編

40.

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アマンダは続けた。

「太古の昔、まだ国なんて出来てなくて各村で生活していた時から光の御子は存在していた。当時の光の御子は各村を回って世界中に幸運をもたらしたと言われているわ。」

言われてみればそんな本を読んだ気がする。そんなに大昔から光の御子がいたんだな、くらいにしか思ってなかったけど。

「けれど、国ができて、縄張り争いから発展して戦争が始まり、段々と光の御子が産まれることが少なくなるにつれ、いつからか『光の御子は国から出ることが出来ない』とされるようになった。それは加護の問題じゃないの。国境に光の御子の魔力が通過出来ない結界が敷かれているの。」

「結界……でも、それこそどうにもならないんじゃ……」


俺は加護こそあるが特に魔法が得意な訳では無い。唯一俺を守る無意識的な加護すら封じられてしまう国境で何をどうすれば良いのか。

不安げな顔をする俺にアマンダはバカにしたように笑う。

「国境に結界があるなら

「……は?国外に行く方法を教えてくれるんだろ?」

「そう。だからわざわざ国境を跨ぐ必要はない。」


訝しげな表情の俺にアマンダはとっておきの悪戯を披露するかのように得意げな顔で告げた。


「──転移魔法を使えばいいのよ。」


「…なっ!?それこそ伝説級の魔法じゃないか!!結界を壊すことより夢物語だろ!」



思わず漏れた声にハッとして、密談しているのが気づかれていないか辺りを見る。だが、ヒルハ以外は各自話し合いが大変そうでこちらを見ているものはいない。ヒルハは未だ射殺しそうな瞳でこちらを見ている。


「ふん、原作ならあんたが作ってたんだけど代わりに私が作ってやったわ。私の記憶力に感謝するのね。」

「え?なに?」

「別になんでもないわ。私が特別に魔道具で転移ゲートを作ってあげたわ。精度は完璧。これなら結界に阻まれることなく隣国に行けるわ。」

「え、本当に……?」


信じられない。
転移魔法なんて何十、何百年も前に廃れてしまった魔法だ。とはいえ、当時も使えたのは数少ない人数だったと聞いているが。そんな魔法が魔道具とはいえ再現出来るはずがない。


そんな思いが通じたのかアマンダはドヤ顔で感謝しなさいよね、と胸を張った。


「王都の東にある山に1つの小さなお墓がある。その墓に魔力を通せば次の瞬間には隣国よ。手を繋いで置けば何人でも一緒に行ける。隣国に渡ったあとは指輪になって指に嵌るから何回でも思い浮かべれば転移出来るわ。」

「……東の山のお墓……何度でも……指輪……」


転移ゲートの精度の高さに言葉を失う。正直あまりにも荒唐無稽で信じられるかは別だがそれを試す以外俺にはどうすることも出来ない。

そして話の中で気になった。どうして彼女はそれさえ身につけて置けばどこにでも逃げ放題だったのに城に囚われているのだろう。
しかし口ぶりからして彼女は逃げる気がないように思えた。


「……アマンダも一緒に隣国に行かない?」


そう言うと彼女は驚いた顔をして一瞬泣きそうな顔をした、けれどすぐにいつもの気丈そうな顔をした。

その顔に『嗚呼、彼女はここで死ぬつもりなんだな』と悟った。悟ってしまった。

見世に売られたけれど俺は彼女にそんなに酷いことをされたように思っていない。
だってアルに化け物と言われて城から逃げ出したかったに逃げ場を与えてくれたのは彼女なのだから。彼女に言葉を教えてもらい、マナーを教えてもらい、常識を教えてもらった。

物語にでてくる優しい母や姉はこんな感じなのだろうかと夢想した。

世間では彼女はとんでもない悪女なのだという。きっと俺が知らないだけで多くの悪いことをしたんだと思う。

けど俺はこの初めて優しくしてくれた人に幸せになって欲しい。


「……私は…この国が好きだから出ていかない。けどまたあの日のようにこっそり逃げ出すわ。」

「……そっか…」

彼女はまた得意の嘘を吐いた。けれどそれは彼女らしくないとても拙い嘘だった。


俺の光の御子の加護で彼女の望みを叶えてあげたいな。

チキューってところにいる両親に会いたいんだっけ。いや、天国にいる両親?

分からないけど彼女が望む両親の元へ会いに行けるように心から願った。

これから先の光の御子の加護はもういらないから彼女の求める幸せを。私の唯一無二のへ。





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